アメリカ海兵隊は2023年11月15日、部隊の一部を改編し、海兵沿岸連隊・MLRを発足させた。MLRは当初、2025年に改編する予定だったが、前倒しされた背景とその役割について取材した。

我々の任務と進化を象徴

金武(きん)町にあるアメリカ軍キャンプハンセン。

2023年11月15日、海兵隊の第3海兵師団司令部と第12海兵連隊がMLR・海兵沿岸連隊に改編され、セレモニーが開かれた。

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第12海兵沿岸連隊のピーター・エルトリングハム司令官は、「第12MLRは、我々の任務と労力の重要な進化を象徴している。我々は第一列島線にいることを誇りに思い、いつでも必要な事態に対応できるような部隊である」と挨拶した。

MLR・海兵沿岸連隊は対艦ミサイル部隊を含む歩兵部隊で、アメリカ軍は小規模離島などに兵力を分散して配置するEABO(機動展開前進基地作戦)と呼ばれる戦略に力を入れている。

改編の前倒しは米中対立が起因

近年、沖縄本島や先島諸島では、自衛隊とアメリカ軍によるEABOの共同訓練も頻繁に実施されている。

MLRは当初、2025年までに改編するとされていたが、前倒しされた背景について、安全保障が専門の沖縄国際大学の野添文彬准教授は「米中の対立が起因している」と見ている。

野添文彬 准教授:
一つは中国に対抗するために、アメリカとしては一刻も早く戦略や戦力体制を整えたいという狙いがあるのだと思います。また、MLRというのを非常に重要な拠点である沖縄に立ち上げたいという狙いもあるんだろうという風に思います

野添准教授は「日本列島から台湾・フィリピンにかけての第一列島線においては、アメリカの軍事的優位が崩れているので、中国の侵攻を食い止める拒否的抑止ということが非常に重視されている」と説明していて、MLRの改編は、アメリカ軍の台湾有事における沖縄での戦略の見直しの一つと見ている。

そもそも、「第一列島線」とは、中国が海洋上に独自に設定した軍事的防衛ラインで、九州から沖縄本島、そして宮古島や石垣島などに及んでいる。

アメリカ軍のEABOは第一列島線上の小規模離島でMLRの部隊を運用することで、中国の海洋進出をけん制したい狙いがあると見られる。

第3海兵師団のクリスチャン・F・ワートマン司令官は、「MLRが西太平洋に居ることで、効果的な抑止力なり、危機が生じた場合の対応力も高まると我々は考えている」と述べた。

民間施設も含めて使用

一方、野添准教授は「民間施設なども含めて使用し、そこで戦力を立て直して中国に対抗するといった分散化などを戦略の中心に置いている」と指摘し、こうした部隊の運用は、アメリカ軍基地や自衛隊基地のみならず、空港や港湾など民間施設も拠点になり得ると話す。

政府は2022年末に閣議決定で改定した安保三文書で、民間施設の活用を謳っている。

こうした軍事を優先する動きは、沖縄のさらなる基地負担に繋がりかねないと野添准教授は指摘する。

野添文彬 准教授:
空港であったり港湾というのは、民間の経済活動や生活のための非常に大事なインフラなわけですから、そういう所が訓練によって影響を受けるということは避けなければいけないです

アメリカ軍も参加して行われている自衛隊の統合演習では、全国各地の民間空港が使用されている。

また11月15日、那覇空港が攻撃を受けたと想定して、自衛隊那覇基地では穴の空いた滑走路を復旧する訓練が実施された。

自衛隊担当者は訓練について、「滑走路というのは、我が国防衛の中では非常に重要なインフラ。インフラの機能を維持していくことについては、非常に重要な能力機能であると考えている」と話し、訓練の意義を強調する。

いっぽうで、民間施設の使用も防衛のためやむを得ないという姿勢は、沖縄の基地負担をさらに重くする恐れがある。

沖縄の基地負担の議論は置き去りのまま

アメリカ軍再編による在沖アメリカ軍の統合計画では、MLRに改編された部隊は当初、2024年にグアム移転の予定であった。

その代わりに移転する部隊はまだ決まっていない。

野添准教授は「(MLRという)小規模の部隊でいろんなところで活動して訓練するという部隊ができることによって、人々の生活への負担っていうのは高まる可能性はある」「グアムなどへの海兵隊の移転ということも加速化させて、目に見える沖縄の基地負担の軽減を進めていかなければ、沖縄の人々の負担感というのは増すばかりではないかな」と指摘する。

沖縄の基地、そして、民間施設の軍事利用が急速に進むなか政府が掲げる沖縄の基地負担の議論は、置き去りにされたままである。

安全保障を掲げて沖縄の軍事力強化が推し進められていくなか、有事の際に沖縄が前線に立たされ、再び戦場とならないように政府やアメリカ軍の動向を注視していかなければならない。

(沖縄テレビ)

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