「教員離れ」が深刻化している。文部科学省によると、2023年度の公立小中高校などの教員採用倍率は、3.4倍と過去最低だった。2022年度中に精神疾患で休職していた教職員が過去最多となるなど、その激務が教員離れの原因の1つとみられる。

子ども達の教育という、社会的に重要な役割を担う教員たちの現場で、今何が起きているのか?現役の小学校教師に話を聞くと、教育ではなく保護者への対応ですり減っていく、厳しい現状が見えてきた。

保護者から1日何度も電話 「授業準備もできない」

現在、小学校で教鞭を執っている現役の30代の男性教師は、子供と接することが好きで、夢見ていた教師の仕事に就いた。しかし、頭を悩ませているのは、保護者対応だという。

教室におしかける保護者も…   画像はイメージです
教室におしかける保護者も…   画像はイメージです
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男性教師が働く小学校では、最近いじめの被害を訴えた児童がいた。学校はすぐに担任や生徒指導担当者、学年主任で会議を開いて対応について話し合い、被害を受けた児童の登下校に教師が付き添うなどの措置もとった。

しかしそれでは不十分だったのか、男性教師の電話は保護者からの着信で鳴りやまないという。

男性教師(30代):
「1日5回くらい同じ保護者から連絡が来る。『管理職は知っているのか?』『教育委員会にこの案件は伝わっているのか』などと聞いてきたり、『学校でどういう話をしているのか』と詰問してくる保護者もいる。保護者からの連絡を受けて、その後、学校でも会議を行うことから帰りは夜の10時くらい。こういった事が起きている期間は、授業準備は何もできない」

教室に保護者が現れ授業がつぶれることも

男性教師によると、管理職にも報告している旨や学校内での話し合いの内容を伝えても、納得がいかない保護者もおり、こうした状況が1年間続く事もあるという。

保護者対応で疲弊する教員も…   画像はイメージ
保護者対応で疲弊する教員も…   画像はイメージ

さらに、保護者の要求は電話だけに留まらない。授業のために教室に行ったら、その場になんと保護者がいた事があったという。そこから保護者との話し合いが始まり、1時間目と2時間目の授業はできなかった。

男性教師(30代):
「自分の子供が一番大事なので、守ってあげたいとかそういう気持ちはわかるが、中には感情が高まり、怒りの矛先が相手の子供や学校に向くこともある。こういった保護者の感情を整理するのが大変」

教員不足でいじめの早期発見も限界

いじめを防ぐために、多くの教師は日々努力している。だが、保護者対応の負担が大きくなるほど、その分、教師が教室で子供と過ごす時間が少なくなり、いじめの未然防止に向けて取り組みに回す人手がなかなか足りないという。

男性教師(30代):
「いじめの防止と、すでに起きてしまったいじめやトラブルの対応のために、なるべく大人の目を増やしたいが、教員が手一杯で難しい。ぎりぎりの人数でやっているため十分な対応はできない」

こうした現状を改善するために、男性教師は、子どもの話を聞く「カウンセラー」の強化を訴える。だが、カウンセラーは月に数回来るだけというのが現状で、「カウンセラーが巡回ではなく常駐していれば、いつでも対応してもらえるし、子どもだけではなく、教員の負担も軽くなる」と話していた。

文科省の対策は

文科省は、教員OBをコーディネーターとして保護者の過剰な要求に対応させるモデル事業を、2024年度から全国の6つの都道府県と17の市区町村で始める。

教員OBが保護者対応するモデル事業が2024年度から
教員OBが保護者対応するモデル事業が2024年度から

このモデル事業では、教員OBのコーディネーターとして学校や保護者から直接相談を受けながら解決策を見出していくという。結果について、文科省は全国の教育委員会にフィードバックする方針だ。

林英美
林英美

社会部文部科学省担当。警視庁捜査一課担当、サブキャップを歴任。