2023年4月に軍事偵察衛星計画を発表してから、5月、8月と、2回も打ち上げに失敗した北朝鮮。11月21日、3回目の発射に踏み切り「成功した」と発表した。
一般的に、偵察衛星は地上300~400キロ程度の地球上空の宇宙空間を周回する。地球上空を周りながら、偵察したいターゲット(対象)の上にさしかかると、対象地点を狙って何枚もの写真を撮影する。
この記事の画像(6枚)筆者は最新の軍用光学カメラによる画像を目にした事があるが、数10キロ離れた人物にズームして詳細を明らかにできる能力があった。そこに存在する人物が誰なのかはおろか、その人物が笑っているか、しかめ面なのか、その表情まで確認することが可能である。
北朝鮮の偵察衛星が搭載するカメラの能力は
こうした解像度(分解能)の高いカメラを北朝鮮が本当に保有しているのかが最も大事なポイントだ。その手がかりがある。軍事偵察衛星計画が発表された直後の5月、北朝鮮メディアが公開した、金正恩親子が視察した「衛星の実物らしき物体」が写った画像だ。
この「衛星らしき物体」が物議を醸した。
ある政府関係者は、物体の大きさから推定すると画像の解像度はそれ程高くないと分析した。高解像度の画像を撮影するためにはレンズも大型になるため、北朝鮮が公開した「衛星らしき物体」が実物だとすれば、高解像度の画像は撮影できないという。
ところが別の政府関係者は、最近の偵察衛星用のカメラは小型化しており画像解像度も格段に上がっているため、一概に大きさからカメラの性能をはかるのが難しくなっていると指摘している。
北の狙いはアメリカ本土のターゲティング
4月に北朝鮮がロフテッド軌道で弾道ミサイルを発射した際には日本列島と朝鮮半島を宇宙空間から写した画像を公表している。
今回はアメリカ本土をターゲティングできることを少しでも匂わせるような画像を示し、打ち上げ成功を世界にアピールしたいのが北朝鮮の本音だろう。
北朝鮮の軍事力が実際にどの程度のレベルなのか、未だベールに包まれている部分は多い。
北朝鮮はアメリカ本土に届くICBMを保有しているとみられるが、実際に核弾頭を搭載して弾道ミサイルを発射し、弾頭を大気圏に再突入させ目標に着弾させることができるのかは全くの未知数だ。例えば北朝鮮はロフテッド軌道でICBM級の弾道ミサイルを何度も発射しているが、アメリカ本土に向かうミサイルのノーズコーンが、ロフテッド軌道の時より長時間に及ぶ大気圏再突入で生じる高熱に耐えられるのか明らかになっていない。
ロシアの技術者がテコ入れ指導?
2023年に入ってからの軍事偵察衛星の発射でも、8月の失敗では、弾道ミサイルを大気圏外に打ち上げるコースの修正に失敗したとみられている。
北朝鮮が南方向にミサイルを発射する場合は、衛星を打ち上げ後、進路を微妙に東に修正しなければいけない。そのまま南に打ち込めばフィリピンにブースターが落下してしまう恐れがあるからだ。度重なる失敗はそのための進路修正が上手くいかなかったことが原因とみられる。
ロシアの衛星技術者が急遽北朝鮮を訪れ、今回の発射に向け技術指導を行ったとの情報もある。こうしたことから北朝鮮の弾道ミサイル技術は未だ道半ばであるとの指摘もある。
とはいえ、去年から前例のない頻度でのミサイル発射を繰り返している北朝鮮の弾道ミサイル能力が、弾種、発射方法、発射軌道などにおいて日進月歩で進化していることは否めない。
アメリカ本土にある具体的な目標をターゲティングできると主張してくるとすれば、世界の安全保障にとっての脅威のフェーズも1段上がってくると言わざるを得ない。今回の発射に関する北朝鮮による今後の発表が注目される。
【執筆:フジテレビ解説委員 上法玄】