今から35年前には、9割の小学生が罹患していた「虫歯」。口腔ケアや予防医学への意識の高まりなどを背景に、その数字は2021年にはおよそ4割まで減少している。そんな虫歯について、東北大学で気になる研究が進められている。キーワードは「お茶」だ。

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カテキン×フッ化物で虫歯予防

虫歯予防に関しては日ごろの歯磨きや、定期的な歯科検診が有効であることは言うまでもないが、アカデミックな側面からより良い予防法を生み出そうという基礎研究も進んでいる。

東北大学大学院歯学研究科の高橋信博教授の研究グループはこの度、「緑茶に含まれるカテキン」と「フッ化物」を組み合わせることで、虫歯予防に相乗効果が生まれることを国際学術誌「Caries Research」に発表した。

東北大学歯学研究科 髙橋信博教授
東北大学歯学研究科 髙橋信博教授

実験は、実際の緑茶に含まれるカテキンの濃度で行われていて、この結果はカテキンが将来的な虫歯予防に向けた効果的なツールとして期待できることを示している。

カテキンにプラーク細菌抗菌効果

そもそも虫歯とは、口内のプラーク(歯垢)中の細菌が糖分などを餌に作り出す「酸」により、歯が溶けてしまう状態のことをいう。つまり、虫歯を予防するには、細菌の働きを抑え、作り出される酸の量を減らすことが重要というワケだ。

高橋教授の研究グループはこれまでの研究で、実験室内において緑茶中に含まれる代表的なカテキンの一種に、複数のプラーク細菌への抗菌効果があることを確認。

カテキンには細菌を死滅させる効果は無いものの、細菌が歯に付着することと酸を作り出す力を抑制する効果があることを突き止めた。

酸抑制効果はフッ化物にも

今回もう一つ重要な要素となるのが、多くの市販の歯磨き粉に含まれている「フッ化物」。WHОをはじめ、厚生労働省などもその安全性と虫歯予防効果を確認し、日常生活における虫歯予防法としてもよく知られている。

フッ化物は歯の表面を修復・強化する効果や、プラーク中の細菌による酸の産生を抑える効果があるとされている。

つまり、カテキンしかりフッ化物はいずれも虫歯予防への効果が期待できるわけだが、今回、高橋教授が注目したのは、この2つを組み合わせることによる”相乗効果”だった。

組み合わせることで相乗効果

実験では緑茶中に含まれる分子構造が異なる5種類のカテキンを、虫歯との関連が高い代表的な細菌1種類と混合し、菌がどれだけ酸を作り出すかを調べた。

その結果、それぞれ単独ではあまり効果がなかった低濃度のカテキンやフッ化物も、2つを組み合わせることで、細菌による酸産生を効果的に減少させることを確認できたのだという。

さらに、この相乗効果は、虫歯が起こりやすい酸性環境で高まることも示した。高橋教授はこの結果について、詳しいメカニズムはより詳細な研究が必要としたうえで、「フッ化物とカテキンにはもともと菌の酸産生を抑制する効果があるが、カテキンにはさらにフッ化物を菌のなかに蓄積させる効果があるようだ。これらの効果が組み合わさることで、より効果的に酸の産生を抑制したのではないか」と分析している。

大切なのは日頃の口腔ケア

では、「緑茶を飲んでいれば虫歯にならない」のかというとそうではない。高橋教授は、今回の字実験があくまで基礎研究の段階で、実際に口の中で同じ結果になるかは別問題だと話す。あくまで大切なのは、日ごろの口腔ケアなのだ。

「この研究結果を見て緑茶を飲めば虫歯にならないと勘違いしないでほしい。虫歯は様々な要因が重なって起こる疾患であり、最も大切なことは日ごろの丁寧な歯磨きや、過剰な糖分摂取を控えた食生活を送ることです」
(―東北大学大学院歯学研究科・高橋信博教授)

即効性や手軽さを求めてしまう現代。しかし、そうした”夢の特効薬”の開発は一朝一夕では実現できないのが現実だ。こうした地道な基礎研究の積み重ねの先に、画期的な治療法が生まれることを期待して、適切な口腔ケアを考えるきっかけとしていきたい。

(仙台放送)

仙台放送
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