ネコにマタタビをあげると体を擦り付けたり転がりまわったり、まるでお酒を飲んで酔ったようになることはご存知だろう。

だがお酒の飲み過ぎが体に良くないように、マタタビに依存性や毒性などはないのだろうか?

そんな誰もが思いそうな疑問について、岩手大農学部の宮崎雅雄教授や大学院生の上野山怜子さんらの研究グループが「あげても安全」という明確な答えを発表した。

(出典:岩手大学)
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まず、研究グループはマタタビの抽出物を10匹のネコに与え、依存作用があるか4時間観察を続けた。すると、ネコがマタタビに触れていたのは最初の10分程度で、時間の経過とともに興味を失ったという。このことからマタタビに依存性はないと結論づけた。

(出典:岩手大学)
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次に、マタタビで酔ったような状態になることで、ネコがストレスを受けていないか調べるために、血液検査を実施。

その結果、ストレスの刺激で上昇するというコルチゾールとグルコースの血中濃度は、マタタビを与えても有意な変化は見られず、ストレスによる反応は見られなかったという。

(出典:岩手大学)
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また、最長3年間に渡って研究室で飼育するネコ13匹にマタタビを与え、依存性や毒性が無い事や、肝臓・腎臓機能に問題が起きない事を突き止めたとのことだ。

マタタビの実など(出典:岩手大学)
マタタビの実など(出典:岩手大学)

なお宮崎教授と上野山さんは、過去には酔っ払ったように見えるマタタビ反応に、実は「蚊よけ」の効果があることを発見し、以前編集部でも取材をしている。

(参照記事:ネコがマタタビ好きなのは「蚊よけ」のためだった?“長年の謎”を解明した教授にその理由を聞いた

そして、今回の研究はアメリカの科学雑誌「iScience」の電子版で掲載され、また研究成果を活かしてネコをリラックスさせるマタタビスプレーも開発した。

(出典:岩手大学)
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今回の研究でマタタビに依存性や毒性がないことが明らかになったが、それでも与えすぎはよくないのではないか? また、逆にネコが喜ぶ効果的なマタタビの与え方はあるのか?

宮崎雅雄教授に聞いてみた。

依存性を調べた研究は今までなかった

――なぜマタタビの依存性や毒性について研究した?

過去2回、研究についてのプレスリリースを出した際に、国内外の多くの記者の方よりマタタビの安全性について質問を受けたからです。

当時は、マタタビ反応はネコに備わった本能行動なので問題はないと思いますと答えていましたが、根拠をもって答えていたわけではないので、研究で検証してみようと考えました。


――これまでマタタビの安全性はどう思われていた?

安全という方もいれば、ネコによっては強く反応してしまい危険と考えている人もいました。

私達は過去の研究で、マタタビ反応時に人では「多幸」に関わるμオピオイド系が活性化されると明らかにしておりました。μオピオイド系の作動薬は、人では麻薬指定されているモルヒネです。

モルヒネはμオピオイド系に直接作用しますが、マタタビの有効成分はにおいを感知する嗅覚を刺激して、間接的にμオピオイド系を刺激します。この違いが依存性の有無に関係すると考えていましたが、そもそも依存性についてきちんと調べている報告がありませんでした。そこで私達は行動試験で依存性の兆候が見られるか検証することにしました。

マタタビで多幸感を得ているかもしれない

――マタタビはネコにどんな効果がある?

人ではμオピオイド系の活性化は多幸(あるいは鎮痛)に関わると言われております。ネコが本当に幸せな気分になっているかはネコに聞けないので分かりませんが、人とネコのμオピオイド系の機能が同じであるとすれば、マタタビ反応すると多幸になっている可能性があると考えられます。


――ネコはマタタビで「多幸感」を得ているのに、なぜ10分で飽きる?

マタタビ反応の発動の仕組みはまだ完全に解けておりません。

マタタビ有効成分を鼻で感知していると考えられるので、おそらくある程度嗅ぎ続けるとにおいに順化してしまうからではと考えております。人でも新奇のにおいを嗅いだとしてもそのにおいを嗅ぎ続けていると慣れてしまうと思います。それと同じようなことかもしれません。はっきりしたことは今後の研究で明らかにしたいと考えております。


――3年マタタビを与えたネコにはどのぐらいのペースで与えていたの?健康診断の頻度は?

多い個体で平均12日に1回ペース、マタタビ有効成分を与えました。健康診断は1年に2回くらい行っておりました。


――でも、依存性や毒性がなくてもマタタビの与えすぎは良くない?

マタタビの有効成分が十分量あったとしてもネコは自発的に反応をやめます。よって与えすぎたとしても有効成分をすべて消費するまで反応を続けることはないと考えます。

むろん、私達の研究でもマタタビ有効成分に対して長く反応するネコ、短時間しか反応しないネコがいることが分かってます。約3割のネコはマタタビ有効成分に全く反応しないことも分かっています。マタタビ反応の個体差のメカニズムが解明されれば、よりはっきりしたことが言えるようになると思います。


――ネコが喜ぶ効果的なマタタビのあげ方は?

私達は普段、ろ紙にマタタビ有効成分を滴下したら、両面テープで床に張りネコに反応してもらっています。何度も何度も擦り付けるので、ネコにとっては反応しやすいのかもしれません。

頻回に与えてもネコが反応するわけではありませんので、1日1回くらいにとどめたほうが効率的かもしれません。嗅覚エンリッチメント(※編集部注:飼養環境を豊かにする工夫)として適度に与えてあげるのが良いかと思います。


――ちなみに、マタタビスプレー開発のきっかけは?

私達の主たる研究目的は、なぜネコ科動物だけがマタタビに反応するのか、なぜマタタビに反応しないネコがいるのか、そのメカニズムを解明することです。これらの研究成果は、一般の方々に科学も面白さを提供できるかもしれません。

それに加えて、研究成果を目に見える形で社会還元する手段としてマタタビスプレーというのは、一つのよい選択肢になると考えて、今回私達の研究成果に興味をもってくださったNrf2さんにお任せして商品化していただくことにしました。

(出典:岩手大学)
(出典:岩手大学)

お酒を飲みすぎる人は心配だが、ネコがマタタビを摂りすぎる心配はなさそうだ。ネコにたくさんマタタビをあげていいのか迷っていた人は、今回の研究で安心していただきたい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。