大阪の梅田やなんばなど、中心部から北部につながっている「北大阪急行」。現在、最北端に位置する千里中央駅からさらに北上して、箕面市まで延伸工事が進められている。
これまでの長い道のりと、延伸に関わった人たちの思いとは。新駅の開業まで約4カ月となった現場を取材した。

大阪万博のために開通した北大阪急行

北大阪急行の延伸に伴って新たに誕生する2駅のうちの1つ「箕面萱野駅(みのおかやのえき)」。11月26日、新しく敷かれたレールが一本につながったことを祝う“レール締結式”が行われた。

この延伸事業、実は50年ほど前から構想されていた一大プロジェクトだ。ようやく迎える2024年3月の開業を前に、すでに街にはさまざまな変化がみられている。

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そもそも北大阪急行は、1970年の大阪万博が開かれた時、会場に来場者を運ぶために開通した路線だ。

当時使われた「会場線」は万博の閉幕と同時に廃線となったが、千里中央駅から南はそのまま残った。現在は、大阪の大動脈「御堂筋線」に乗り入れて、梅田方面までを結び、通学・通勤の時間帯には、大阪北部に住む多くの人が利用する、“市民の足”となっている。

そして今回、豊中市の「千里中央駅」までだった線路が箕面市まで伸び、新たに「箕面船場阪大前駅」と「箕面萱野駅」の2駅が誕生する。

線路の工事が間もなく完成するということで、終点の「千里中央駅」からの延伸部分を、特別に見せてもらった。延伸工事が進む北大阪急行の終点「千里中央駅」の先には、新しいトンネルが続いていた。

北大阪急行 秦 健太郎さん:
あの辺りに境目が見えるんですが、あの辺りまで(1970年の)大阪万博開業当時にトンネルを造っていました。

北大阪急行の秦さんが“あの辺り”と指した先には、確かに古いトンネルと今回新たに作られたトンネルの境目がみられた。

関西テレビ・吉原アナ:
確かに違いますね。左側は壁に少し年季を感じますが、右側は造りたてという感じですよね。

秦さん:
当時(1970年)は、地上部分から土を掘りだして四角形のトンネルを作っていたんです。延伸が事業化した時も同じようなやり方が想定されていたと思うのですが、その後、千里中央付近の都市整備が進んできて、上には建物が立ち並ぶようになった。

そうなると上から掘り下げてトンネルを掘ることは難しくなってくるので、土の中で工事ができる“シールドトンネル工法”を採用しています。向こうの駅からシールドトンネルという円形のトンネルが進んできている。

地上の街の変化に伴い、工事のやり方も変わったのだ。地下鉄を走らせるには電気が必要だが、これはどこから来ているのだろうか。

秦さん:
(レールに)750ボルトの電圧がかかっています。今は停電してますが、絶対触ったらダメなんです。北大阪急行は開業当時から大阪メトロ・御堂筋線と相互直通していて、御堂筋線がこのサードレール方式(レールから給電する方式)なので、必然的にこういう形状になっています。

レールから給電する方式だと教えてくれた。

吉原アナ:
電車に乗っている時間でいうと3分くらい?

秦さん:
ダイヤはまだ確定していないんですが、数分で…。長い年月をかけて造ったトンネルなんですが、電車で通ると数分です。

線路を歩くこと、約10分。薄暗いトンネルの向こうに、明るい場所が見えてきた。新たに建設された「箕面船場阪大前駅」だ。

吉原アナ:
駅ですか!行けるんですか?

秦さん:
そうですね。駅の手前までご案内させてもらいます。

そう言って案内してくれたが、現在、仕上げ工事の真っ最中ということで、見せてもらえたのは駅の手前までだった。

「箕面船場阪大前駅」は、1日最大1万6,000人の乗降客を見込んでいる。

総事業費874億円の一大プロジェクト

たった1区間歩いただけでも、50年という時代の流れと未来を感じたと話した吉原アナ。
今回の延伸工事、全長わずか2.5kmと短い距離だが、なぜ実現するのに50年もかかったのだろうか。

その背景を知るのが、長年、箕面市で繊維業を営む組合の俣野(またの)名誉会長だ。

箕面市には、「船場団地」という繊維の卸問屋が集まるエリアがあり、そのルーツは名前の通り、今の「船場センタービル」がある、大阪市中央区の船場地区だ。

高度経済成長期の大阪では繊維業が盛んで、当時の船場地区周辺では荷下ろしするトラックによる交通渋滞が問題となっていた。そこで、繊維問屋の一部が「船場」という地名を引き継いだまま、箕面に移ることになったのだ。

しかし、移転した先の箕面市は駅が阪急箕面線の3駅しかなく、大部分が“鉄道空白地帯”だった。車を使う人も多く、大阪市内につながる道路「新御堂筋」では頻繁に渋滞が発生していた。

吉原アナ:
船場団地に住んでいる人は、(鉄道を)通してくれという思いが当然あったでしょうね。

大阪船場繊維卸商団地協同組合 俣野富美雄名誉会長:
電車というのは、いったん敷いたらやめられない。そこに2駅作るということは、非常にコストがかかるということで(北大阪急行と箕面市は)難色を示した。どうしても通すなら、ということで、最終的に箕面市と団地組合で交渉が成立していったのは、“人の流れが多くなるような仕組み”を作らなくてはならない。

そのためには、箕面船場の街づくりに協力してもらいたい、と言われたんです。それを飲んででも延伸に協力しよう、ということに決まったと思います。

組合員の協力を得て、駅前の土地の一部を箕面市に売却し、新しい駅周辺に新たな街の拠点を作ることになった。
北大阪急行も“それならばコストに見合う乗客数が見込める”ということで、なかなか進まなかった総事業費874億円の一大プロジェクトが、一気に動き出すきっかけとなったのだ。

50年に及ぶ北大阪急行の延伸の裏側には、地元・箕面船場の人々の協力と、箕面市による新たな街づくりの計画があった。

阪大キャンパスや市立図書館も誕生

実際にどんな街づくりが進んでいるのだろうか?

2024年3月に開業予定の「箕面船場阪大前駅」。行ってみると、駅の大部分ができ上がっている。さらに駅の周辺も開発が進んでいるようだ。

箕面市が、繊維組合が持つ土地の一部を譲り受けて開発したのが「船場広場」だ。箕面市・地域創造部の小山郁夫さんに案内してもらった。

箕面市 地域創造部 部長 小山郁夫さん:
駅だけを作るのでは、街がなかなか発展していかないと思いますので、行政としても、いろんな“仕掛け”をもって、街を作っていきたいと考えました。

船場広場の魅力は、人が集まるたくさんの“仕掛け“だという。

吉原アナ:
どういうエリアにしていきたいですか?

小山さん:
街づくりを考えた時に、人が集う街で、いろんな文化や芸能を皆さんに楽しんでいただきたい。何といっても“文化芸術劇場”。吉本興業さんなどに活用していただいているのですが、駅ができれば、新駅からドアtoドアで来ていただけますので、1,401席の大ホールが常に満員になるような催しものをしていただきたいなと思っています。

また、国際交流の拠点として、大阪大学の外国語学部キャンパスや市立図書館、さらに音楽スタジオや運動場を備えた生涯学習センターなどが、駅の開業に先がけてオープンしている。

さらに、タワーマンションの建設も進んでいる。現在、建設されているのは、駅から歩行者デッキで直結している地上30階建ての高層マンション「ブリリアタワー箕面船場」。中には3億2,500万円という高級物件も。すでに売却済みの物件もあるそうだ。

箕面船場の2023年の地価上昇率は+8.8%と、大阪で第2位。人気急上昇中だ。すでに延伸の効果が街の中に現れ始めている。

小山さん:
(こうした状況は)我々の想像以上だったと思います。箕面市は子育て環境が充実していて、高い評価をいただいていますが、課題であった大阪中心からのアクセス性が間もなく実現しますので、ますます定住人口が増えていくことを大変望んでいます。

新駅開業に期待を寄せる街の人

2024年3月の開業を前に、街の人も期待を寄せている。

大阪大学の学生:
(今は)千里中央から(キャンパスまで)歩いてくるので25分くらい(かかっている)。駅ができたら一本で、超ありがたい。ゆっくり寝られるので。

箕面市民:
楽しみにしています。(駅の周りも)すごく開発されていて、お店もいっぱいできそうで、楽しみです。

その一方で、バスの利用者からは「電車が延伸することで、これだけバスが頻繁に出るかどうか分からないので不安です」という声も聞こえてきた。

電車が少ない代わりに、バス網が発達した箕面市では、これまで多くのバスが豊中市の「千里中央駅」を中心に、南北に運行していた。しかし、箕面市内の東西の移動を強化しようと、今回の鉄道延伸でできる新駅を中心としたルートに再編する計画を進めている。バスの運転手不足もあり、利用が少ない一部のルートは、廃線や減便となる予定だ。

箕面市民:
だんだん体力が落ちてくるから、今は歩けるけど(バスに)頼らないといけない時期が目の前でしょ。みんな不安に思っているんじゃないですか。(バスの)本数は今のままでいってほしい。利用者も多くて帰りも満員ぐらいの時もあるので、(減便になると)皆さん困るんじゃないかなと思います。

街の人が気になっている点について、箕面市に聞いてみた。

小山さん:
箕面市民の皆さまの意見を伺いながら、一部、社会実験路線として約1年間走らせる路線があります。バス停まで行けない方の交通手段としては、オンデマンドバス(予約制の乗り合いバス)導入の可能性も含めて、研究・検討を進めたいと考えています。

今回、取材した「箕面市をめぐる北大阪急行の延伸」。そこには、箕面市の街を“よりよくしたい”という、地元の人たちの思いがあった。

これから見えてくる課題もあるかもしれないが、新しい街づくりに注目だ。

(関西テレビ「newsランナー」2023年11月29日放送)

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