宮城の郷土料理「はらこ飯」が窮地に立たされている。2023年、宮城県内で水揚げされた秋サケは2022年の1割に満たず、「はらこ飯」の名店でも北海道産のサケを使用せざるを得ない状況に追い込まれている。

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サケやイクラはすべて北海道産

ふっくら煮込んだサケの身に、大粒のイクラ。

煮汁で炊いたご飯と食べる「はらこ飯」は、かつて伊達政宗も味わったとされる宮城の秋の郷土料理だ。

宮城県亘理町にあるレストランで話を聞くと、この時期訪れる客のほとんどが、この「はらこ飯」を注文。多い時には1日で約300食以上の注文が入るという、まさに店の看板メニューだ。

この時季利用客のほとんどがはらこ飯を頼む
この時季利用客のほとんどがはらこ飯を頼む

実際、この日店を訪れた多くの客は、「はらこ飯」を注文。運ばれてきた「はらこ飯」を口いっぱいにほおばり、笑顔を見せていた。

そんな宮城の郷土料理「はらこ飯」だが、ここ数年である異変が起きているという。

「ここ3~4年くらい、北海道産になってきている。三陸での水揚げもあるが、やっぱり少なくなってしまっている状況。今年もほぼ北海道産頼みという形になってしまっている。本来、郷土料理ということでやっているが、実質、宮城県産のサケというのはほぼ無い状態」
(レストラン「田園」運営会社 菅野武貴社長)

15年前には年間300万匹以上、宮城県内で水揚げされていた秋サケだが、2022年は3万匹とわずか1%ほどに減少

2023年に至っては、漁期も折り返しを迎えた10月末までに、わずか1726匹と深刻な不漁に陥っている。北海道産のサケに頼らなければならない状況になっているのだ。

以前はクリスマスの時季まで、はらこ飯を提供していたこちらの店では、記録的な不漁を受け、2023年のはらこ飯の提供を11月末までに短縮。

サケやイクラの仕入れ価格は高騰しているものの、企業努力などを重ね価格は据え置きにしているという。

「伝統ある郷土料理なので、これからも守り続けていかないといけない。北海道産頼みになると思うですけど、そこは続けていきたい」と菅野社長は話していた。

不漁背景①稚魚の減少

2023年の不漁の背景には、4年前の稚魚の減少が関係しているとみられている。

サケが遡上する、県最北部・気仙沼市の大川を取材すると、午前6時、川に張られた網には10匹ほどのサケがかかっていた。

サケが遡上する気仙沼市・大川
サケが遡上する気仙沼市・大川

大川では毎年10月ごろから地元の生産組合の人たちが採卵用にサケを捕獲。数カ月かけて卵から育てた稚魚を川に放流している。

 
 

サケの稚魚の放流数の推移を見てみると、2018年まで宮城県全体で、5000万匹以上で推移していた放流数は2019年、約2000万匹まで減少している。この背景には川に帰ってくる親サケの減少があるのだという。

15年前には年間で約7万7000匹が捕獲された大川のサケ漁。
川幅いっぱいに張った網から次々とサケが捕獲され卵の量も十分に確保できていた。

以前は年間7万匹を超えるサケが捕獲できていた
以前は年間7万匹を超えるサケが捕獲できていた

しかし、今シーズンは10月末時点で289匹。この日も網にかかったのはわずか19匹だった。

一般的に放流から4年後に川へ帰ってくるサケ。今年は卵の確保も容易ではなく、放流数の減少につながるおそれがあり、このままではさらにその4年後、大幅な減少が見込まれる。

今シーズン サケ捕獲量は劇的に少なくなっている
今シーズン サケ捕獲量は劇的に少なくなっている

気仙沼鮭漁業生産組合の管野幸一組合長は「真剣に考えなければ存続に関わる。これが2、3年続くと厳しい。瀬戸際に来ている。行政でみんなで考えないと打つ手がない」と表情を曇らせた。

気仙沼鮭漁業生産組合 管野幸一組合長
気仙沼鮭漁業生産組合 管野幸一組合長

不漁背景②海水温の上昇

実際、4年前に限らず、宮城県内の川に帰ってくるサケは減り続けているのが現状だ。理由について、サケの生態に詳しい専門家は「海水温の上昇」に伴う環境の変化を挙げている。

水産研究・教育機構水産資源研究所 さけます部門 本田聡資源生態部長
水産研究・教育機構水産資源研究所 さけます部門 本田聡資源生態部長

「あたたかい水がより多くを占めることになって、暖水性の魚食性の魚、魚を食べる魚がより多く北上するようになって、サケ稚魚の放流時期とぶつかってしまった」
(水産研究・教育機構水産資源研究所 さけます部門 本田聡資源生態部長)

サケの通り道となる三陸沖は、近年海水温が上昇。南方からサバなどサケの稚魚を食べる天敵が入ってくるようになったという。

このほかにも、稚魚のエサが減少していることや、無事、成長できたとしても周辺の海域の水温が高く、川に近付けない状況になっている可能性が高いと専門家は見ている。

地球温暖化とは別に、10年20年周期で温暖期と寒冷期が交互にやって来る。今はちょうど温暖期。水温が高いということは、余計に生き残るための体力を使う。サケにとって厳しい環境が続いている。今のところは寒冷期が来る予兆は観測されていない」
(水産研究・教育機構水産資源研究所 さけます部門 本田聡資源生態部長)

先行きが見通せない中でも、11月、大川のサケのふ化場に朗報が届いた。北海道から約140万粒の卵を移し入れることができたのだという。

北海道から移入された約140万粒のサケの卵
北海道から移入された約140万粒のサケの卵

ほとんどが人工ふ化放流に依存する日本のサケの生産にとって、良質な卵が確保できたことの意味は大きい。

地域の食文化を支える秋サケ漁。郷土の誇りをこれからも守っていくために、関係者の努力が続いていく。

(仙台放送)

仙台放送
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