新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が推奨されるようになり、今後も在宅での仕事が続いていくことが予想される。

“暮らす”場所だった自宅が、コロナを機に“働く”場所にもなり、快適な在宅勤務生活を送るために環境を整える必要が出てきた。

在宅勤務が推奨されるようになってから4カ月ほど経ち、自粛生活も緩和されるようになった今、自宅で感じていた不便さを解消するために、引っ越しなど検討する人もいるだろう。

住宅ジャーナリストの山下和之さんにアフターコロナで考えられる住まいの価値基準の変化について聞くと、キーワードは「広さ」を挙げた。

働きやすい家は「広さ」が重要

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山下さんは、住まいの「立地」、「広さ」、「安全性」の3つの方向から考えが大きく変わりつつあるという。

1つ目の「立地」について、「テレワークや在宅勤務の増加で勤務先に近いことにとらわれなくてもいいようになってきました。郊外や地方でも十分、仕事ができるのであれば、高くて狭い都心近くの家でなくても構わなくなった」と分析。

2つ目の「広さ」は、在宅ワークが多くなると仕事に集中するスペースが欠かせなくなるため、住まいに一定の広さが求められるといい、3つ目の「安全性」は、住まいにウイルスを持ち込まないことが原則になるためだと指摘する。

その理由を山下さんは、「マンションは敷地内で“密”になる可能性が高く、一戸建ての方が安心。また、部屋数の多い一戸建ての方がテレワークもしやすく、万が一感染の疑いが出ても、家庭内で隔離がしやすい」と話した。

在宅で仕事をすることを踏まえて、住まいの価値基準が変化していく中で、働きやすい家についても、重要とされるのは「広さ」だと山下さんは語る。

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「夫婦で在宅勤務していると、小さな子どもがいれば集中できずに子育てもおろそかになってしまう。ストレスが溜まり、家庭内暴力や児童虐待、“コロナ離婚”のもとにもなるでしょう。そのために、“住まいの広さ”が求められます。

住まいの中にワークスペースを確保できる家であることが前提に。これまで日本の住まいは、一戸建ての一部、または専有面積の広い富裕層向けの高級マンション以外ではそうなっていなかった。

コロナ禍を受け、最近はワークスペースのある一戸建てや新築マンションが増えてきています。リフォームでもワークスペースを設置できる商品が出ていますが、一定の広さがないとスペースを確保するのが難しい」

そのため、山下さんは、「これからは都心近くにこだわらず、より広い家、スペースを確保できる一戸建てや郊外の住まいが注目されるようになる」と予測した。

都心よりも郊外や地方が注目される

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リクルート住まいカンパニーが5月に首都圏在住の20~69歳の男女を対象に行った調査(SUUMO調べ)でも、マイホームを検討中の人でコロナ禍によって検討種別を変更したという人も。

コロナ拡大の住まい探しへの影響は、34%がないとしつつも、そのうち8%は「検討している物件の種別が変わった」、9%は「検討している物件のエリアが変わった」など、変化が表れている。

SUUMO調べ
SUUMO調べ

「種別が変わった」と答えた8%の中で、「マンションを検討していたが、一戸建て検討に変わった人」が50%もいた。

山下さんは「特に20~30代の比較的若い世代でマンションから一戸建てに切り替える人が目立っています。この世代は子育て中の人が多く、一戸建ての広い家が必要と考えている人が増えてきているのでしょう」と分析した。

また、コロナ禍で引っ越しを考えるようになった人が増え、通勤時間が長くなってもいいという人も増加し、駅近の必要性もなくなってきたことから、「広さと徒歩時間を天秤にかけた場合、徒歩時間が短いより、遠くても広い家を希望する人が増えてきている」と指摘した。

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今後、住まいを選ぶ際に重要となるポイントについて、山下さんは「無理して都心近くの高い住まいを手に入れようと頑張る必要はなくなる」と話す。

「郊外や地方の住まいでもいいのではないか、その方が安全・安心な生活を送れるようになるのではないか、と考える人が増えてくるのではないかと思います。都心やその近く、また駅近にこだわる必要はなくなります。

もちろん、お金のある層は都心の利便性の高い、人気エリアの住まいを希望するのは変わりません。都心の住まいが安くなることはないでしょうが、その周辺のさほど人気のないエリアは下がる可能性は高いです。

一方で、郊外近くのターミナル駅の人気が高まると思います。ターミナル駅であれば、都心へのアクセスだけでなく、地方やリゾートへのアクセスも便利で、商業施設や教育施設、医療施設などの生活利便施設がそろっています。首都圏では、ターミナル駅でもこれまであまり注目されていなかった多摩センターや八王子などがあげられます」

コロナがきっかけとなり、働き方も変わり、テレワークがメインになりつつあるが、一方、自宅で働けるようにするための「住まい改革」も必要に。アフターコロナは人々の住まい選びの基準も大きく変えていくかもしれない。

山下和之
住宅ジャーナリスト。住宅・不動産分野を中心に新聞・雑誌。単行本などの取材、執筆のほか、各種講演、メディア出演など広範に活動。主な著書に『家を買う。その前に知っておきたいこと』(日本実業出版社)、『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(学研プラス)、『2017~2018年度版住宅ローン相談ハンドブック』(近代セールス社)などがある。

プライムオンライン編集部
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