オーストリアのウィーンで開催されたIAEA(国際原子力機関)の総会で、福島第一原発のALPS処理水放出を批判した中国に対し、高市科学技術相は毅然と反論した。処理水問題を新たな反日攻撃のカードに使う中国にどう対応すればよいか。BSフジLIVE「プライムニュース」では高市科学技術相、櫻井よしこ氏を迎え掘り下げた。
IAEAで中国に反論 舞台裏で起こっていたこと
この記事の画像(11枚)新美有加キャスター:
9月25〜30日にIAEA年次総会が本部のあるウィーンで行われた。2023年8月時点で177カ国が加盟する、原子力の平和利用と軍事転用防止のための国際機関。今回の出席目的は。
高市早苗 科学技術相 経済安保相:
最大の目的は、8月24日から始まった福島第一原発のALPS処理水の海洋放出についての発信。ポイントは、日本の取り組みが関連する国際安全基準に合致していること。また、人および環境に対して無視できるほどの放射線影響だということ。そして、放出後もIAEAがモニタリングを続け、結果は迅速に公表されており、安全性が確認されていること。次に、IAEAの目的に反し軍事的に原子力を使う北朝鮮の行為への批判。またロシアがウクライナの原発周辺で非常に危険な行為をしていることへの、最も強い言葉での批判。
新美有加キャスター:
12カ国の演説のうち中国が6番目、日本が10番目。処理水の海洋放出をめぐり中国が猛批判を繰り広げ、高市さんが反論する事態に。まず、中国・国家原子炉機構の劉敬副主任は「日本は国際社会の強い反対を顧みず海洋放出を推し進めた。福島核汚染水の海洋放出は重大な問題だ。日本は信用できる科学的な説明をしていない。IAEAは日本を厳格に監視すべきだ」と批判。高市大臣は「中国から科学的根拠のない発言があったが、IAEAに加盟しながら事実に基づかない発信や突出した輸入規制を取っているのは中国のみ。科学的根拠に基づく行動や正確な情報発信を求めていく」ときっぱり反論した。
高市早苗 科学技術相 経済安保相:
出発前の情報では、中国の演説の順番は日本よりも後だった。だから中国を名指しで批判するのではなく、北朝鮮やロシアへの批判と処理水の安全性について詰めて行った。だが現地で中国が先になるかもしれないという情報が入り、反論の想定を頭の中でしていた。当日になると、中国が6番目で日本は10番目。3人前の7番目の人が喋り始めれば、通訳の聞けないスタンバイ席に行って待機せねばならない。10番目で助かった。英語に訳された中国語の演説を日本代表席で聴けた。中国は“nuclear contaminated water(核汚染水)”という言葉を使い、周囲の国々も反対しているとひどい間違いを言っており、引原大使と話して反論を整理した。
櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
中国側の発言は中国語で、完全に国内向け。高市さんは英語で反論して、私はすごく感動した。本当によくおっしゃった。
高市早苗 科学技術相 経済安保相:
下手っぴの英語ですいません、ありがとうございます。本当に腹立つのは、IAEAの7月の総括報告書をまとめるのに国際専門家入れてますやん。中国人もロシア人も入っとるし、自分らも参加して「人にも環境にも影響はほとんどない」という報告書を作って、なんであそこであれ言うかなと。それが一番頭にきてました。
櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
中国はそういう国。水銀、二酸化窒素、日本海のゴミなど、地球全体の環境を悪くしているのは中国。全然顧みないでおっしゃる。中国の言説のやり方には注意しなければ。
高市早苗 科学技術相 経済安保相:
結果的には、中国の演説後、14の国と地域が日本とIAEAの取り組みを応援する演説をしてくれた。中国の孤立化は際立ったと思う。演説後、日本のブースには福島の魚のお寿司と福島の日本酒目当てに溢れんばかりの方々が来た。多くの方が理解し応援してくださっている。
空港で鉢合わせた中国代表団は高市大臣に「メンチを切っていた」
新美有加キャスター:
高市大臣の退出後も引原大使と中国側の応酬が続いた。中国の劉敬副主任は「日本は核汚染水が基準を満たし放出できると主張するが、30年以上の放出について科学的に評価を行うことはできない」。引原大使は「日本が放出しているのは汚染水ではなくALPS処理水。誤った言葉をいまだに使っているのは残念」、また「中国の原発から1年間に放出されるトリチウムの量は、福島第1原発の5~10倍にあたる」と反論。
櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
日本が1年に約22兆ベクレルを最大値にしているが、実際に出すのは半分ほど。それを基準にすると中国は約40倍。5〜10倍というのは抑えた数字。
反町理キャスター:
相手の事実誤認を突くことが今回のポイントだったか。
高市早苗 科学技術相 経済安保相:
ああいうことを言い出すと思っていなかったが、言われたら言い返さなければ。中国は処理水についてもIAEAのモニタリングについても分かって言っている。
反町理キャスター:
視聴者の方から「見事な対応に賛同します。さらに『本当は分かっていて立場上言っているんでしょう。同情しますよ』という憐憫を示してもよかったのでは」。さすがにあの場では言えないか。
高市早苗 科学技術相 経済安保相:
帰りのフランクフルトでの乗り継ぎ時、待合ラウンジで中国代表団と鉢合わせた。私は目が悪いが、SPさんによれば向こうはスマホで何かを調べて私の顔と見比べ、相当「メンチを切っていた」と。相手のお付きの人が追ってきて、SPさんに渡したのが中国の公安の人の名刺で「けんかを売られました」と言っていた。さすがに気まずかった。だからあれ以上のことを言うとね。今後向こうが振り上げた拳を下ろすか下ろさないか。
反町理キャスター:
今後30年の放出期間にわたり、中国は反日情報戦を仕掛けてくるのでは。どう向き合うか。
高市早苗 科学技術相 経済安保相:
今年は日本がG7の議長国で、5月の首脳声明にあった経済的威圧に対する調整プラットフォームを立ち上げた。友好国も含め、経済的威圧を受けた場合の情報共有を迅速にして対抗していく枠組みができており、まずG7を使うことは大事。またWTOへの提訴。政府の見解は私の所管ではないので申し上げないが、個人的には提訴すべきだと思っている。しっかりと日本の姿勢を示すべき。その間、日本は中国に買ってもらわなくても販路を拡大していけばいい。
反町理キャスター:
日本としては、中国から言われたときに反論するのではなく、あらゆる国際会議の場で先手を取り攻めていくべきでは。
高市早苗 科学技術相 経済安保相:
それをやるしかない。どの大臣が海外で国際会議に出てもあらゆる機会を捉えて言うべき。今回も日本を名指しで責めたのは中国だけ、孤立している。どんどん発信すること。
櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
外務省は消極的な姿勢をやめ、我が国の国益を守るためにもっと積極的に正しい情報を発信して、主張すべきところは主張すること。日本はこれまであまりにも主張しなかった。
経済安保相再任の高市氏「セキュリティ・クリアランスを何が何でも」
新美有加キャスター:
日本は経済安全保障分野の強化を目指しているが、主な分野がAI、半導体、医療、高度情報通信、先端科学、宇宙、海洋、バイオ、そしてセキュリティ・クリアランスなど。進捗は。
高市早苗 科学技術相 経済安保相:
それらに加え、11の特定重要物資を政令で決めた。日本のサプライチェーンを強化する取り組みを進めている。もう一つは、ずっとこだわっているセキュリティ・クリアランス。来年の通常国会で絶対に法律案を成立させたい。有識者会議の力もいただき進んできた。国家安全保障にも日本企業の海外でのビジネスチャンスにも関わる。また各分野では、特定重要技術を指定し官民で力を合わせて取り組んでいる。ドローン、自律型の無人探査機、衛星間の光通信、航空機エンジン向けの先進材料の技術、次世代の蓄電池技術など進んできている。
反町理キャスター:
総裁選出馬時の出演で、日本の安全保障をやると言った。経済も軍事も全部含めて必要だという、トータルのパッケージングで考えている?
高市早苗 科学技術相 経済安保相:
経済安全保障の推進そのものが、国民の生存や日本の経済活動などにとって重要。そうした技術を保秘義務を守って官民で研究するという話で、セキュリティ・クリアランスはまさに重要。外交・防衛・スパイ・テロの4分野だけではダメ。宇宙分野や情報通信の中で、セキュリティの脆弱性を民間企業に改善してもらうとき、クリアランスを受けた方にやってもらわなければ日本国の安全保障にも関わるし、外国政府の調達の入札にも呼んでもらえない。何が何でも、法律にせないかん。
櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長:
今の日本には1年などの時間を待つ余裕はない。もう一刻も早くやらなければいけない。総理に危機意識がちょっと足りないのかなと。
高市早苗 科学技術相 経済安保相:
ただ私を今回再任したということは、セキュリティ・クリアランスをやっていいということだろうと勝手に解釈させていただいている。
反町理キャスター:
視聴者の方から「次の総裁選への意欲は。仲間作りは進んでいますか。頑張ってください」。他にもいっぱい来ている。
高市早苗 科学技術相 経済安保相:
お励ましありがとうございます。まずはセキュリティ・クリアランスを仕上げます。そして、また戦わせていただきます。
(BSフジLIVE「プライムニュース」10月3日放送)