大阪で学習補習塾「寺子屋こやや」を経営するお笑い芸人、笑い飯の哲夫さん。

両親ともに高卒で共働きの家庭で育ったが、地元の進学校、大学へと進学。

かつては自身の進学を「自力でやりとげた!」と考えていたが、周囲の支えがあったからだと痛感し、「支える側に回れたら」と思い、立ち上げた。

そんな子どもの未来を考え、行動に移している哲夫さんが考える「子どもとお金」というテーマ。

『週刊SPA!』(扶桑社)で子育ての悩みに答える連載をまとめた、哲夫さんの著書『がんばらない教育』(扶桑社)から、一部抜粋・再編集して紹介していく。

お金の尊厳を早いうちに教えよう

まずは、子どもたちにお金を盗まない子になってもらわなければなりません。

だから子どもには、大人が仕事をしてお金を稼いで、そのお金で君たちを育てているのだよという昔からの真理を、さらっと日常的に教えてあげることが何よりも大切なのではないでしょうか。

お金は大人たちの一生懸命の努力が等しく交換された逸材であることを認識させてあげると、そこにたやすく触れてはいけないという畏敬の念が生まれると思うんです。

子どものころ、聖徳太子や伊藤博文が描かれたお札なんて、畏敬でしかありませんでした。

子どもの頃勝手にお金を触ってはいけないと思っていた…(画像:イメージ)
子どもの頃勝手にお金を触ってはいけないと思っていた…(画像:イメージ)
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岩倉具視も安めでしたけれど畏敬でした。食器棚の抽斗に、応急の紙幣がこっそり入れてありましたが、その抽斗を開けることすら憚られるほどでした。大人の所有物、という大きな概念がその抽斗には詰まっていたのです。

同じ抽斗には大きながま口もありましたが、そこから硬貨を勝手に取って駄菓子を買いに行ったこともありませんでした。やはり勝手に触ってはいけないと思っていたのです。

遅くまで残業して、時には夜勤で生活を反転させながら働いてくれた父、遅くまで残業して、帰ってきたらすぐに料理や洗濯をしてくれた母、そのありがたみをリアルタイムで教えてくれた祖父母がいる環境は、お金に対して幼少の頃から崇高な概念を養ってくれました。

格言「お金で遊ぶな」も教えたい

一万円札が福沢諭吉になり、何年か経ったある日、衝撃的な出来事がありました。愉快な同級生が自分の財布から一万円札を取り出し、机の上で細かく折りだしたんです。

その刹那、こいつお金に対してなんていうことしてんねん、と思いました。そして、「見て見て。めっちゃ笑ってない?」と、そいつは聞いてきました。

見ると、普段の澄ました福沢諭吉先生ではなく、スケベそうに笑っている福沢諭吉先生がいました。そして、不覚にも笑ってしまったのです。そのことを瞬時に悔やんだことを覚えています。

「お金で遊ぶな」という格言も、子どもには教えていきたいと思います。教科書は破ってはいけないものだと教えずに教科書を破る子を育ててしまうと、その子は教科書とトイレットペーパーをごっちゃにするかもしれません。

保険証を真っ黒に塗ってはいけないよと教えずに保険証を真っ黒に塗る子を育ててしまうと、その子は保険証と習字の失敗した半紙とをごっちゃにするかもしれません。最近かっこよく言われるリテラシーって、そんな感じで養われるもんやないですかね。

お金の尊厳に加えて、使うことも大事だと教えたい(画像:イメージ)
お金の尊厳に加えて、使うことも大事だと教えたい(画像:イメージ)

十分にお金の尊厳を会得させたら、次は、貯め込むと経済が停滞することも教えたいんですよね。だから、子どもがお小遣いを貯めて、なにか夢の買い物を成し遂げたときには、思いっきり褒めてあげようと思います。

中学生になった息子が一生懸命お小遣いを貯めて、学生ズボンの変形ズボンを買ってきたら、微妙な線引きのところではありますが、タックが入ってなければ褒めてあげたいと思います。

高校生になった娘が一生懸命お小遣いを貯めて、短すぎるスカートを買ってきたら、大いに褒めてあげたいと思います。冷えないように、パンストかタイツをプレゼントしてあげるつもりです。

意外と“辛かった自慢”が種になる

また、親が子にどれくらいのお金をかけるかですが、子どもは可能性の塊みたいな存在ですから、習い事などは無理のない程度でできるだけかけてあげるのがいいと思っています。

これにしても、ケチるより使うほうが経済も回りますからね。そして経済が正常ないし正常以上に回ってくれたら、また家庭で使えるお金も増えますよね。ただ個人的に、贅沢は絶対にさせたくないと思っています。

グリーン車に乗っている子どもを見ると、まじでええやつになってくれよ、と念じてしまうくらいです。

では、今考えている、わが子たちへのお小遣いの月々の金額を記しておきます。

小学1年生0円、小学2年生0円、小学3年生0円、小学4年生100円、小学5年生200円、小学6年生300円、中学1年生500円、中学2年生1000円、中学3年生1500円、高校生2000円、とこんな感じですが、みなさんいかがでしょうか。

おそらく、安いと思われたかもしれません。

ただね、19歳くらいになったとき、友達とどういう話で盛り上がったかといえば、うちはこれだけ厳しかっただとか、うちはこんなにもお金をもらえなかっただとか、こんなに変なことをさせる親だったとか、そういった辛かったほうの自慢合戦になるわけですよ。

誰も、うちはこんなにも贅沢させてもらってきた、なんて言いませんでしたからね。ある程度わが子には、大きくなったときに、友達に話せる家庭事情の種を作っておいてあげたい気持ちがあります。

子どもが田んぼや畑を手伝ってくれれば、自分がもらっていたように、もちろんお駄賃を渡す予定です。それを見越してのお小遣いです。

もしかしたら、仕事次第では友達のお小遣いを抜くほどの月収になるかもしれません。いうまでもありませんが、お駄賃は仕事量や効率の歩合がありますので、小さい頃のお駄賃は激安です。

段々上がっていくシステムです。お皿洗いはいくつになっても一律一年3000円と予定しています。この支払いで成長した子どもたちに嫌われだしたら、そのときは読者のみなさんに相談したいと思います。

『がんばらない教育』(扶桑社)

笑い飯・哲夫
1974年、奈良県生まれ。関西学院大学文学部哲学科卒業。2000年に西田幸治と漫才コンビ・笑い飯を結成し、2010年にはM-1グランプリで優勝。賞レースで結果を残す一方『えてこでも分かる笑い飯・哲夫訳 般若心経』(ヨシモトブックス)など著書多数

笑い飯・哲夫
笑い飯・哲夫

1974年、奈良県生まれ。関西学院大学文学部哲学科卒業。2000年に西田幸治と漫才コンビ・笑い飯を結成し、2010年にはM-1グランプリで優勝。賞レースで結果を残す一方『えてこでも分かる笑い飯・哲夫訳 般若心経』(ヨシモトブックス)など著書多数