小惑星リュウグウで採取した砂を再現した土で野菜を育てる…。
そんな研究に成功としたと、岡山大学惑星物質研究所の中村栄三特任教授は7日に発表した。
惑星物質研究所はこれまでの研究で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ2」がリュウグウで採取した砂や石から、23種類のアミノ酸をはじめ、様々な種類の有機物を発見している。今回はこの分析結果をもとに「リュウグウの砂を再現した土」を作ったという。
その土で野菜が育つか検証したところ、レッドオークレタス、フリルレタスなどが1カ月~1カ月半程度で5センチ~10センチに成長したというのだ。
ここので気になるのが「リュウグウの砂を再現した土で栽培した野菜」は「普通の水耕栽培の野菜」と比べると、成長速度や味に違いはあるのかということだ。 また、今回の研究結果は、どのようなことに活かされるのか?
岡山大学惑星物質研究所の中村栄三特任教授に聞いた。
「普通の水耕栽培に比べて成長は遅い」
――「リュウグウの砂を再現した土」で野菜を育てた理由は?
「はやぶさ2」が持ち帰ったリュウグウの試料を分析する過程で、その中に含まれる鉱物と有機物との関係から、アミノ酸などの水に溶ける有機物を含むリュウグウを粉にして土にし、水を加えれば、有機物は溶け出し、植物の肥料になるのではと考えました。
そこで、詳細な分析結果をもとに「リュウグウのモデル土」を作りました。
――「リュウグウのモデル土」には、どんな成分が含まれていた?
小惑星リュウグウに含まれる鉱物(粘土鉱物、硫化鉄、酸化鉄など)と、アミノ酸などを含む有機物です。
――では、どんな環境でどんな野菜を育てたの?
植物工場で「リュウグウのモデル土」に水を加え、種を発芽させ、植物の成長を観察しました。
食べられるほどに成長した野菜は、ルッコラ、カラシミズナ、レッドオークレタス、フリルレタスなどです。5センチ~10センチに成長しました。

――主に葉物野菜を育てた理由は?種を植えてから収穫するまでの日数はどれくらい?
成長が早くて、種類が多いためです。日数は1カ月~1カ月半程度です。
――普通の水耕栽培と比べると遅い?
普通の水耕栽培に比べて、成長は遅いです。

――成長が遅い理由として考えられることは?
おそらく地球の土壌との違いによるストレスのためですが、現時点では詳しいことは分かりません。
――栽培した野菜の味は?
一般の野菜に比べて、少し苦くて辛いように感じられました。
――ニンジンやダイコンなどの根菜を育てることはできそう?
まだです。今後の課題です。
「地球外での自給自足の実現に向けて取り組んでいきたい」
――今回の研究結果をどのようなことに活かそうと考えている?
月や火星で植物の栽培が可能な条件を明らかにし、人類の地球外での自給自足の実現に向けて取り組んでいきたいと思います。
――小惑星リュウグウでは植物を育てられないの?
植物を育てることはできません。
――その理由は?
真空のためです。ちなみに、月も真空で、火星は地球の100分の1以下の気圧しかありません。月や火星で植物を栽培するとしたら、密閉した工場(中は地球と同じ環境)などを建てて、その中で植物を栽培する必要があります。

――月や火星に「リュウグウの砂を再現した土」を運べば、植物が育つ可能性があるということ?
そうではありません。リュウグウと同じような「始原的(最初の状態を保っていること)な化学的性質」と「地球や月に近づく軌道」を持つ小惑星は無数にあります。
その中から最適な小惑星を選んで、軌道を変えて月や火星に落とし、その小惑星を資源として使い、植物を育て、自給自足が可能になると考えています。これまでにない、全く新しい考え方です。こちらも、まだ課題はたくさんあります。
――どうやって軌道を変えるの?
たとえば、探査機を惑星にぶつけたり、探査機で惑星を捕獲したりして軌道を変えるという方法などがあります。
――小惑星がぶつかった時の衝撃に月や火星は耐えられる?
リュウグウぐらいの大きさの小惑星であれば、全く問題ありません。耐えられます。

「リュウグウの砂を再現した土」を使った今回の研究結果。その先には「小惑星を選んで、軌道を変えて月や火星に落とし、その小惑星を資源として使い、植物を育て、自給自足を可能にする」という壮大な目標があった。
たくさんある課題を解決し、近い将来、この目標が達成されることを期待したい。