大阪で格安補習塾「寺子屋ここや」を経営する、お笑い芸人・笑い飯の哲夫さん。

その経験から『週刊SPA!』(扶桑社)で、画期的な子育て論を連載してきた。

著書『がんばらない教育』(扶桑社)は、その連載をまとめたもので、言葉遣い、学校生活、進路など、子育てに対するさまざまな悩みを哲夫さんの独特な視点でアドバイスしている。

今回のテーマは進路。一部抜粋・再編集して紹介していく。

地元の大学?奨学金を借りて東京へ?

<お悩み>48歳男性・自営業(妻、長女17歳)

●奨学金を借りてでも東京の大学に行かせるべきか


大学受験を控えた娘と、進路のことで揉めています。親としては、自宅から通えて無理なく学費も支払うことができる地元の国公立大学に通ってほしいのですが、娘は志望する学部が東京の私立大学にしかないし、将来も東京で働くつもりだから、東京の大学に進みたいと言います。

その場合、学費分は親の収入で賄えると思いますが、独り暮らしの費用を考えると本人のアルバイトに加えて、奨学金を借りるしかありません。

行きたい大学に行ってほしい、やりたい道に進んでほしいとは思いますが、奨学金の返済に苦しんでいる人のニュースも目にします。東京の大学に進むことを後押ししていいのでしょうか。

希望を尊重しつつ様々な可能性を提案

返還の義務がある奨学金を、貸与奨学金といいます。貸与奨学金の借入総額は一人平均300万円以上になるようです。奨学金を借りたほとんどの学生は、大学を卒業すると返還を始めていきます。

毎月1万5千円を返すとしたら、300万円完済するまでに17年ほどかかります。どうでしょうかお父さん、お嬢さんは将来、自分が選んだ仕事を邁進しながら、借りていたお金を17年間返しそうですか。

返しそうな雰囲気を醸していらっしゃったら、ぜひ後押ししてあげてください。一生に一回の大学生活になるでしょうし、やらせてあげたいですよね。

具体的な後押しとしては、やはり貸与奨学金を教えてあげてください。親御さんの所得によって無利子か有利子かは変わりますが、有利子でもそんなに金利は高くありません。

つまり、「将来の自分が大学生の自分に仕送りをして東京で暮らしていく覚悟はあるか」と、確認していただきたいです。地元を離れた大学生なら、大抵の学生が親から仕送りを受けているのではないでしょうか。

お嬢さんが、みんなと同じように仕送りもご両親から欲しいと言った場合は、「無理」と返すしかありません。ぜひ奨学金の話をしてください。

子どもと「働きながら返せるか」話し合ってみよう(画像:イメージ)
子どもと「働きながら返せるか」話し合ってみよう(画像:イメージ)
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地元の国公立大学に自宅から通わせたいというお父さんの意図は、今のお嬢さんからすると、全く興味のない路上ミュージシャンの歌を4年間毎日聴き続けなければならないような難儀だと考えられます。

でももし、地元の国公立大にお嬢さんが目指している学部によく似たコースがあって、そこの出身者がお嬢さんの就きたい職業に就いているとしたら、考えを変えてくれる可能性はあります。地元の国公立大の学部や学科、専門のコースなどを徹底的に調べてください。

また、似たようなものを見つけ次第、卒業生の職業や展開を調べてください。案外、地方の大学にもユニークな学科が登場しています。

相談文にある地元を勝手に田舎だと把握させてもらいますが、空気のいい、自然に囲まれた場所で学問を修めるのは、自由な発想が促進されそうですし、お勧めですよ。

お嬢さんは今、大ヒット中のミュージシャンに会うため、チケットを勝ち取ろうとしていらっしゃいます。

家の前でいつもエレキギターを大音量で弾きながら歌っていた路上ミュージシャンは、お嬢さんにとって今まで迷惑でしかなかったけど、よく聴くとお嬢さんへのラブソングだったとしたら、お嬢さんはどう思いますかね。なんとも思いはりませんかね。

娘がスマホとアイドルに夢中…

<お悩み>42歳男性・会社員(妻、長女11歳)

●中学受験前の娘がスマホ三昧でやる気ゼロ


東京郊外の小学校で学年で1番だった娘。中学受験を決意し、意気揚々と小学5年から塾に通いはじめましたが、早くから受験準備を始めていた子にはかなわず、現状中の下程度の成績です。

今の成績では行ける学校も限られるし、私学に行くメリットがないと思い、合格請け負い人として名高い家庭教師を頼んだのですが、1コマ2万円!

それでも成績が上がる気配はなく、娘は嫌気が差したのか目を離せばスマホ三昧でアイドルグループJO1に夢中です。

やる気がない子に無理をさせても仕方がないと思いつつ、やる気さえ出せばもっと上に行けるのではとあきらめきれません。受験まであと一年、どうすべきでしょうか。

スマホの使い方を決めて集中力を養おう

アイドルに熱中するのは年齢的に正常なことですが、アイドルを楽しみたいならテレビかコンサートが最良だと教えてあげてください。

アイドルのあまり聞けない話を聞きたいなら、ラジオが最高だと教えてあげてください。スマホは人間にだらだら使うことを促す機械です。

受験生にだらだらは相応しくありません。ということで、スマホの使い方をお嬢さんと決めておくのが良策だと思います。

例えば、一回いじりだしたら1分で終わる、1分以上いじっていたら没収する、いじる間隔は1時間以上空ける、1時間以上間隔が空いていないのにいじったら没収する、とかです。

1年間守れたら何か買ってあげる約束も忘れずにお願いします。

スマホの使い方は子どもと決めておくことが大事(画像:イメージ)
スマホの使い方は子どもと決めておくことが大事(画像:イメージ)

ぜひポケベルを買ってあげてください。若者に怒られるかもしれませんが、正直、小学生や中学生にスマホは必要ないと考えています。

自分の小中学生時代を思い出しても、やはり必要ありませんでした。いや、必要ありませんでしたではなく、ありませんでした。ありませんでしたから、スマホに時間を奪われることもありませんでした。では、スマホをいじる代わりに何をしていたかと申しますと、専ら想像をしていました。

脳みそを研究していらっしゃる先生に、スマホは脳によくないと教えてもらいました。受験勉強に大切な集中力にも影響するそうです。実際、スマホに没頭している時の集中力は、スマホ以外のことに没頭している時の集中力に比べて低いそうです。

確かにスマホには機能が詰まりすぎています。天気を見ながらすぐに株価を見て、その後すぐにSNSを見て、その中に出てきたかわいい女の子の名前を検索して、検索したところに書いてある言葉が気になったらその意味をすぐに調べて、調べている最中にメールが届いたお知らせに釣られてメールを見たりします。こんなふうに情報を転々と渡り歩いていたら、集中しているわけないですよね。

それどころか、集中の主たる対象が定まっていません。おかげで、「さっき何を調べようとしてたかな」が連続する日々になってしまいました。その点、想像は集中できます。

アイドルの子と偶然マンションのエレベーターで一緒になって、偶然ですが同じ階で降りて、偶然、いや必然的に部屋が隣で、不安だから部屋に泊めてほしいと頼まれ、その子を部屋に招き入れて、ほら、完全に集中していますよね。集中の主たる対象が突出しています。

それにしても、学年1番だったとはすごいですね。相当、集中して勉強されてきたのですね。JO1のコンサートで熱狂している自分を想像させてあげれば、受験勉強も自然と集中できます。

ぜひ合格通知はポケベルに届けてもらってください。あ、ポケベルはもうサービス終了していましたね。

『がんばらない教育』(扶桑社)

笑い飯・哲夫
1974年、奈良県生まれ。関西学院大学文学部哲学科卒業。2000年に西田幸治と漫才コンビ・笑い飯を結成し、2010年にはM-1グランプリで優勝。賞レースで結果を残す一方『えてこでも分かる笑い飯・哲夫訳 般若心経』(ヨシモトブックス)など著書多数

笑い飯・哲夫
笑い飯・哲夫

1974年、奈良県生まれ。関西学院大学文学部哲学科卒業。2000年に西田幸治と漫才コンビ・笑い飯を結成し、2010年にはM-1グランプリで優勝。賞レースで結果を残す一方『えてこでも分かる笑い飯・哲夫訳 般若心経』(ヨシモトブックス)など著書多数