北海道内でクマの出没が急増する中、北海道東部では、4年間で66頭もの牛を襲い続けた「OSO18」が2023年7月に駆除された。
しかし駆除したハンターや自治体に対し「なぜ殺したのか」「クマがかわいそう」「他に方法があったのではないか」といった苦情が数十件も殺到した。
相次ぐ苦情 道内外での反応の違い
2021年度には捕獲頭数が初めて1000頭を超え、過去最多となる深刻な状況が続く一方、人命を守るための駆除に苦情が相次いでいるのが現状だ。
この記事の画像(11枚)2023年7月に札幌市南区で母グマが駆除されたケースでは、札幌市に対し約650件の意見が寄せられた。
その中には「悪いことをしていないのになぜ殺すのか」「子グマを殺すな」「子グマを保護してほしい」といった苦情もあった。
実際に北海道民はどう考えているのか。
「捕獲して自然に戻すことができれば一番良いが、なかなか難しい」
「人を襲うので怖い。駆除に対しての助力はある程度必要」
「人間の命の方が大事。駆除しないと大変なことになる。これからどんどん被害が続出する」
「危険なクマから守ってくれる人たち(ハンターなど)に対し、苦情をぶつけるのは違うと思う」
マチで聞く北海道民の意見の多くが、駆除に肯定的な意見だった。
道も、駆除に対する批判的な意見は、ほとんど道外から寄せられたものとみている。
OSO18駆除に対する批判が相次いだ猟友会標茶支部の後藤勲支部長は、批判にさらされるハンターの今後について懸念している。
「クマを獲ってそんなに批判されるならハンターをやめたと。当然そうなるわけですよ。鉄砲を持たなくなってしまう。将来がどうなってしまうのか」(猟友会標茶支部 後藤勲支部長)
ハンター養成 実践的な訓練も
高齢化が進むハンター。その養成に向けた動きも出ている。
10月、札幌市南区の住宅街近くにクマが出没したとの想定で訓練が実施された。
「銃のカバー外してください」(札幌市ヒグマ防除隊)
ハンターが携えるのは模型の銃。
訓練には札幌市や北海道警のほか、市の委託を受けた射撃の高い技術などを持ったハンターからなる「札幌市ヒグマ防除隊」も参加した。
相次ぐクマ出没を受け、実践的な訓練に初めて踏み切ったのだ。
北海道では、クマが人の生活圏に現れた場合の対応をあらかじめ決めている。
クマの出没場所や行動により、問題のない個体から緊急の対応が必要な個体までクマの有害性を段階的に判断するのだ。
特に難しい判断を迫られる「市街地に現れたクマ」
すべてが駆除の対象となるわけではなく、人とのあつれきの程度に加え、ごみや農作物への執着などクマの行動を考慮するため関係機関の連携が必要不可欠となる。
訓練ではそれぞれの役割を確認しつつ、現場で集められた情報からクマへの対応をどうするか判断する。
クマと最前線で向き合う現場では、難しい決断が迫られていた。
「やむを得ない」苦悩する現場
一方で「駆除」に対し、相次いで批判が寄せられることが現場を悩ませている。
全道のクマ対策を検討する北海道の担当者は、
「人を恐れないで何度も市街地に出てくるクマは、危険なものとして捕獲しなければならない場合もある。やむを得ず駆除をしているという事実を、多くの人に知ってもらいたい」(北海道の担当者)
猟友会では現場で駆除を行うハンターに戸惑いが生じることを心配している。
「我々は最もクマとの共存を望んでいる。手を汚さなければならない仕事を隊員に強いている。彼らのモチベーションを維持するためにも、皆さんの理解をいただく機会が増えていけばよい」(札幌市ヒグマ防除隊)
ハンターが銃を発砲する際、現場で立ち会う警察は、
「北海道警の相談係にも批判は寄せられている。市民の安全、道民の安全を考慮した上で駆除は必要になってくる」(道警の担当者)
相次ぐ市街地への出没で常に駆除の判断が迫られる札幌市は、
「防除隊もやりたくてやっているわけではない。防除隊は札幌市から依頼を受けて駆除している。行政にものを言われるのは仕方がないと思うが、防除隊にそういう話はしてほしくない」(市の担当者)
専門家は理解を呼びかける
一方でクマの生態に詳しい専門家は、
「特に札幌市近郊のクマの出没状況を見ると、住宅地に隣接する森林に多くのクマが定着していて、人に慣れているような行動を多く取るという状況が分かってきた。地域の人間の安全を守るということが重視される。そのためには駆除もやむを得ない。そのあたりを理解してほしい」(酪農学園大学 佐藤喜和教授)
様々な要素を考慮して決められるクマの「駆除」。
最前線からは理解を求める声が聴こえてきた。