自民党派閥の裏金疑惑が波紋を広げている。「BSフジLIVEプライムニュース」では識者を迎え、自民党の対応や危機感、裏金作りの具体的な構図、党や派閥への影響などを議論した。
裏金疑惑への首相コメントは「ちゃんちゃらおかしい」
新美有加キャスター:
裏金疑惑をめぐる岸田総理の発言。11月18日に派閥の収支報告書4000万円未記載の疑いが浮上し、翌日「説明責任を果たすべき」。12月1日に安倍派に裏金疑惑が発覚し、4日には「状況を把握しながら党としての対応を考える」。6日に「党全体として一致団結し対応すべき重大課題」とした。党8幹部の緊急会合では、派閥のパーティーや年末年始の行事の自粛を決めたと明らかに。
政治アナリスト 伊藤惇夫氏:
危機感が極めて希薄。リクルート事件の反省を受け、政治資金規正法を私も関与してかなり強化したつもりだが強化されなかった、あるいは皆、抜け道を作るのが上手かった。国民の関心はパーティー自粛や宴会をやめることではない。党で疑惑を徹底解明し、必要なら法改正の具体的な方向性を示すこと。まず疑惑を持たれた派閥が自ら実態を解明すべき。
岩井奉信 日本大学名誉教授:
リクルート事件で自民党は解明の委員会を作り、政治改革大綱を作って政治改革への筋道をつけた。だが今は、総裁の危機意識が非常に弱い。また一番問題になっている安倍派は、岸田さんがものを言いにくい組織。「派閥の問題は派閥任せ」では、派閥の集合体である自民党の存亡に関わる問題になる。
若狭勝 元東京地検特捜部副部長 弁護士:
岸田総理のコメントはちゃんちゃらおかしい。私は衆議院議員を3年間務め、政治資金パーティーが常態的な裏金作りの温床だとわかった。10〜20年やっている人にはわかりきっている話。それが今回初めて発覚したように言うのは茶番で、国民に対する背信行為。党としてのガバナンスが欠如している。
パーティーで裏金はどのように生み出されるのか
新美有加キャスター:
パーティーで裏金ができる具体的な構図。派閥から課せられたパーティー券の販売ノルマが100万円、議員が個人・企業・政治団体などに券を売って得た収入が200万円だとすると、収入を派閥に納金し、ノルマを超えた100万円が議員側にキックバックされるパターンがある。キックバックが議員の会計責任者に対し行われ、派閥側も会計責任者もそれぞれ収支報告書に記載しない場合、会計責任者だけが罪に問われるのか。
若狭勝 元東京地検特捜部副部長 弁護士:
会計責任者は、議員には必ず報告する。議員が不記載でよいと言ったなら両者が罪に問われる。単純ミスなら修正して終わりだが、意図的なら厳罰。だが議員に責任を問うためには、指示したことを示せなければならない。罰金刑や禁錮刑なら公民権停止で議員辞職、5年間は選挙にも出られない。
反町理キャスター:
派閥の側は、記載していれば問題にならないか。
若狭勝 元東京地検特捜部副部長 弁護士:
ちゃんと記載していれば問われない。だが、議員側が記載していて派閥の側が記載していなければ、公表される収支報告書を突合されれば発覚してしまう。
新美有加キャスター:
ノルマを超えた100万円分を派閥側が不記載のまま議員にキックバックし、議員が直接懐に入れてしまう場合は。
若狭勝 元東京地検特捜部副部長 弁護士:
基本的には同じで、政治資金規正法違反に問われる。だが、たとえば自宅のローンの支払いなど個人的な用途に充てた場合、個人の所得税法違反で脱税になる。しかし、1億円近くをごまかして刑事事件になるような場合でなければ修正申告して終わり。公民権停止は免れてしまう。
新美有加キャスター:
収入の200万円のうち、ノルマ分の100万円だけを派閥に渡し、ノルマを超えた100万円を直接自分の懐に入れてしまう場合は。
若狭勝 元東京地検特捜部副部長 弁護士:
派閥が了承していなければ議員の横領で、いろんな問題が起きる。だが金の動きが少なくなり発覚しにくくなるから、派閥が許している場合はあると思う。
反町理キャスター:
裏金のメカニズム、問題はどこに。
岩井奉信 日本大学名誉教授:
長年の慣習のような形で行われていたのでは、という問題。慣習とはくせ者で、打ち合わせや会議などがなく、派閥の側に関しては意図的だったという立証がしにくい。
政治アナリスト 伊藤惇夫氏:
疑問なのは、慣習を若手・中堅の議員が平気で受け入れていたのか、政治資金規正法違反だと問いかける人間がいなかったのか。今回、自民党の若手議員は誰ひとり声をあげていない。問題そのものより、自民党の政治家の全体的な劣化が心配。安倍政権時代に官邸一強の中で育った若手は党に刃向かわない。また、小選挙区制では公認権も金の配分も全部党の執行部が握っていることもある。
政治活動には金がかかる 問題解決のため断ち切るべき文化とは
反町理キャスター:
議員からは、日常的な政治活動には非常に金がかかるという話を聞く。
政治アナリスト 伊藤惇夫氏:
金がかかるから悪さをしていいことにはならない。将来は企業団体献金を全廃しようと言われたが、政党には認め、個々の議員の財布とも言える政党支部にも認めるようになった。法律の中で金を集められる仕組みは残しており、はみ出すのは批判されてもしょうがない。
反町理キャスター:
地方組織や地方議員のために金がかかるとも。
岩井奉信 日本大学名誉教授:
国会議員は餅代・氷代を地方議員に出す。本当なら収支報告書に載せて処理するはずだが、すると誰に出して誰に出していないのかがバレてしまう。だから裏金として現金で渡したい。野党も一緒だが、こうした関係性の文化を断ち切らなければ。
若狭勝 元東京地検特捜部副部長 弁護士:
一朝一夕には無理だが、10〜20年スパンで変えていくこと。今は選挙活動にネットも使え、金がかからない。変えることができる環境だが、自民党自身が実行できるか。第三者的な人が決めた制度を取り入れていかなければ。
岩井奉信 日本大学名誉教授:
個人的には収支報告制度を整備するとだいぶ良くなると思う。今は電子会計の時代。総務省の提供するアプリケーションを使い、オンブズマンに監視してもらえばいい。
安倍派・自民党の自浄作用には「若手」の動きが重要
新美有加キャスター:
安倍派では、2018年からの5年間で総額1億円以上を所属議員にキックバックした疑い。議員は数十人に及び、1000万円を超える議員も複数いるとみられる。東京地検特捜部は会計責任者や所属議員の秘書など関係者に任意で事情聴取を行っており、12月13日の国会閉会後に議員への聴取など本格的な捜査に着手するとみられる。狙いは安倍派だけか、自民党全体か。
若狭勝 元東京地検特捜部副部長 弁護士:
今出ている情報では安倍派が際立っている。安倍派に重点を置いていくのは確か。人的・時間的に限界もあり、労力を集中していくのだろう。
反町理キャスター:
2018年以降の安倍派は、会長がいて事務総長、その下に民間人の会計責任者という3層構造。歴代事務総長がどれほど関与していたか。または会長が会計責任者に直接言っていたのか。
岩井奉信 日本大学名誉教授:
事務総長の権限は非常に大きい。金の差配は事務総長の責任だとよく言われ、責任が問われるなら事務総長の可能性が高い。会長が直接言えば会長の責任だが、安倍派歴代2人の会長(細田博之氏、安倍晋三氏)はもういない。責任を問えないなら、やはり事務総長の誰かがターゲットにならざるを得ないのでは。そうでなければ国民が納得しないとなると、検察当局がどう見るか。
新美有加キャスター:
若狭さんが担当した日歯連闇献金事件は2004年に発覚。日本歯科医師会の会長から1億円の小切手を橋本派が受け取ったが収支報告書に記載せず、政治資金規正法違反に問われた。当時、橋本龍太郎元総理は派閥の会長を辞任し、会計責任者は起訴された。会計責任者に不記載を指示した、当時橋本派の幹部だった村岡兼造氏は在宅起訴された。
若狭勝 元東京地検特捜部副部長 弁護士:
日歯連の事件では1億円について派閥の幹部らが会議し、収支報告書から省こうと決めた。つまり具体的な指示を捉えやすい。だが今回はずっと慣習化されていたなら、具体的な指示の証拠などが出にくい。
新美有加キャスター:
今後、安倍派はどうなっていくか。自浄作用のような動きは。
政治アナリスト 伊藤惇夫氏:
安倍派自体が会長も決められず集団指導体制。かなり上のレベルの議員が起訴されるなどとなれば分裂の可能性もある。だが、そこまで追い詰められたのなら思い切って改革派になろう、という若手に密かに期待もしている。若手議員はまだ選挙基盤が弱い人が多い。何らかのアクションを起こさなければ次の選挙で負けてしまう。一番危機感が強いのは安倍派の若手だと思う。
岩井奉信 日本大学名誉教授:
動きが出てこなければおかしい。声をあげないと自民党全体も自分たちも沈没するという認識を若手が持てるか。政治家としての力量が問われる。それがなければ、もう自民党が政権与党である意味がない。
若狭勝 元東京地検特捜部副部長 弁護士:
1〜3回生の人を若手と呼ぶこと自体を変えないといけない。当選回数にはかかわらず、きちんとした自分の見識を持った人が自民党の中にいる。自民党を、国をどうしたらいいのかという純粋な思いを持っている人がいると私は信じている。そういう人たちがものを言えるような雰囲気を作っていくこと。それをすべきなのは総理総裁であり、自民党の役員。
(「BSフジLIVEプライムニュース」12月6日放送)