住民や医療関係者からの反対が相次ぐ中、進展がないまま年を越すと思われていた、宮城県の「4病院再編構想」。そんな中で急転直下、県は渦中の仙台赤十字病院と県立がんセンターの基本合意に至ったと発表した。合意締結の裏側には「県議会からの要望」と「県の住民説明会に対するスタンス」の差があった。

急転直下…事態が動いた年の瀬
仙台医療圏4病院の再編とは、仙台市に集中する病院や医師といった医療的資源の分散や救急搬送時間の格差是正などを目的に、宮城県が主導して病院を再編するというもの。
仙台市を中心とした6市7町1村で構成される仙台医療圏。構想では仙台市太白区の仙台赤十字病院と名取市の県立がんセンターを統合して名取市に。仙台市青葉区の東北労災病院と名取市の県立精神医療センターを併設し、富谷市に移転するとしている。

病院の統合移転に伴い、現在病院が立地する地域の住民などからは、反対の声が多く挙がっていた。構想は実現するのか…先の見えない日々が続く中、12月22日。県立がんセンターと仙台赤十字病院の統合について、県が日本赤十字社と基本合意に至ったと電撃発表。会見を開くことになったのだ。
合意に村井知事「大きな前進」
22日宮城県庁で開かれた、県と日本赤十字社、県立病院機構の3者による基本合意締結式。これまでの県と一般企業との合意締結式などでは感じることのできない緊張感が漂っていた。
神妙な面持ちで姿を見せた村井知事。基本合意書にサインしたあと、ようやくフォトセッションの場で笑顔を見せた。

急転直下で合意に至った3者。基本合意の主な内容は以下の通りだ。
【新病院の設置・運営】
県が整備費の一部を負担した上で日本赤十字社が担う。
【開設時期・場所・病床数】
2028年度内に名取市植松での開院を目指す。病床数は400床程度。
【診療科】
2つの病院が現時点で持つ診療科を軸に協議を進める
【医療機能】
救急、周産期、がん、災害、新興感染症の5つの分野に対応。

村井知事は会見後、報道陣の取材に対し、「病院統合で仙台医療圏の南部における新たな拠点病院の整備が実現する。基本合意を締結できたことは、県の政策医療として非常に大きな前進」と手ごたえを見せ、日本赤十字社の渡部洋一医療事業推進本部長は「病院が今の地域から移転することは大変心苦しいが、県全体の将来を見据えた地域医療に貢献するため、また、病院が今後将来にわたって継続的に地域医療を行っていくために県からの提案を受け入れた」と述べた。

再編で改善なるか…病院抱える問題
今回の構想巡り、県立がんセンターと仙台赤十字病院が抱える課題が明らかになっていた。
まずは、仙台赤十字病院の老朽化について。1982年に現在の場所に建設された病院は40年が経過し、建て替えを検討する時期に差し掛かっていたと言える。
経営面での問題はより切迫だ。県立がんセンターは、2016年は2600万円、2017年は1億3400万円、2018年は1億1500万円、2019年は3億9600万円、2020年は4億9800万円の黒字となっているが、これは、毎年県から20億円以上の運営費負担金が支払われていることが背景にある。実質は大幅な赤字なのだ。
仙台赤十字病院に至っては、2016年は4億8700万円、2017年は11億7000万円、2018年は3億9000万円、2019年は4億7700万円、2020年は9000万円の赤字。慢性的な赤字経営となっていた現状があった。

日本赤十字社の渡部医療事業推進本部長は、基本合意まで時間がかかった理由について「持続的に病院が移転先の地域で医療を継続でき、収支計画がうまく動いていくかどうかが最大のポイントだった。将来の人口減少、少子高齢化を踏まえ、かなり厳しく吟味してきた」と述べ、経営面が一番のポイントだったと明かした。
「説明会はアリバイ作り」住民反発
「一体私たちの命綱はどうなるのか、不安を一生駆り立てることになる。納得できない」
この急転直下の病院の統合移転の合意に、病院が立地する地域の住民は憤りの声を挙げた。
八木山本町2丁目の町内会長を務める及川薫さん(82)は、合意締結そのものだけでなく、県の対応についても怒りを隠せない。「説明会で病院の移転に賛成する意見はなかった。あの説明会はなんだったのか…」落胆した様子で、及川さんはため息交じりにつぶやいた。

落ち込むのも無理はない。県が実施するとしていた、地域住民への初めての説明会が開かれたのは基本合意のわずか5日前。構想表明から2年3カ月も経過した12月17日だった。
説明会の主な目的は、県が構想の意図や狙いを住民に伝えるための場として開いたものだが、「地域の動揺、心配、不安は大変なもの。病院を奪わないでほしい」などと、反対一色。今回の基本合意は、そんな住民の不満・不安が噴出していたタイミングだった。

「説明会はアリバイ作りで、ガス抜きだ」と及川さんは批判を強めた。
合意予定「ありき」の説明会
こうした急転直下の基本合意について、村井知事と日本赤十字社は「基本合意が22日と計画されたので、その前に住民の方々に説明しておかなければいけないと考えた」と明らかにした。
つまり、22日の基本合意の「予定ありき」で17日に説明会を実施したということだ。説明会で、基本合意のタイミングについては何も触れられていなかったことは言うまでもない。
「そもそも最初から基本合意の後でないと説明会はできないと思っていた。しかし、議会の方から基本合意の前にまずは住民に構想の大枠を説明してほしいということであったので、ではまずやりましょうということで1回開催した」
(村井嘉浩宮城県知事 22日の基本意書締結式内質疑応答での発言)

県の意向ではなく、県議会の意向を鑑みて住民説明会を実施したと話した村井知事。「基本合意をしたならば、日本赤十字社にも同席していただいて構想の具体的な内容を答えられるようになる。かなり踏み込んだ説明ができる環境が整った」と強調した。
合意締結に自治体反応は「二分」
この基本合意には関係自治体のトップで反応が二分している。
総合病院が開設されることになる、名取市の山田司郎市長は「安堵するとともに歓迎を申し上げたい」としたうえで「県南全体の医療環境の充実が図られるものと捉えている」と述べた一方、以前から県の説明不足や不明確な根拠を指摘してきた仙台市の郡市長は「誠意にかけている」と批判を強めた。

「真摯な対応を求めてきたが、それが一切無い。地域住民の説明会でも大きな不安や反対があがる中で、基本合意というのは甚だ遺憾。明らかになったのは、移転先と開院の目処などだけで、今後何をどうしたいのか、一切明らかになっていない。あまりにも誠意にかけている」
(郡和子仙台市長)
相次ぐ方針変換…もう一つの合意は
以前から「民間病院との協議のため、基本合意をしない限り詳細を説明できない」としてきた宮城県。村井知事は「賛否いろいろあるが、反対する人の意見もしっかり聞きながら、より良いものを目指していきたいと思っている」と述べている。
基本合意をしたからには、反対派の住民の理解も得るべく、詳細を説明をしていくのだろう。

一方で注目したいのは、基本合意に至った日赤病院、がんセンターの2病院以上に今年議論が白熱した、県立精神医療センターと東北労災病院の基本合意についてだ。この2病院についても、県は2023度内の基本合意を目指しているが、こちらは住民だけでなく医療体制を地域全体で包括的にケアしてきた、精神医療関係者から反発の声が挙がっている現状がある。
最近では12月上旬、名取市に新たに民間の精神科病院を誘致するとしていた方針を断念し、県立精神医療センターの分院を開設させるという、軌道修正を迫られたばかりだった。越えなければならないハードルは決して低くないだろう。

そんな、移転の対象となった、東北労災病院が立地する青葉区台原地区では、23日に初となる住民説明会が開かれた。この日は、日赤病院とがんセンターの基本合意締結の翌日。住民からは案の定、反発の声だけでなく県の対応を疑問視する声も多く挙がった。

「なぜ労災病院が移転の対象になったのか。その疑問は3年経っても理解できない」
「17日の説明会の時点で(日赤病院とがんセンターの)基本合意は決まっていたと聞く。説明会はガス抜きなのか、本当に県民の意見を聞こうとしているのか」
少子高齢化や人口減少などの問題から、病院再編は全国的に見て避けては通れない課題だ。今回の4病院再編によって、仙台医療圏の医療格差是正につながると県は主張しているが、一部住民や医療関係者の理解が得られていないのが現状だ。今回の構想の実現で宮城の医療体制はどう是正されるのか。根拠に基づいた納得できる説明が求められる。

(仙台放送)