東京の街を舞台に2年に1度開催する国際芸術祭、「東京ビエンナーレ2023」が行われている。
この記事の画像(7枚)東京ビエンナーレは、世界中からアーティストらが集結し、地域住民や企業と一緒につくり上げる芸術祭だ。アートと地域、企業のつながりについて取材した。
街中でアートと出会うワクワク体験
「海外から出展の公募をしたところ、約1500組の応募がありました」
こう語るのは、東京ビエンナーレの総合ディレクターを務める、東京藝術大学教授の中村政人さんだ。
東京ビエンナーレは今回で2回目の開催だが、その前身は1970年にあったという。
「1970年に行われた日本国際芸術祭、通称・東京ビエンナーレは、世界的にインパクトがあって、当時の出展者はその後世界を代表するアーティストに育ったんですね。ですから東京ビエンナーレを開催すると発表すると反響が大きかったです」
東京ビエンナーレは街が舞台だ。だから作品は美術館ではなく、日常の街中に点在する。作品が展示される場所は、東京駅周辺のオフィス街や上野のお寺の境内、神田にある100年続く商店の中など様々だ。また、体験型のワークショップもある。
街中で突然アートと出会うのはワクワクする体験だ。アートという視点で街を歩くと、普段何気なく感じる風景がまったく違って見えてくる。
神田の商店やオフィス街に現れるアート作品
筆者もいくつか展示を見て回ってみた。そのお気に入りの1つが、神田にある関東大震災後の復興期に建てられたという商店に展示されていた「パブローブ」だ。
「パブローブ」とは「パブリック」と「ワードロープ」を組み合わせた造語で、関東大震災から100年の間に着られた服を一般市民から募集して展示するプロジェクトだ。服にはそれぞれ所有者のメッセージが寄せられ、来場者はそれを読みながらその服を着た人々の人生や、当時の暮らしに想いを馳せる。また会場では、展示している服を来場者が借りることもできる。
また、オフィス街である大手町のビルのはざまに突然現れる竹やロープを使ったアート作品は、オーストラリアのアーティストグループが行った市民参加型のアートプロジェクトだ。このエリアのビジネスパーソンや学生など地元の人々が参加してつくりあげたのは、持続可能性や多文化共生をテーマにしたカラフルな作品。このエリアの無機質さを包み込むような人と自然の温かさにあふれている。
アートが“企業活動の1つ”に
東京ビエンナーレのテーマは、「リンケージ つながりをつくる」だ。その理由について、中村氏はこう語る。
「行政主導の芸術祭ではないので、運営には地域や企業の協力が無ければ成立しませんでした。今回『つながり』をテーマにしたのは、いわゆる観光資源としてのプロジェクトではなく、各プロジェクトが地元に密着するプロセスを大事にしているからです」
今回つながった企業の中には、「当初、アートに苦手意識を持っている方が多かった」と中村氏はいう。
「これまで定期的に企業の皆さんが集まって、企業の文化活動のことを話し合ったりしてきましたが、ある企業の方が『最近会社の中でアートの話をしたら友達が増えたんですよ』と言うんです。企業の中でアートが話題になったり、一緒に考えたりする。それがだんだん企業の文化活動、そして企業活動の1つとして捉えられていくのですね」
「批評性を持った柔軟な思考」を様々な分野につなげる
そして東京ビエンナーレでは、学生とのつながりも大切にした。プロジェクトに学生が参加することで、課題解決力のある人材育成に貢献することも目指したのだ。
「超分別ゴミ箱2023プロジェクト」は、プラスチックのゴミがゴミ箱へ捨てられたあと、どこに行き、どうなるのかを考えるアートプロジェクトだ。参加した高校生は自分の家庭で出たプラスチックゴミを洗って持ち寄り、アーティストと一緒に作品に仕上げることで、ゴミについて考えた。
中村氏は「東京藝大の先生が言うのもなんですが」と苦笑しながらこう語った。
「アートには本来、批評性を持った柔軟な思考があります。しかし子どもたちは、学校教育の中でそこまでなかなかたどり着けません。教育においてアートは、科学技術や数学など様々な分野に接続していく可能性を秘めていると思います。いまSTEAM教育の大切さが言われているのはまさにそういうことです」
“海外アーティストが滞在しにくい街”東京…国際化が課題
東京ビエンナーレの次の開催は2年後の2025年だ。最後に中村氏に、次の実現に向けた課題を聞いてみた。
「やはり国際化ですね。東京は海外のアーティストが滞在しにくい街です。物価が高いし受け入れる施設も少ない。国際芸術祭には海外のアーティストが滞在して創作活動を行うアーティスト・イン・レジデンスが必要です。これによって地域の人がアートに直に触れる機会も増えることができますから」
東京ビエンナーレは、11月5日にフィナーレを迎える。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】