米情報機関が、アルカイダの現状について、「組織的な弱体化が見られる」との分析結果を公表した。一方で、アルカイダ以外のテロの脅威は依然として存在し、その中でも「イスラム国のホラサン州」が注目を集めている。
米情報機関と国連がアルカイダの現状を分析
9.11テロから22年となる中、米情報機関は9月半ば、国際テロ組織アルカイダがアフガニスタンやパキスタンで以前のような規模で勢力を復活させる可能性は乏しいとする新たな分析結果をまとめた。
米情報機関はアルカイダについて、同組織の規模は歴史的な経緯をふまえても今日最悪の状況にあり、アフガニスタンやパキスタンなどを拠点としてアメリカへ脅威を与える能力は過去数十年で最低レベルにあると結論づけた。

確かに、2021年夏にはアルカイダ指導者アイマン・ザワヒリがアメリカの掃討作戦によって首都カブール郊外で殺害され、それ以降後継者が発表されなかったという点をふまえれば、それらはアルカイダの組織的弱体化を印象づけるものとなろう。
一方、国連の対テロモニタリングチームは2023年、アルカイダとアフガニスタンで実権を握るイスラム主義勢力タリバンとの関係は依然として強く、アルカイダのメンバーは同国に400人余り存在し、アフガニスタン西部バードギース州、南部ヘルマンド州やザーブル州、東部のナンガルハール州やヌーリスターン州など、各地に新たな軍事訓練キャンプを設置しているとの分析結果を公表した。
アメリカの情報機関が示した結論と国連が示す結論では脅威認識が大きく異なるが、われわれは現状、国際的に差し迫ったテロの脅威を与える可能性は低いものの、中長期的な潜在的脅威としては排除できないという視点に立つべきだろう。
アルカイダだけではないアフガン発のテロの脅威
だが、アフガニスタン発のテロの脅威はアルカイダだけではない。
アルカイダのほかにも、インド亜大陸のアルカイダや「イスラム国のホラサン州(ISKP)」、中国が警戒するウイグル系過激派、ロシアやインドなどを敵視するイスラム過激派など、20余りのグループが依然としてアフガニスタン国内に存在し、テロ研究者の間では、特に「イスラム国のホラサン州」の対外的攻撃性に注目が集まっている。
2021年夏に、アフガニスタンで権力を再び掌握したタリバンは、アルカイダと一定の関係を保つ一方、 ISKPの弱体化、破壊を目指すべく厳しい姿勢を貫いている。
ISKPにはタリバンから離反した戦闘員も多く参加しているとみられるが、実権を握って以降、タリバンはISKPへの対テロ掃討作戦を強化し、戦闘員の殺害や拘束を続けている。それが功を奏し、アフガニスタン国内でISKPの活動は近年縮小しており、テロ事件数も減少傾向にある。
国際的なテロ活動に関心移すISKP
だが、ISKPはその分、国際的なテロ活動に関心を移しているようだ。
ISKPは、ほかのイスラム国系組織と違い、独自で国際的なプロパガンダ活動を強化し、発信するコンテンツも英語やアラビア語のほかに、パシュトゥン語、ウルドゥー語、タジキスタン語、ウズベキスタン語などに訳し、その中で、インドやイラン、パキスタン、ウズベキスタンやタジキスタンなどの周辺諸国、サウジアラビアやイスラエルなどの中東諸国、アメリカや中国、ロシアなど大国への敵意を示している。

また実際に、そういった諸外国を狙った行動にも着手している。
行動といってもさまざまで、ISKPのメンバーが計画から実行にまで関与するものもあれば、個人を過激化させて、自発的・単独的なテロを起こさせようとするものもあるが、ISKPはパキスタン国内でテロ活動を継続する以外にも、近年は国境を接するウズベキスタンやタジキスタン領内へロケット弾を打ち込むなどしている。
また、アメリカのシンクタンク ” The Washington Institute for Near East Policy”に所属する中東専門家・Aaron Zelinによると、諸外国では、これまでに少なくとも15件のISKPがらみのテロ未遂事件(イラン4件、インド3件、ドイツ3件、トルコ3件、モルディブ1件、カタール1件)が発覚し、しかもそのうち11件は、タリバンが実権を握った後に発覚している(2022年に5件、2023年は8月までに6件)。
2020年以降、アメリカやイギリス、インドやトルコなど各国では、ホラサン州のメンバーや支持者たちが資金調達やリクルート活動に従事したなどとして逮捕されるケースが続き、ホラサン州の対外活動においてはタジキスタン国籍の容疑者らが関与するケースが多いとみられる。

9.11テロを実行したアルカイダと今日のISKPが置かれる状況は異なる。
アルカイダに隠れみのを与え続けたタリバンは今日、ISKPの根絶を目指している。しかし、ISKPの幹部ら一部のメンバーは、すでにアフガニスタンの外に逃亡したともいわれ、今後の行方が懸念される。ISKPは、アフガニスタン国内でも中国人が宿泊するホテルを襲撃し(発信するメッセージでも中国への敵意を強く示す)、アフガニスタン国内にあるロシアやパキスタンの大使館を狙ったテロを起こしている。こういった事件は、ISKPの関心がアフガニスタンの外にもあることを想像させる。
2001年と2023年の世界では、イスラム過激派への懸念やテロ対策はまるで異なり、ISKPがアルカイダのような9.11テロを実行できるわけではないだろう。しかし、われわれは国際テロを実行するのはアルカイダだけではないことを認識する必要がある。
【執筆: 和田大樹】