2023年4月、宮城県柴田町の住宅で会社員の男性が殺害された事件を巡り、凶器となった包丁などを焼却し埋めた罪などに問われている夫婦の裁判が、21日仙台地裁で始まった。起訴内容を認めた2人。法廷で語られた言葉から浮かび上がったのは、一連の事件の主導的立場だったとみられる女に対する「確固たる信頼」だった。

依頼されて犯した罪
大河原町の無職・松野新太被告(49)と妻のみき子被告(44)。2人は2023年4月、柴田町の住宅で、この家に住む村上隆一さん(当時54)が殺害された事件で、犯行に使用された包丁や軍手などを白石市内の墓地で燃やして埋めるなどした証拠隠滅の罪に問われている。

この事件を巡ってこれまでに起訴されたのは、村上さんに近しい人物ばかり。殺人の罪で起訴されたのは、村上さんの次男・直哉被告(25)と、長男の妻の敦子被告(47)だった。
村上さんの殺害にあたり、実行犯は直哉被告、主導的立場が敦子被告とされていて、包丁の処分についても敦子被告が松野夫婦に犯行を依頼したとされている。

背景に「いびつ」な人間関係
新太被告は敦子被告の元夫。30年の付き合いがあった一方、みき子被告から見れば「夫の元妻」。なぜ行動を共にしたのか。そこには切っても切れない「いびつな人間関係」があった。

2人を巡っては、出会い系サイトなどを通じて誘い出した男性に対し、不倫関係の示談金名目で現金をだましとる、いわゆる美人局による詐欺、詐欺未遂行為も発覚している。この一連の美人局行為でも、2人は殺人事件の中心的人物である敦子被告や直哉被告などと共謀していた。この日は、「会社員の殺人事件」だけでなく、「美人局詐欺・詐欺未遂」も含めて審理された。
妻が売春「止めさせたかったが…」
12月21日午前10時、神妙な面持ちで法廷に姿を見せた新太被告とみき子被告。裁判官から起訴状について問われると「間違いない」などと起訴内容を認めた。

その後の検察の冒頭陳述で明らかになったのは、2人が新太被告の元妻である敦子被告の言いなりとなって、犯罪に手を染めていった経緯だった。
元々、敦子被告に対し借金があった新太被告。経緯は明らかにされていないが、2018年ごろから敦子被告を中心に美人局行為を行っていたとみられている。被害者となった男性と接触するのはみき子被告だった。

「妻であるみき子被告が被害者と接触し、売春行為をすることについてどう思うか」
裁判官から問われた新太被告は、「やめさせたかったが、売春から帰ってきて食べ物などを買ってくるのを見たときにこれで生活できると安心した」と淡々と答え、「金を手にしてしまうとやめられなかった」と声を絞り出した。収入が少なく生活に苦しんでいた様子が透けて見える。
殺人事件でも…夫婦が心酔した女
村上隆一さん殺害については、2人は前日午前に敦子被告と直哉被告から呼び出され、計画について知ることになる。その時の説明は「(村上隆一さんが)これまでの美人局詐欺の証拠をもって弁護士事務所に行くことにした。阻止しなければ罪が暴かれることになる」というものだった。自身が犯してきた罪の発覚を恐れた2人は、敦子被告たちに協力するしかないと考えたという。敦子被告たちが話した内容は虚偽だったことを、2人は逮捕された後に知ることとなる。
翌17日に敦子被告と直哉被告の犯行をニュースで知った2人。その日の午後に敦子被告から、直哉被告が犯行に使用した包丁や軍手、村上さんの財布などが入ったゴミ袋を手渡され処分を依頼されると、すぐに犯行に及んだ。
殺人事件の証拠を処分するという悪質な行為。それでも2人は敦子被告の言いなりに犯罪に加担していた。弱みを握られていたとはいえ、なぜこうも敦子被告の言動に従うのか。裁判から見えてきたのは敦子被告に心酔する2人の姿だった。

敦子被告に従う理由を問われた元夫の新太被告は「敦子被告と互いに苦しい時にお金や子育ての面で助け合って、みき子と一緒になった時もその関係が続いていて離れられなかった。どうしても頼れるのは敦子しかいなかった」と話し、殺人事件の凶器の処分という役割を受けいれた理由を問われたみき子被告は「断ったら敦子被告と縁が切れ、助けてもらえなくなる」などと、時折声を震わせながら語った。
新太被告とみき子被告は子供が6人いるが、2人とも仕事をしておらず、生活保護や美人局詐欺、敦子被告に頼ることで、何とか6人の子育てを続けてきた現状があった。2人は、犯罪に手を染めるよりも敦子被告を頼ることが出来なくなることに怖さを感じていたという。

この日は論告まで行われ、検察側は「殺人事件の証拠を処分し、捜査を妨害した結果は重大」として、2人に懲役3年を求刑。弁護側は執行猶予の付いた判決などを求めて、裁判は即日結審した。
捜査関係者などによると、新太被告とみき子被告は、敦子被告による一種のマインドコントロール状態にあったとみられている。敦子被告に心酔し、罪を重ねていった2人への判決は、2024年1月17日に言い渡される。
(仙台放送)