函館の海岸に漂着した大量のイワシをめぐって、処理水の放出を結びつける海外報道が拡散。
水産庁が異例のコメントを出すなど、波紋が広がっている。
英紙は処理水を「核汚染水」と表現も
北海道函館市の海岸に広がっていた驚きの光景。人の膝ほどの高さで辺りを覆いつくしているのは、おびただしい数のイワシやサバの死骸だ。

見つかったのは12月7日の朝だが、海岸には雪をかぶった状態で大量の魚が残されていた。

12日から重機を使った作業が始まったものの、函館市によると1日に40トンの魚を処理しても、打ち上げられたイワシの撤去には15日ほどかかるという。
その余波が続く中、思わぬ形で新たな波紋が広がっている。きっかけとなったのは、イギリスの大衆紙「デイリー・メール」の報道だった。

デイリー・メールのSNSより:
数千トンもの死んだ魚が、日本の北部にある海岸に打ち上げられました。イワシとサバが木曜朝、函館に打ち上げられ、ほぼ1マイルにわたって海岸沿いが異様な銀色で埋め尽くされました。この現象は、日本政府が核汚染水を海に放出し始めた3カ月後に起きており、これが地元の生態系を破壊しているのではという臆測を呼んでいます。

デイリーメールのSNSでは、今回のイワシ大量死と8月から始まった福島第一原発の処理水放出を関連づけるかのような根拠不明の報道がなされていた。

さらにニュースを伝えるにあたって、処理水を「核汚染水(RADIOACTIVE WATER)」と表現。電子版の記事でも、中国や韓国が海洋放出に反対していたことや、処理水のリスクを指摘する団体の主張を含めて報道している。
「全く根拠が見当たらない理屈」と海洋問題の専門家
根拠不明の憶測に満ちたこの動画は、これまでに150万回以上再生され、「核の魚だ」「カモメすら放射能汚染された魚を食べない」といったコメントも寄せられている。

こうした不安をあおるかのような声の一方、「イワシの大量死は過去15年、何度も世界中で起きているじゃないか」と、冷静な対応を呼び掛ける声も見受けられる。

処理水の放出当初、魚介類の輸入禁止や嫌がらせ電話など、一部で騒動に発展した中国では、イワシの大量死が確認されてから、SNSで“処理水の放出と関係があるのでは”という動画が投稿された。
動画に映る人物は「このイワシは放射能に汚染されているか、あるいは大きく関係しているものだ!」と声を上げていた。

海洋問題の専門家は、今回のイワシ大量漂着と処理水放出には、全く関係がないと明言する。
東海大学 海洋学部 山田吉彦教授:
福島県の処理水が影響しているということは、全く根拠が見当たらない理屈です。フェイクニュースですね。
処理水はイワシの生態に影響を与えるものではない上、そもそも、福島第一原発周辺の海水が函館周辺に流れ込むことは、海流の関係からまずありえないと指摘。その上で、今回のイワシ漂着についてこう話す。

東海大学 海洋学部 山田吉彦教授:
おそらくイワシを捕食するブリですとか、マグロがイワシの群れに近づいてきたために、逃げ惑いパニックを起こしてしまった。
今回の“フェイク報道”について、水産庁研究指導課は「これらの情報は憂慮する事態で、処理水放出の影響は、モニタリングで問題ないものとなっています。正しい情報の拡散に努めてまいります」とコメントしている。
(「イット!」12月12日放送より)