猛烈な空腹感とともに手が震えたり、冷や汗が出たりすることがある人はいないだろうか。

そんなときは自分で調べることもあるだろうが、「空腹」「冷や汗」「震え」というワードで検索すると「低血糖」に関連するページが表示されることが多い。この「低血糖」とは、「血糖値が一定の値を下回った状態で、低血糖になると『冷や汗』や『震え』などの症状が出る」などと記載されている。

また低血糖を説明するページの中には、「糖尿病の治療で血糖値を下げる薬を使用している人に起こる」と説明しているものもある。

では糖尿病の治療をしていない人で、このような症状が出るケースは一体なぜなのだろうか。考えられる理由や受診するべきは? 国立国際医療研究センター糖尿病情報センターの大杉満センター長に話を聞いた。

空腹時の「冷や汗」「震え」は低血糖の可能性

――猛烈な空腹感とともに「冷や汗」や「震え」が出てくるのは低血糖なの?

診断には医療機関での検査が必要になりますが、可能性はあります。なお、診断するには次の三つの条件を満たしている必要があります。

1.症状が空腹時に起きる。
2.症状が低血糖時に起きる(幅広い定義では血糖値が70mg/dL未満、厳密には54mg/dL以下)。
3.症状が炭水化物(糖質)の摂取によって軽減する。


――そもそも低血糖とはどんな状態?どんな症状が表れるの?

まず、血液中を流れるブドウ糖(血糖)の濃度のことを血糖値と呼びます。血糖は、血糖値を下げる働きをするホルモンであるインスリンの助けにより細胞に取り込まれ、人が活動するためのエネルギーとなります。低血糖とは、この血糖値が基準値を下回った状態です。

低血糖になると様々な症状が表れます。

まず、約70mg/dL以下になると、発汗、不安、動悸、頻脈、手指振戦(震え)、顔面蒼白の症状が表れます。そして50mg/dL程度になると、頭痛、目のかすみ、空腹感、眠気、生あくびの症状が出始め、50mg/dL以下になると、意識レベル低下、異常行動、痙攣、昏睡が起こります。

低血糖の場合スティックシュガー2本程度で症状が改善する(画像はイメージ)
低血糖の場合スティックシュガー2本程度で症状が改善する(画像はイメージ)
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低血糖の症状は、5~10g程度の糖質を摂取することで改善します。そのため、低血糖かもしれないと感じたらスティックシュガー2本程度を摂取してみてください。それで改善するかどうかが低血糖かどうかのひとつの目安になります。

食事時間の調整や食べる順番で予防も

――低血糖の症状はどんな時に出やすいの?

糖尿病薬を使用している場合以外では、食事の量や炭水化物の不足、運動中(運動量や時間が多い時)、運動後、空腹での運動、飲酒、入浴があります。

運動中や後に症状が出ることもある(画像はイメージ)
運動中や後に症状が出ることもある(画像はイメージ)

――もし低血糖だった場合、症状が出ないようにするためにどんなことを心がければいい?

どんな時に低血糖症状が出やすいかを把握して、低血糖症状が出やすいタイミングで空腹にならないように食事の時間を調整しましょう。

また、食事を取る際は、炭水化物を食べる前に野菜やタンパク質を先に取るように心掛けてください。食べ始めてから10~15分後くらいに炭水化物を食べ始めるのがいいと言われています。これは、空腹状態で炭水化物を取ると血糖値がより高く上がりやすくなり、それが下がった際に低血糖域になりやすくなってしまうためです。

ジュースは街中で手に入れやすい(画像はイメージ)
ジュースは街中で手に入れやすい(画像はイメージ)

症状が出た時に備えて、手軽に糖質を補給できるものを常備しておくことも大切です。おすすめなのは、糖質の中でも“単糖”という種類に分類されるブドウ糖が豊富に含まれたジュースや食品です(固形のブドウ糖も販売されている)。一方で、チョコレートは糖の吸収が緩やかなのですぐに効果が表れづらいため、あまりおすすめできません。

体重の増減があった人も注意を

――ネットで調べると、糖尿病の治療をしている人が低血糖になりやすいとあったが、そうではない人でもなる場合はあるの?

糖尿病の治療以外で低血糖になる可能性がある状態が三つあります。

一つ目は、胃やその周辺の臓器の疾患で胃の一部を切除した場合です。この場合は、本来の胃の形が変わってしまったため、食べ物を体内で保持・消化する時間が少なく、血糖値が急速に上昇・低下し、低血糖になる場合があります。

二つめは、血糖を下げるインスリンを出す腫瘍(インスリノーマ)が存在する場合です。この場合は、血糖値が低いにもかかわらず血糖値を下げるインスリンが過剰に出ているので、低血糖になりやすくなります。ただしこれは稀な病気です。

三つめは、いわゆる“反応性・機能性低血糖”といわれるものです。糖尿病予備軍の人、肥満の人、過去に肥満があった人、また、太っていなくても過去に瘦せていて体重が増えた人に見られやすいと言われています。

この場合、インスリンは分泌しているけれども効き目が悪く、また分泌のタイミングが血糖上昇よりも遅く、かつ量が多めに分泌されることが多いため、時間が経ってから血糖値が下がります。このため、食事の数時間後に低血糖になりやすくなります。

日常生活に支障が出る人は受診の検討を

――低血糖の心当たりがある人で、医療機関を受診したほうがいい人は?

症状が頻繁に出て日常生活や仕事に支障を来している場合や、症状が強く出て他人の助けを借りる必要が出た場合は医療機関を受診したほうがよいでしょう。

とりわけ、朝一番の空腹状態の時に低血糖を疑う症状が出る人は要注意なので、受診をおすすめします。これに該当する人は、肝硬変など先ほど挙げた三つ以外の原因が隠れている場合があります。


――受診するならどの科に行くべき?

内分泌内科、糖尿病内科がある病院やクリニックか、どの科を受診すべきかを振り分けてくれる機能を持つ総合診療科がある病院やクリニックがよいでしょう。

受診する際は、糖質を取った際に症状が改善するかどうか、日常生活のどのタイミングで症状が出やすいかを、食事の時間とともに記録を取っておくと、医師が診断する際のヒントになります。

なお、反応性・機能性低血糖の診断は、「75グラム糖負荷試験」を行います。ただし、糖尿病の診断に用いる際には2時間までの血糖値などを測定しますが、反応性・機能性低血糖の場合には5時間程度かかります。検査を希望する場合は、事前に確認するとよいでしょう。検査は保険適用で受けることができます。



低血糖は、生活パターンや食事のとり方で防ぐことができるそうだ。ただし、正確な診断には医療機関での検査が必要とのこと。もし、日常生活に支障が出るほど悩んでいるならば受診を検討してみるのがいいかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。