麻生氏交代を訴えた山崎氏
「人心一新の時が来ている」
4月18日の夜、この一言が永田町をかけめぐり、安倍政権を揺さぶった。発言の主こそ、自民党の山崎拓元副総裁…通称「ヤマタク」である。
財務省の文書改ざん問題で安倍政権への批判が高まっていたこの日、東京・赤坂の日本料理店で、ある会合が開かれた。
出席者は、安倍首相に批判的な小泉純一郎元首相や小池百合子東京都知事、武部勤元幹事長、そして山崎拓氏。
また二階幹事長も同席した。

政治情勢やエネルギー問題、東京五輪などが話題になったというが、反安倍の発火点となる会合ではないか、と注目された。
会合の終了後、出席者たちが多くを語らない中、マイクを向けられた山崎氏の独壇場となった。

山崎氏は「人心一新の時が来ている。佐川前国税庁長官でトカゲのシッポ切り、福田前次官でトカゲの胴体切り、当然トカゲのシャッポ(頭)も切らなきゃいかん!」と語った。
トカゲの頭、つまり麻生太郎財務相の交代の必要性を訴えたのだ。
「内閣改造こそ人心一新に。必須は麻生大臣の首切りや!」
小泉元首相や福田元首相ら自民党の大物OBが政権に厳しい発言を繰り返している中でも、山崎氏の反安倍の姿勢は際立っている。
人心一新発言から2か月を迎えようとしている今、私は山崎氏に改めて「人心一新」の意味について尋ねてみた。
「人心一新のカギは、やはり解散ですよ。しかし解散すると政権を失うことになるでしょうね。となると、ズルいやり方だが内閣改造こそ人心一新にはなる。」
「ただその時に必須なのは麻生大臣の首切りや!これをしない限り人心一新にはならず、国民の疑心暗鬼は増すばかりで結局嘘つき内閣になる。(安倍首相は)泣いて馬謖を斬るしか人気回復の道はないですよ!麻生を切れば間違いなく人気は回復する。麻生を残せば一緒に抱きつかれ海に沈んでいく」
改めて山崎氏は「麻生氏の首切り」「嘘つき内閣」など、厳しい言葉をつかって、麻生氏更迭の必要性を強調した。
“ドS”な囲碁にみる山崎氏の次の一手
山崎氏は週に3日は地元福岡から上京し、議員との会合や記者との懇談、派閥総会への出席などと多忙なスケジュールをこなすタフな81歳。
「ヤマタク」ならぬ「ヤマタフ」との異名もとる。

特技は柔道、野球、ソフトボールと多才で、中でも囲碁はアマ7段の腕前を誇る。
政界には囲碁をたしなむ人が多い。
山崎氏は、5月16日に政界で棋力1位2位を争う小沢一郎氏と対局した。
成績は2勝2敗の引き分けだった。
私が「引き分けという結果は忖度ですか(笑)?」と尋ねてみると「こんなところで貸し借りを作るわけにいかないのでね」とニヤリと笑みを浮かべる。
山崎氏の囲碁は、勝ちの局面でも相手の石を躊躇なく殺しにかかる“ドS(エス)の囲碁”だ。
しかも負けの局面でも決して投了(参りましたと相手に頭を下げること)せず最後まで食らいつく。
その勝気な姿勢は、まさに山崎氏の政治家としての生き様を表しているといえるのかもしれない。
碁盤をじっと見つめながら山崎氏は「糸をはった蜘蛛のように相手が隙を見せる瞬間をじっと構えて待つんや」と語る。
秋に予定される自民党総裁選挙に向けどんな“次の一手”を企んでいるのだろうか。
【総裁候補不在の石原派~今は自重し、将来に備える時~】

山崎氏が最高顧問を務める自民党の石原派=正式名称「近未来政治研究会」は、現在12人の自民党議員で構成される。
1998年に山崎氏が自らの派閥「山崎派」として結成して以来、一番多い時期には41名が所属していた。
その真骨頂が「加藤の乱」だった。
派をあげて乱に参加した結果、しばらくの間、党内で疎外されたものの、分裂した加藤派と違い、現役閣僚だった保岡元法相を除きほぼ全員が脱落せず行動を共にした。
山崎派の結束力は、切り崩しを図った党主流派からも高く評価された。
間もなく小泉政権が誕生し、山崎氏は幹事長に就任。山崎氏の、いわば『人間力』が評価され、派も勢いを取り戻した。
この時期について山崎氏は「皆様に活躍の場を与えることもできたのでよかったのかなと思う」と振り返る。

2012年、山崎氏は石原伸晃元幹事長を派閥の会長として後継指名した。
かつてYKK(山崎拓、加藤紘一、小泉純一郎)で政策集団を作った際に石原氏に事務局長を任せていたことも指名の決め手の一つだったという。
しかし、石原派への衣替えはスムーズではなかった。
後継指名にあたり、派の幹部だった甘利明元経済再生相や、渡海紀三朗元文科相らが新体制に反発し派は3分裂。所属議員数は激減し、山崎派時代の勢いは失われていった。
そうした中、山崎氏に対しては今も派内から「面倒見が良い親分肌」などの声が聞こえ、一定の存在感を放っている。
一方で、その政局的な動きに対しては、「あの人は元気すぎていけない」(自民党重鎮)という冷やかな声もあるが。
そして今、秋の総裁選を控えた石原派では、石原氏が出馬しない意向という中で、どの候補を支持するかについて派内の意見がまとまらず悶々とした空気が漂う。
この状況について山崎氏に問うと「今後合従連衡が続くと思うが、その中でまた芽を出す時が必ず来ると信じている」と強調した。
その上で、「派として今は自重し将来に向け備える時期だが、総裁選に関係なく派閥拡大に向け谷垣グループとできれば一緒になりたい」との思いを明かした。
山崎氏が考えるポスト安倍の有力候補とは

山崎氏は「安倍政権は正直、行き詰っている」と政権の現状に危機感を抱いている。
ズバリ次期総裁候補として相応しい人物を尋ねると、1957年(昭和32年)生まれのキーパーソン4人組、石破茂元幹事長、岸田文雄政調会長、石原伸晃元幹事長、中谷元元防衛相の名を挙げた。
4人は今年4月25日夜、東京・北青山の日本料理店で集まり、石原氏の誕生日を祝った。
石破氏は終了後、記者団に「皆同じ時代を生きているので、次の時代にどんな日本を残したらいいかという話は当然した」と語っている。
集まった時に次回の幹事を決めて解散するというこの会のメンバーは共にポスト安倍を意識しあう良きライバルといえるのだろう。
山崎氏は「次はこの4人の中から(総理が)出るべき。年齢的にも適任であり、それぞれ派閥などの領袖クラスでもあるこの4人がポスト安倍として最有力だ」と述べる。
さらに、「2015年のように“選択肢のない総裁選”はあるべきでない」との思いも強い。
山崎氏は、出馬に強い意欲を示す石破氏について一定の評価をしていて、3月14日には石破派の憲法に関する勉強会で講師を務めた。
石原派内から反対の声が挙がったにも関わらず講師を引き受けた理由について山崎氏は「石破氏側から要請があり、本人が必ず立候補することを前提に引き受けた」と振り返る。
山崎氏は「野田聖子総務大臣も出馬を鮮明にしているという考えもあるが、閣内にいて安倍さんに対抗することは本当は難しい。そういう意味では閣外に長い間、身を置く石破さんが立候補の意思を表明しているのは党の活性化のために必須」と石破氏が出馬する意義を訴えた。
また、仮に安倍首相の三選となった場合についても、「任期は最大3年でいずれ党内の政権交代は必ずくる。そもそも選挙の勝敗ラインは3分の2。憲法改正の発議権を失えば敗戦だ。私は来年の参議院選挙で交代を余儀なくされる見通しが強いと思っていますよ」と不敵な笑みを浮かべる。
囲碁の棋風を思わせるように、躊躇せず攻めの姿勢で白黒ハッキリとした発言に徹する山崎氏。総裁選に向け、どんな局面でいかなる妙手を放つのか注目したい。
(政治部・自民党担当 森本涼)