静岡県がリニア新幹線の工事を認めない理由のひとつが、大井川の流量減少の懸念だ。その大井川で国が実施した護岸工事で、井戸水が枯れたり出にくくなった。農作物が全滅した農家が抗議し、国交省は周辺の井戸水調査を実施した。住民説明会で説明した今後の対応は、これまでと一変していた。

リニアも護岸工事も国交省が所管

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国土交通省・静岡河川事務所の護岸工事で井戸水に影響が出たのは、静岡県島田市の神座地区だ。大雨の増水による浸食を防ぐため、2020年から川底をコンクリートで補強する工事を行ってきた。
大井川の上流の南アルプスはリニア新幹線の工事が予定されていて、島田市など流域の市町は工事による流量減少を心配している。リニア新幹線はJR東海が建設するが、所管官庁は今回の護岸工事と同じ国交省だ。

大井川の護岸工事(島田市)
大井川の護岸工事(島田市)

護岸工事は防災のために必要で、反対する住民はいない。ただ今回はその進め方に問題があったようだ。工事で大井川の川底が掘り下げられると、周辺の地下水が引っ張られて水位が下がり、井戸水は出にくくなるのは初めから分かっていた。このため国交省・静岡河川事務所では、井戸が出にくくなった場合は市の水道に切り替え、工事を終えて水位が戻れば井戸水に戻すことにしていた。

63カ所のうち8カ所で井戸が使えず

井戸の現状調査(2023年9月)
井戸の現状調査(2023年9月)

イチゴ農家が井戸水枯れで農作物が全滅したことをSNSで発信したこともあり、国交省は2023年9月に周辺井戸の現状を調査し、その結果を10月7日に住民説明会を開いて説明した。

国交省の住民説明会(2023年10月)
国交省の住民説明会(2023年10月)

国交省によると、周辺の井戸63カ所を調査した結果、調査時点でも井戸水が戻らず市の水道を使っているのは8カ所だった。その8カ所のうちポンプが正常にもかかわらず水が出ないのは3カ所で、「あとの5カ所はポンプの老朽化や管のつまりが原因」と国交省は指摘した。ただ老朽化とみられるものも含め、水が戻らない8カ所については、工事との因果関係をさらに調べるという。
63カ所のうち一時30カ所で影響が出ていたが、そのうち22カ所は工事が終わり井戸水が元に戻ったことになる。
国交省・静岡河川事務所は、今後は井戸所有者への対応も丁寧なものに変更すると説明した。イチゴ農家が以前 話してくれた国交省や業者の対応を聞くと違いがよくわかる。

イチゴ農家は国交省と業者の対応に憤慨

苗が全滅した渡瀬さんのイチゴハウス
苗が全滅した渡瀬さんのイチゴハウス

農園カフェを営む渡瀬豊さんのイチゴハウスでは、工事が始まってから2回 井戸の水が出なくなるなどして苗が枯れた。

イチゴ農家・渡瀬豊さん
イチゴ農家・渡瀬豊さん

護岸工事を始めるにあたり静岡河川事務所から、「工事で井戸水が出なくなる可能性があるので、その時は市の水道につないで対応する」と連絡があった。だが、この井戸水と水道水との切り替えが適切に行われず、二度の被害にあったという。
最初は2021年9月だ。井戸水が出なくなり工事業者が水道に切り替えたが、渡瀬さんに連絡がなかった。このため水道水の水圧が強すぎて井戸の管が壊れて漏水し、苗に水がいかず全滅した。この時は工事業者が過失を認め、補償してくれたそうだ。

渡瀬さんの井戸
渡瀬さんの井戸

2回目は2022年10月で、渡瀬さんがハウスに行くと苗が枯れていた。前回の被害とは別の業者が事前連絡なしに水道から井戸に切り替える工事をしたが、井戸から水が上がっていなかったという。
被害が発覚した後の業者の対応に不満を感じた渡瀬さんは静岡河川事務所に問い合わせたが、静岡河川事務所からは「業者に委託してあるので業者に言って」と言われたそうだ。経営する農園カフェで提供する予定だったイチゴの苗が全滅し、1000万円ほどの被害が出たという。

「住民が困ったらすぐ対応できる体制に」

国交省の住民説明会(2023年10月)
国交省の住民説明会(2023年10月)

10月7日の説明会で国交省が説明した今後の対応は、まさにイチゴ農家とのトラブルを踏まえたものだった。
市の水道に切り替えたり、井戸水に戻したりする際、これまで井戸所有者への連絡は業者に任せていたが、これからは業者から静岡河川事務所 島田出張所に連絡をもらい、島田出張所が所有者に連絡し、切り替え作業にも職員が立ち会うことにする。

国交省静岡河川事務所・桃木優一副所長
国交省静岡河川事務所・桃木優一副所長

また観測井戸5カ所に水位がリアタイムでわかる水位計を設置する。これまでは1カ月ごとに水位計を回収し過去のデータを確認していた。
このリアルタイム水位計により、これまで井戸所有者には工事の工程表を知らせるだけだったが、これからは週1回程度水位データを知らせることで、所有者に「そろそろ切り替え時期だな」と備えをしてもらえるようにするという。水位計設置などのため10月からを予定していた護岸工事は11月着工にずれ込み、そのぶん完成も遅れる。

イチゴ農家・渡瀬豊さん
イチゴ農家・渡瀬豊さん

イチゴ農家・渡瀬豊さん:
(国交省 静岡河川事務所への抗議を)やってよかった。今までひどい対応をうけていたので、やってよかったと思う。住民が困ったらすぐに対応できる体制、連絡したら話を聞いてくれる体制をとってくれた。今後の対応に期待したい

渡瀬さんは2023年8月に取材した際、「今回の件でも対応しきれないのなら、リニアで同じように水枯れの問題が起きたときはどうなるのだろうか」と、不安を口にしていた。

リニア工事で流量減少が懸念される大井川
リニア工事で流量減少が懸念される大井川

リニア問題も所管する国交省の今回の対応は、渡瀬さんのリニア工事に対する不安も拭い去ることができるだろうか。国交省静岡河川事務所の今後の対応を、住民は見ている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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