「欧米では校舎はコンクリートとガラスだが、自分の村では粘土がベスト」そんな持論で作った小学校では生徒数が120人から700人へと激増。資源がなくても成功するサステナブルな建築のマジックをひもとく。

「座ってるだけでつらい」建築家をめざした訳

今年の高松宮殿下記念世界文化賞の建築部門の受賞者ディエベド・フランシス・ケレさんは西アフリカのブルキナファソ出身。日本ユニセフ協会によると、ブルキナファソは世界で最も貧しい国のひとつで、気候変動の影響を受けやすい国だという。

10代の頃のケレさん(C) Kéré Architecture
10代の頃のケレさん
(C) Kéré Architecture
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ケレさんは7歳のときに学校のないガンド村を出て、家族とも離れ、町に住む親戚の家から学校に通った。学校に通える子供が少ないなか、幸運なことではあったが、そのときの厳しい体験が建築家をめざすきっかけとなった。

ケレさん:
建築家になりたいと思ったのは、通っていた学校の教室の居心地があまりにも悪かったからです。椅子も座っているだけで体が痛くなって最悪でした。それに自宅も雨季が終わるたびに修理をしないといけなくて、チャンスがあったら建築家になって、もっといい建物を作ってやろう!と思いは募っていきました。

ベルリンのオフィスにて ©️ The Japan Art Association/The Sankei Shimbun
ベルリンのオフィスにて 
©️ The Japan Art Association/The Sankei Shimbun

ケレさんは20歳のときに大工の職業訓練奨学金を得て、ドイツ・ベルリンに渡り、ベルリン工科大学で建築を専攻し、故郷のガンドに学校を建てる資金を集めるため、財団を設立した。

初めての作品は故郷ガンドの小学校

ケレさん:
私は、子供は自分の生まれた土地で親と一緒に成長すべきであると考えていて、何としてもガンドに学校を作りたかったのです。

建築家としての初めての作品となったガンド小学校Photo: Siméon Duchoud
建築家としての初めての作品となったガンド小学校
Photo: Siméon Duchoud

ケレさん:
学校を作り始めたときに直面したのは、人々の経験則からくる問題でした。私は粘土を使いたかったのですが、仲間にとっては学校というものは近代的なものであり、元々ブルキナファソはフランスの植民地でしたから、学校の建物はフランスと同じコンクリートやガラスを使うものだ、と教わってきていました。

ガンド小学校作りの指導をするケレさん(C) Kéré Architecture
ガンド小学校作りの指導をするケレさん
(C) Kéré Architecture

ケレさん:
でもわれわれにはお金がありませんでした。私は“発想の転換が必要だ”と訴え続けました。なぜ粘土にこだわったかと言うと、私はブルキナファソの発展を願い、よりよい未来と、よりよいインフラを作り出すためには、その土地にある材料と知識で建てることが必要だと確信していたからです。違う方法で成功できて、本当にうれしかったです。

より良い未来はその土地の材料と労働力にあり

ケレさん:
アフリカでの建築にはたくさんの課題が立ちはだかります。単に資源が不足しているだけでなく、プロジェクトを手伝う訓練された熟練労働者が不足しているのも大きな問題です。

ケレさんはガンド小学校の建設にあたって、大工の経験も生かし、地域住民を指導し、ともに作業を行い、学校のほぼすべてを手作業で作り上げた。そして2001年、最初の作品「ガンド小学校」が完成した。

日差しが入り、風通しのいい教室 Photo: Siméon Duchoud
日差しが入り、風通しのいい教室 
Photo: Siméon Duchoud

ケレさん:
私が小さいとき通っていた校舎と私が建てた校舎とでは“地球と月”ぐらいの違いがあります。昼と夜みたいな違いです。私が育った校舎は日差しがあっても中が暗くて、暑くて暑くて、ひどい環境でした。そんな環境だと、長く座っていられないので教育上もよくないのです。ですから、私は建物の中にできるだけ多くの光を採り入れ、自然と換気が行われ、教育にふさわしい心地よい空間を生み出しました。そうすれば子供たちは倒れずに授業を聞くことができるからです。それを実現できて、とってもうれしかったです。

児童の数は120人から700人に!  Photo: Erik-Jan Ouwerkerk
児童の数は120人から700人に!  
Photo: Erik-Jan Ouwerkerk

快適な環境が整ったことで生徒の数は120人から700人にまで増えた。ケレさんはその後も故郷に教員住宅や図書館、中学校など次々と新しい施設を建て、地域全体が活性化された。

“大樹に集まるような”国会議事堂

ケレさんが今取りかかっているプロジェクトがブルキナファソのお隣の国ベナン共和国の国会議事堂。アフリカでは大きな樹木の下で話し合う習慣があり、その伝統的な人々の集まり方に立ち返ろうという発想の設計だ。

ベナン国会議事堂の完成予想図 Courtesy of Kéré Architecture
ベナン国会議事堂の完成予想図 
Courtesy of Kéré Architecture

円形に座ればヒエラルキーはない。多くの人が民主的に自分たちのコミュニティーの未来について語りあうために集まってくる。ケレさんは国会議事堂という国のシンボルを作るにあたって、この要素は鍵だったと話す。

持つものこそ環境保護の模範たれ!

土地の知恵や素材を生かした建築で地域の発展に貢献してきたケレさんは言う。

「私は余裕のある人たちに言いたい。気候変動や資源不足が叫ばれるなか、より多くの資源を持つ人たちは、質の高い建物を作りながら、資源の節約をし、環境を保護する模範を示してほしい。示せるはずです」

ブルキナ工科大学 2020年完成 Photo: Jaime Herraiz
ブルキナ工科大学 2020年完成 
Photo: Jaime Herraiz

ケレさん:
というのも、地元の自然素材を用いて、快適さを作り出すことができることを私が証明してきたからです。自分がやったことは、同じような気候条件や経済状況のどの国でも実現できると思います。

大好きな日本で表彰されるとは!

ケレさん:
世界文化賞をいただけるなんで思ってもみなかったことで、とても光栄です。と同時に大きな責任も感じています。日本が大好きなので、日本で表彰されて、大好きな仕事を続けていくエネルギーが沸き立ちました。

ベルリンでの受賞者記者発表にて 右は彫刻部門受賞者のエリアソン氏 Photo: Pablo Castagnola  ©️The Japan Art Association  
ベルリンでの受賞者記者発表にて 右は彫刻部門受賞者のエリアソン氏 
Photo: Pablo Castagnola  ©️The Japan Art Association 
 

ケレさんは昨年の世界文化賞建築部門を受賞した日本人建築ユニットSANNAの妹島さんとも友人で、授賞式典での再会を楽しみにしている。

「高松宮殿下記念世界文化賞」の公式インスタグラムとフェイスブックはこちらから
【インスタグラム】https://www.instagram.com/praemiumimperiale/
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勝川英子
勝川英子

フジテレビ国際局海外広報担当。
報道時代にパリ支局長を経験。
2016年にフランスの国家功労勲章を受章。
2003年からフランス国際観光アドバイザー。
幼少期を過ごしたフランスをこよなく愛し、”日本とフランスの懸け橋になる”が夢。