国土交通省がおこなった川の護岸工事で周辺の井戸に影響が出た。30カ所のうち13カ所で井戸水が減少したり枯れたりして、住民が農作物被害などに対する補償を求めている。リニア新幹線の工事による“減水”が心配されている静岡県の大井川での話だ。

護岸工事で井戸13カ所に異変

大井川
大井川
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静岡県の中央を流れる大井川は、水道水をはじめ農業・工業など様々な分野で利用され、まさに流域の人たちにとっては“命の水”だ。静岡県がリニア新幹線の県内での工事を認めない理由のひとつも、上流での工事により大井川の水が減少しないかという心配だ。

その大井川の護岸工事が原因で、周辺の井戸に影響が出ている。
ミカンなど果物の栽培が盛んな島田市神座地区でのことだ。近くに新東名高速道路のインターチェンジなどがある。

大井川の護岸工事(島田市神座)
大井川の護岸工事(島田市神座)

国土交通省・静岡河川事務所は大雨の増水による浸食を防ぐため、2020年から川底をコンクリートで補強する工事を行ってきた。この工事の影響で神座地区の井戸30カ所のうち13カ所で、水量が減ったり水が出なくなったりしている。

イチゴの苗が二度全滅

渡瀬さんのイチゴハウス
渡瀬さんのイチゴハウス

農園カフェを営む渡瀬豊さんのイチゴハウスでも、工事が始まってから二度 イチゴの苗が枯れる被害を受けた。
もともと護岸工事を始めるにあたり静岡河川事務所から、「工事で井戸の水位が下がり水が出なくなる可能性があるので、その時は市の水道につないで対応する」と連絡があったそうだ。だが、この井戸水と水道水との切り替えが適切に行われなかった。

井戸水を利用した蛇口
井戸水を利用した蛇口

最初は2021年9月だ。井戸水がでなくなり工事業者が水道に切り替えたが、渡瀬さんに連絡がなく、水道水の水圧が強すぎて井戸の管が壊れて漏水し、イチゴの苗に水がいかず全滅した。この時は工事業者が過失を認め、補償してくれたそうだ。

1000万円被害…国交省「業者に言って」

渡瀬さんのイチゴハウス
渡瀬さんのイチゴハウス

2回目は2022年10月で、渡瀬さんがハウスに行くと苗が枯れていた。前回の被害とは別の業者が事前連絡なしに水道から井戸に切り替える工事をしたが、井戸から水が上がっていなかったという。
被害が発覚した後の業者の対応に不満を感じた渡瀬さんは国土交通省・静岡河川事務所に問い合わせたが、静岡河川事務所からは「業者に委託してあるので業者に言って」と言われたそうだ。経営する農園カフェで提供する予定だったイチゴの苗が全滅し、1000万円ほどの被害が出たという。

ありすふぁーむ・渡瀬豊さん:
現状 水が出ない井戸を直してほしい。枯れたものに関しては被害が出ているので補償してほしい。そんな簡単な護岸工事で責任が取れないなら、そんな工事は最初からやってほしくない

国交省「工事に問題ないが住民に話を聞く」

一方、国土交通省・静岡河川事務所は工事の方法に問題はなかったとしている。

大井川の護岸工事(島田市神座)
大井川の護岸工事(島田市神座)

桃木優一 副所長は、「工事をすると川の水位が下がり、井戸水がとりにくくなる。その時は水道水に切り替え、川の状態が元に戻ると水道水から井戸水に切り替えるが、そのタイミングでトラブルが起きている」と、今回の経緯を説明した。

そのうえで、「工事についてはちゃんと切り替えも適切に実施しているので、落ち度はなかったと考えている」と主張する。
ただ業者の対応については「指導不足があったのではないか。切り替え工事後はもう少し丁寧に対応する必要があった」として、住民から話を聞き対応を検討したいとしている。

国土交通省静岡河川事務所・桃木優一副所長:
これから相手様(住民)と経緯等を確認しながら打ち合わせを行い、対応していきたいと考えています

2023年8月現在も、井戸水の不足した分は水道水で補っている。護岸工事は10月頃に再開され数年かけて行われる予定で、地域の住民の不安は募る。

護岸工事で井戸が枯れた渡瀬さん
護岸工事で井戸が枯れた渡瀬さん

二度被害にあった渡瀬さんは言う。「今回の件でも対応しきれないのなら、リニアで同じように水枯れの問題が起きたときはどうなるのだろうか」

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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