まもなく申込期限となるふるさと納税。取扱業者の競争が激しさを増しているが、自治体によって深刻な「特産品格差」が生まれている。

2022年ふるさと納税で年12億円の“赤字”を出した大阪・枚方市役所 広報プロモーション課 松元利樹主任
2022年ふるさと納税で年12億円の“赤字”を出した大阪・枚方市役所 広報プロモーション課 松元利樹主任
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和牛や海産物などが充実している自治体では、寄付金額が200億円に迫る一方、大阪・枚方市の担当者は頭を抱えていた。

2022年の大阪・枚方市のふるさと納税と流出額
2022年の大阪・枚方市のふるさと納税と流出額

2022年、ふるさと納税で年に12億円もの“赤字”を出した。

枚方市は「プロバレーボール選手のスパイクを受ける権利」や「ひらかたパークのフリーパス」など、思いつく限りの手を打ってきたが効果はいまいち…

ところが、2023年、起死回生の返礼品を送り出した。それは、1本12円のうまい棒を丈夫なアルミフレームでガチガチにガードする「うまい棒ケース」。寄付金額は何と約10万円。するとSNSでは「これ、マジで欲しい!」「枚方市の返礼品すごい」と大盛り上がり。

この問題作、一体なぜ生まれたのか?開発したのは、枚方市のアルミケースなどを製造・販売する会社に勤務する、「孫に愛されたいおじいちゃん」だった。

尊敬を勝ち取るため…孫のうまい棒を守れ!

大阪・枚方市で創業半世紀を超える「アクテック」。その強みは、個人や企業などから受注したオリジナルのアルミケースを、たった一つから作れることだ。

これまでも、鉄道模型のジオラマをそのまま持ち運べてしまうハードケースや、チンドン太鼓専用のキャリングケース、高価な茶器を、絶対に割れないよう運ぶ茶道具ケースなど、他社が作らない品を手がけてきた。

「うまい棒ケース」を発案した 勤続33年の南英司さん(62)
「うまい棒ケース」を発案した 勤続33年の南英司さん(62)

そんな中、あの問題作「うまい棒ケース」を発案したのが勤続33年、設計部門を支えて来た南英司さん(62)だ。

きっかけは2022年10月、かわいい孫が幼稚園のお楽しみ会でもらったうまい棒を南さんの妻、つまりおばあちゃんに見せたところ、中身がボロボロに崩れていて、悲しい表情を見せた事だという。普段からおばあちゃん好きの孫の気を引くため、おじいちゃんである南さんは、孫からの尊敬を勝ち取るために一念発起したのだ。

うまい棒を買い出しに行くなどノリノリの社長

南さんは、バラバラになったうまい棒の写真を証拠に撮り、社内の企画会議で「もう二度と、うちの孫の様な悲劇を繰り返さないために、うまい棒が絶対に割れることがないようなケースを作ってみたいんです」と提案した。この提案に対し、何とアクテックの芦田知之社長(46)は「たまにはウチから“こんなオリジナルケースも出来ますよ”って提案してみましょうよ」と後押ししたのだ。

外から見えるようにケースの一部をアクリルにする提案も
外から見えるようにケースの一部をアクリルにする提案も

社長は早速コンビニでうまい棒を買ってくるなどフットワークの軽さを見せ、うまい棒が外から見えるように、ケースの一部をアクリルにするのも提案するなどノリノリで話しを進めたという。

南さんが図面を引き、わずか2週間でプロトタイプは完成した。

縦約20センチ、横約10センチ、厚さ4センチのアルミ製。蓋の部分はアクリル板になっているので、収納したうまい棒を鑑賞することもできる。そのプロトタイプを孫にプレゼントすると大喜びし、「じいじ、ありがとう!」と抱きついたという。

南さん:
めちゃめちゃ笑顔ですね、それはもう、私(と孫)だけの物ですし、誰も持ってないですし、もう全然割れません。お泊り保育に持ってたという話は聞いております

――おじいちゃんとして鼻が高い?

南さん:
そうですね。一瞬だけですけど、瞬間的には。で、それが終わって大体もうそれで済んだら、またおばあちゃんです…

孫が喜んで一件落着…ではなかった。

販売元のお墨付きを得なければ

こうしてできあがった「うまい棒ケース」。せっかくなので会社のホームページに掲載しようとしたが、それならうまい棒の販売元に筋を通す必要があるのではないかと考え、南さんは販売する「やおきん」にケースを持ち込み交渉したという。

そのときの様子について、やおきんの小野さんはこう振り返る。

やおきん 営業企画部商品課 小野貴裕係長:
こちらです、みたいな感じだったと思うんですけど。なんか、刀職人さんが出すみたいな…もう“これはすごい”と、一発OKと言いますか、いたしました。

販売元からOKをもらい、晴れて「公式うまい棒ケース」となった完成品をホームページに載せると、「売って欲しい」との問い合わせが来始める。

こうなると社員もノッてきて、総務課の田中理恵さんからは、ゴージャスさを加えるためにベロアを敷いたらとの提案が。

高さ70センチから6面全て10回ずつ落下させる実験を頼まれもしないのに実施
高さ70センチから6面全て10回ずつ落下させる実験を頼まれもしないのに実施

さらに、営業担当の山内さんは「販売するには落下試験が欠かせません」と言いだし、頼まれもしないのに高さ70センチから、6面全てを10回ずつ落下させるという実験に着手した。

軽自動車でケースに乗り上げる実験も実施
軽自動車でケースに乗り上げる実験も実施

さらに軽自動車でケースをひく実験まで行い、うまい棒が無事であることを証明した。

――なぜひこうと思ったんですか?

アクテック営業部副責任者 山内聡さん:
「いやー、ひきたかったからです。(自社製品に)自信があったので、一回ひいてみようと思って」

鍵までつけ、コストは当初の3割増しに
鍵までつけ、コストは当初の3割増しに

さらに社長は、大事なうまい棒を守るため、鍵も設置。様々なアイデアを盛り込むことで、コストは当初の3割増しに膨らんでしまった。

クラファンに支援者殺到

この「公式うまい棒ケース」、欲しがる人が手に入れられるように、1個2万800円でクラウドファンディングしてみると、社長の「3つも売れれば上出来」という予想を超え、78人もの支援者が集まった。

芦田社長は「いや、もうびっくりしましたね。どうにかなってんのかな、この国はっていうくらい思いましたね…」と振り返るが、このクラウドファンディングを食い入るように見ている人がいた。枚方市のふるさと納税を担当する松元さんだ。

ふるさと納税

枚方市役所広報プロモーション課の松元利樹さんは「公式うまい棒ケース」を“発見”した時について「なかなか特産品とかがたくさんある自治体ではないので、特色のある返礼品っていうのはずっと探してましたので、本当にこれは、これだ!という感じ」と振り返る。

早速、実物を市役所に持ってきてもらうと、「これが本物の!」との声があがり、職員が集まってきたという。

アクテック芦田知之社長:
「担当の方がすごい力入れてくれてはって、本当に「100個ぐらいいけますか?」みたいなこと言われたりしてたので、これ十個もいかへんでこんなんって正直思ってまして…」

こうして、当初ただ孫の気を引くためだけに開発された商品「うまい棒ケース」は、今年の枚方市の返礼品の「台風の目」となった。

開発者の南さんは「私も枚方でもう60数年暮らしておって、そういったことで枚方市に対する恩返しというか、そういうのも何か一端担わせていただいているのかなと…」と話す。

アクテック 芦田社長
アクテック 芦田社長

アクテック 芦田社長:
「笑いながら、真面目に作りましたというのは、正直なところですね。もう本当に楽しんで、ものづくりなんで、やっぱりものづくりの基本のところがすごくよくできた。すごく前向きな意見しかやっぱ出てこなかったっていうのはすごい印象的でしたね」

「笑いながら、真面目に…」それは確かに、すべての基本に違いない。
(「Mr.サンデー」12月17日放送より)

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