「リンゴがぼける」。収穫から時間がたち、やや水分が抜けたリンゴの食感を表現する言い回しだ。長野県内ではおなじみだが、研究者の調査によると、この表現が通じる地域、通じない地域がはっきりしている。旬のリンゴを例に産地と言葉の関係を掘り下げてみた。

(※外部配信先では動画を閲覧できない場合があります。その際はFNNプライムオンライン内でお読みください)

糖度高く、甘いリンゴに

長野市のリンゴ畑。収穫しているのは主力品種の「ふじ」。

リンゴ農家の成田崇夫さんは、「リンゴの花が咲いていたが、そのころに霜がおりてしまったので、リンゴの量が少ない。夏も暑くて、雨が少なくて水がなくて、玉伸びもあまり良くない。そうはいっても夏暑かったので、リンゴとしてはとても糖度の高い、甘いリンゴに仕上がっている」と、今シーズンの栽培は霜や猛暑など天候不順の影響を受け、苦労したと言う。

リンゴは近くの直売所で販売されていて、多くの客が買い求めている。

長野市赤沼のリンゴ畑
長野市赤沼のリンゴ畑
この記事の画像(12枚)

長野県民は「ぼける」「ぼけた」

収穫したばかりのみずみずしいリンゴ。

ただ、時間がたち、やや水分が抜けると食感が変わる。

こうした状態を県民はー。

60代(須坂市在住):
「『ぼけてる』。(やっぱり使うんですね)使います」

20代(上田市在住):
「『ぼける』ですか。シャキッとしていないリンゴのことを言いますよね、『ぼける』と。親やばあちゃんがよく『このリンゴぼけてるわ、ダメだわ』と言っているのを聞いて、一緒に食べて、これ『ぼけてる』と覚えた」

20代(千曲市在住):
「『ぼけてる』、確かにそう言いますね。それ以外の言葉が見つからないくらい『ぼけてる』という表現が合っていると思います」

リンゴが「ぼける」の表現についてー
リンゴが「ぼける」の表現についてー

県外の人は…「聞いたことない」

リンゴが「ぼける」。

県民は当然のように使う表現だが、信州まつもと空港などで県外の人に聞くとー。

長崎県から:
「『ぼけたリンゴ』?聞いたことないです」

兵庫県から:
「(聞いたことは?)ないです。大阪の『ボケる』とはまた違いますね(笑)」

群馬県から:
「(そのリンゴ『ぼけて』ますか?)…わかんないです。『ぼけてる』?ぼけてないと思いますけど。(『ぼけてる』の意味分かりますか?)わからないです」

「ぼける」という表現を使わないようだ。

県外の人は…
県外の人は…

でも、北海道、青森の人はー

しかし、北海道の女性に話を聞くとー

北海道から:
「(そのリンゴ『ぼけて』ますか?)ぼけてません。(『ぼける』って表現、わかります?)わかりますよ。全然大丈夫、シャキシャキです。シャキシャキ感がなくて、張りがないみたいなことを『ぼけたリンゴ』と言います」

北海道から来た人は「ぼける」を使う
北海道から来た人は「ぼける」を使う

全国一の産地・青森県の生産者団体にも話を聞いた。

青森県りんご協会の櫻庭佑人さんは、「青森の方でも『リンゴがぼける』という表現はけっこう使われていると思う。私の親もリンゴを作っていて、『このリンゴ、ぼけているな』と使うので、リンゴ農家の子どもとかに浸透しているのかな」と話す。

青森県りんご協会・櫻庭佑人さん
青森県りんご協会・櫻庭佑人さん

長野県内の「方言」!?調査すると

「ぼける」という表現を使う地域と使わない地域。

実はこれを30年ほど前に調べた研究者がいる。上田女子短期大学の大橋敦夫教授だ。

「共通語と同じ形だけど、意味とか使い方がちょっと珍しい、その地域独特という表現は方言辞典にも載っていない。長野県の特有の気づかれにくい『方言』として、浮かび上がらせられるかと思ったら、『お仲間』がたくさんいた」と、大橋教授はいう。

上田女子短期大学・大橋敦夫教授
上田女子短期大学・大橋敦夫教授

東日本と西日本で差 

全国のJA関係者などにアンケートをしたところ、ばらつきはあるが、リンゴの産地が多い、あるいは産地と近い東日本で多く使われ、西日本ではほとんど使われていないことがわかった。

「ぼける」には、ぼんやりした状態・鈍った状態を表わす意味がある。食べる機会が多い産地ほど「食感の変化」に気づきやすく、近しい言葉を使うようになったのかもしれない。

大橋教授は、「産地であればあるほど、それなりにリンゴへの親しみがあり、おそらく産地の方であれば、普通に使うし、理解される語形だと思って間違いない」と説明する。

1995年、全国のJA関係者などにアンケート
1995年、全国のJA関係者などにアンケート

その他の表現も

東日本では「ぼける」が広く使われていたが、調査では、同じ状態を福島・山形では「みそリンゴ」、県内でも飯田地域では「ほける」と表現することもあるそうだ。

青森でもー

青森県りんご協会の櫻庭佑人さんによると、「口当たりがぼそぼそしているようなリンゴに対して『いもっぽくなっている』という表現がある」という。

その他の表現も
その他の表現も

「ぼけさせない」ための工夫も

「ぼけた」リンゴが好みという人もいるが、ここでリンゴの鮮度を保つ方法を冒頭で紹介した農家の成田さんに教えてもらった。

ポイントはリンゴから水分が出るのを防ぐこと。

ラップの上にキッチンペーパーを敷き、リンゴをくるむ。

そして、輪ゴムで止め冷蔵庫で保存すると「鮮度を保てる」という。

鮮度を保つ方法はー
鮮度を保つ方法はー

「ぼけた」場合は

すぐに食べきれず、「ぼけた」場合はー

成田さんは、「切って、1個ずつラップで包んで、冷凍しちゃう。食べる時にはレンジでチンして、シナモンでもふって食べるとおいしいと思う。リンゴは割と日持ちするものなのですが柔らかくなったら少し料理に使ってみたりとか、いろいろな工夫をして食べるのもいいのかな」とアドバイスしてくれた。

リンゴが「ぼけた」場合はー
リンゴが「ぼけた」場合はー

天候不順で、農家泣かせだった今シーズン。

色づきや玉のびで苦労したものの、甘いリンゴになっているという。

新鮮なリンゴも「ぼけた」リンゴも好みに合わせて食べてみてはいかがだろうか。

新鮮なリンゴも、「ぼけた」リンゴもー
新鮮なリンゴも、「ぼけた」リンゴもー

(長野放送)

長野放送
長野放送

長野の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。