悪質ホストによる売掛金トラブルが社会問題化した2023年後半。
国会でも議論となり、警察庁長官が歌舞伎町を視察した。

歌舞伎町を視察した露木警察庁長官
歌舞伎町を視察した露木警察庁長官
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悪質ホストはどのようにして、“悪質”と呼ばれるようになったのか。私たちの取材に、常連の女性が、ホストの“テクニック”と、歌舞伎町に渦巻く感情を打ち明けた。

「自分の理想の男の子が、『好きだよ』って言ってくれるんですよ。ほめてくれて、自己肯定感上げてくれて、世の中の男じゃ物足りなくなりますよ」

ホストの魅力を語る、20代のマリカさん(仮名)。大学卒業後に、日中の仕事―彼女たちの間では“昼職”と呼ぶ―会社員のかたわら、副業で夜間は風俗関連の仕事=“夜職”でも働いていた。同棲していた恋人に浮気されたことで、友達と『浮気されたし、ホストでも行こう』と、憂さ晴らしのために歌舞伎町に足を踏み入れた。恋人からのDVにも悩まされていて、「“救い”が欲しかったんです」と明かす。

“救い”を求めて通い始めた歌舞伎町。“理想の男の子”であるホストにハマり、連日のように通いつめ、今年で3年目。もともと副業だった“夜職”の方が稼ぎも良く、ホストにも通いたいからという理由で、昼の会社員は辞めたという。

「お茶を引かせない」ー“担当ホスト”の顔をつぶさないために散財

「最初はめっちゃ優しくするんですよ。毎日のように連絡が来て、『10分でも会いたい』って会いに来てくれる。女の子の日常に入り込んでくる」

店に通い始めると、たとえマリカさんが来店していなくとも、「会いたい」、「ご飯食べに行こう」と頻繁に連絡が来るように。また、ホストたちにとっては、どうしても自分の指名客を呼びたい日があるという。ホストたちの誕生日やバレンタイン、ハロウィーン、はたまた、店同士で売り上げを競い合う対決など、さまざまなイベントが行われる夜だ。

「イベントの時、ホストたちは“お茶”(指名客が誰も来ていない状態)が一番まずい。そういう日は『1時間だけでもいいから』って連絡が来る。それならいいかな、と店に行く。(売り上げ)バトルイベントだったら、『俺も頑張りたいんだけど』ってシャンパンを頼んでくる。いうなれば、ホストの見栄のために、顔をつぶさないために女の子たちはお金を使う」

“お茶を引かせない”“メンツをつぶさせない”-こうした推し活心理につけ込み、搾り取っていくという。

連絡回数を減らし、ケンカし、依存させ・・・最終的には「お金で示して」

「1時間だけ」を繰り返していくたびに、女性たちがだんだん離れられない、断れない状況を作っていくホストたち。ホスト通いが日常に入り込んできてからは、ホストたちは、マメに連絡していた序盤とは逆の作戦に移行するという。徐々に、SNSなどの連絡頻度を低くするというのだ。短い時間でも会いに来ていたホストが会いに来なくなる、だからまた店に行かなくちゃ・・・。さらに、ホストはあろうことか、客である女性に、“ケンカ”をふっかけるようなことをしてくるという。

「ホストが女の子に『もういいわ、お前』とか言う。大抵の女の子は『なんでそういうこと言うの?』ってなるんです。そうするとホストたちは『お金で示して』って」

依存関係となった女性たちは、気がつけば、高額なシャンパンなどを断れずに注文することに。払えない分はそのまま”売り掛け“をすることになる。マリカさんにも売り掛けをしたことがあるのか尋ねると・・・。

「今月も売掛金ありますよ。でも私は、売り掛け制度はなくす必要ないんじゃないかと思う」

水商売である以上、稼げる額が毎月不安定だと話す彼女は、自分の収入とのバランスを考え、あらかじめ売り掛けする値段を決めているという。ホストにも、無理なら断っていると話すが…

「ホストにシャンパン頼まれたら、大抵の女の子は断れないのかなと思います。断っているのに、無理矢理お酒を席まで持ってくるホストもいます。私は成人してからホストに通い始めたけれど、今は10代の子もホストクラブにいっぱいいます」

今、18歳・19歳など10代の女性がホストクラブに数多く来店しているという。ホストたちは10代女性に対しても、「(売り)掛け作っても、そういう仕事(風俗や売春など)すればすぐだよ!」などとささやき、10代の女性たちは自分が飲むこともできないシャンパンを入れていく。

またホストたちは売り上げを上げるために、“病み営”(病み営業)という「シャンパンおろしてくれないと俺終わるから」などと半泣き状態で頼み込んだり、女性たちと交際関係にあることを利用する人もいる。

17歳の女子高校生に付き合っていると思わせて170万円「お前の力が必要だ」

マリカさんが指摘するように、10代の女性がホストにつぎ込む例はあとを絶たず、事件にも発展した。この時も、恋愛感情を悪用した例と言える。

今年11月、歌舞伎町のホストクラブで20代のホストが30代の経営者とともに、17歳(当時)の女子高校生に酒を提供した疑いで警視庁に逮捕された。経営者の男は逮捕後、「17歳とは知らなかった」と話したという。(経営者はその後、起訴猶予で不起訴処分、20代のホストは略式起訴され、罰金の略式命令)

女子高生が指名したホストとの出会いは、配信アプリだった。ほどなくして、女子高校生はホストと歌舞伎町で直接会うようになる。出会いから1カ月後、ホストから「付き合おう」と告白されたという。

さらに1カ月たったころ、ホストは交際相手となった女子高校生に「No.1になるためにはお前の力が必要だ」と言い、自身が働くホストクラブに連れて行った。この日、女子高生はホストクラブで、人生で初めてのお酒を飲んだ。“彼氏”のはずのホストは、ほかの客の保険証とキャッシュカードで、年齢を偽って彼女を入店させていた。

“自分の好きな彼氏のため”女子高校生はその後、3カ月間で34回来店して、173万8700円を使った。大金を払うために、「パパ活」や風俗で働き、さらに大久保公園の周辺で売春の客待ち行為である“立ちんぼ”を行い、50人ほどの客を相手した。20代のホストには最初から恋愛感情はなかったのか、逮捕後に「自分の売り上げを上げるためにお酒を飲ませた」と供述した。

女子高校生が“立ちんぼ”をしていた大久保公園周辺では、今年に入り、すでに140人が売春の客待ち行為で現行犯逮捕されている。そのうち、約4割はホストクラブなどで遊ぶためや売掛金の返済のために“立ちんぼ”をしていた。高額に膨れ上がった売り掛けなどを払うために、日夜、路上で若い女性たちが立っているのだ。

歌舞伎町のホストクラブ経営者らと新宿区の連絡会
歌舞伎町のホストクラブ経営者らと新宿区の連絡会

このようなホストをめぐるトラブルが相次ぐ中で、12月13日、歌舞伎町のホストクラブ経営者らと東京・新宿区が連絡会を開き、来年の1月から20歳未満の新規客を入店させないなどの自主規制の方針を発表した。また警視庁は12月25日に、新宿少年センターにホストクラブなどの犯罪被害相談窓口を開設し、体制を強化した。年齢や居住地は問わず、保護者など「誰でも気軽に相談してほしい」と呼びかけている。

「歌舞伎町は子どもたちにとっての居場所ではない」

ホストが狙う女性には、ある共通点があると、マリカさんは話す。

「ホストは収入が少なくても“1人ぼっち”が寂しいと思う人を狙うんです。これはテンプレ(基本)です」

マリカさんによると、ホストは、友達が少ない、家族と疎遠、いじめられた経験があるなど、さみしさを抱えた人たちに狙いを定めていくと話す。そして、ホストに通う女性たちの多くもまた、“逃げ道が欲しい”“行き場がない”のだ。取材に応じたマリカさんも「楽しい時間をくれたお礼にシャンパンを入れたかった」とホストへの感謝の言葉を口にした。

このような現状に対して、ある警視庁幹部は「家庭・学校に居場所がないと言う子がいる。けれど、悪意のある大人がひしめいている歌舞伎町は、子どもたちにとっての居場所ではない」と断言する。

新宿区吉住健一区長
新宿区吉住健一区長

未熟さが残る10代の恋心をも利用し、売春など犯罪行為をさせてまで金を稼がせ、搾取する大人がいる歌舞伎町は、危険な街であることは間違いない。また、新宿区の吉住健一区長も「歌舞伎町には自分のお小遣いで遊べない人は絶対に来ないこと」と呼びかけている。

女性に犯罪行為をそそのかす。売掛金を払えと暴力を振るう。判断能力が乏しい未成年につけ込んで、体も金も搾取する“悪質ホスト”がいる。

被害相談窓口を知らせるチラシ
被害相談窓口を知らせるチラシ

“悪質ホスト”が急激に取りざたされるようになって約2カ月。急ピッチで打ち出される対策や規制で歌舞伎町はどこまで変わることができるのだろうか。
【取材・執筆:フジテレビ社会部警視庁クラブ 林理恵】

林理恵
林理恵