シカやキジでつくったアクセサリーを山の展望休憩所で販売している猟師がいる。値札はついていない。アクセサリーの値段は客との会話から生まれる。なぜ妹の死をきっかけにアクセサリーづくりを始めたのか。
1日約600人が訪れる展望休憩所

静岡市葵区の山間部、通称「オクシズ」。
この場所に小さな展望休憩所がある。県内外からの観光客や地元の人など多い日には、1日約600人が訪れる。
休憩所では静岡おでんやラーメンなど食事も提供していて、客からは「おいしい」と喜ばれている。

客と会話を楽しんでいるのは、猟師の岡本直也さん(35)。5年前、静岡市葵区の市街地からこの地に移住してきた。
「不便を楽しむ」がモットーの岡本さんは、電気が止まったらロウソクを焚いてその雰囲気を楽しみ、水が止まれば水場を直して楽しみながら生活している。
岡本さんは移住後、新型コロナなどの影響で休業が続いていたこの休憩所の運営を、地元の人たちの後押しもあって引き継ぎ、2023年で3年目を迎える。
シカの角やキジの羽のアクセサリー

休憩所にはシカの角で作ったネックレスやキジの羽をあしらったピアスなど、岡本さんが制作したこだわりのアクセサリーが並ぶ。

ニスは塗らず、紙やすりや研磨でつやを出す。
シカやキジは農作物に被害をもたらす有害鳥獣として、駆除の対象に指定されている。

販売されているアクセサリーには値段がついていない。岡本さんと客が会話をしながら商品に合った価格を決めて、お互いが合意した金額で売買されるそうだ。

休憩所を営業する傍ら、岡本さんは猟師でもある。この日、仲間とともに険しい山道を進むこと約10分。岡本さんは何かを感じた様子。
木々が生い茂る急斜面にシカの気配。さらに歩みを進めると、そこには半分だけ残された葉っぱが…。

「シカが柔らかい先の部分だけ食べて半分残していく。だからこの辺はシカが通って食べた後」と岡本さんは教えてくれた。
鷹が獲物を獲る姿にほれて
捕獲した有害鳥獣はそのまま埋められてしまうことが多いものの、岡本さんは有効に活用したいと考えている。

アクセサリー作りではシカの角を切り出し、やすりを使って自然な艶を出すまで1週間ほどかかる。岡本さんは「親指がけんしょう炎になりそうなぐらい痛くなる。私の思い入れがすごく強いので、お客さんが本当に気に入って連れて帰ってもらえるのが一番うれしい」と笑顔で話していた。

岡本さんが狩猟に興味を持ち始めたのは17歳の頃。
最初は鷹狩りをしていたが、鷹が獲物を捕る姿に惚れ、自分で獲物を捕る狩猟を始めた。そして獲物から作品を制作するようになった。
命への考えが変わった瞬間
岡本さんが22歳の時、人生を変える大きな出来事があった。妹を病気で亡くした。亡くなるまで岡本さんも両親も、妹が回復して普通の生活に戻れると思っていた。だから両親から「最期になるかもしれないから一緒に旅行に行こう」と言われても、岡本さんは行かなかった。

猟師・岡本直也さん:
妹が亡くなった時に、すごく後悔しました。なんでもっとたくさん話をして、たくさん思い出を作れなかったのか…
妹のゆりかさんは20歳でこの世を去った。そして、岡本さんの命への考え方が変わった瞬間でもあった。

その後 駆除された動物の肉や骨をしっかり活用していこうと考えるようになり、アクセサリー作りを始めた。

猟師・岡本直也さん:
こと人間に関しては亡くなってしまってからでは、どうしようもできないんですよね。想いを募らせることしかできない。(動物は)捕る前は、どういう生活していたか把握できないけれど、捕った後は何があったか自分がわかっている。だからこそ最大限に利用してあげたい
「狩猟の現実を知って」

「命を無駄にしない」が岡本さんの信念だ。そして狩猟について多くの人に知ってもらいたいと考えている。
岡本さんは「今の狩猟の環境がどういうもので、どういう現実があるのかを知ってもらえるだけで満足です。それが一番うれしい。感謝の一言に尽きる」と話す。
命を大切する取り組みはまだ始まったばかりだ。岡本さんは今後 野生動物の解体処理施設を作り、ジビエ料理も提供していきたいと考えている。
(テレビ静岡)