ふんわり優しく握った「おむすび」を通して、ふるさと福島県浪江町に「ただいま」「おかえり」と言える場を作りたい。そんな思いから生まれた店が、町に関わる人の憩いの場となっている。
避難を余儀なくされた人が帰る場に
2023年8月に福島県浪江町にオープンした、おむすび専門店「えん」 オーナーの栃本あゆみさんは、高校を卒業してから故郷の浪江町を離れていたが、2021年に町へ戻った。

「私たちの家族のように、帰りたくても帰れないそういう方たちが、ほかにもいると思う。そういう方たちが、気軽に帰ってこられるようなお店を作りたいと思って」と栃本さんはいう。

家族の死 故郷について考える
栃本さんの家族は、原発事故で避難を強いられ、父親と祖父母は「帰りたくても帰れない」状況のなかで亡くなった。

家族の死をきっかけに目標となったのが、浪江町に「ただいま」「おかえり」と言える場所を作ること。その第一歩として、2022年に浪江町のチャレンジショップで、おむすびのテイクアウト専門店を開店させた。

常連客に支えられ独立
ただ、チャレンジショップでの営業は一年までという条件付きだった。客から「必ずまた戻ってきて」「また絶対再開して」「待ってるよ」という声が寄せられ、「やらなくては」と強く思ったと栃本さんは話す。

独立に向けて準備を進め、念願の自分の店をオープンさせた。新しい店では、握りたてを店内で味わえるようにした。常連客は「前の店はテイクアウトだけだったので、今はここで食べて、夜の分を持ち帰るという感じ」と話す。

故郷での開店 懐かしい再会も
故郷での開業とあって、久しぶりの再会を果たすことも。この日訪れていた客の中には「中学の部活動の後輩。覚えてないだろうなって思って、静かに食べてたけど覚えていてくれた。十何年ぶりに再会できた。頑張っている姿を見ると、うれしい気持ちになる」と話した。

優しく結ぶ おむすび
人と人との結びつきや繋がりを大事にしたいとの思いから「おにぎり」ではなく「おむすび」と呼ぶ栃本さん。

会津坂下町産のコシヒカリで、浪江町の「ニンニク」や「シラス」「卵黄の醤油漬け」など約15種類の具材をやさしく包む。ふんわりとして口に入れると「ほろっ」とほどけ、どこを食べても具材を味わえる栃本さんの「おむすび」だ。

浪江町を訪れた人を結ぶ
そして、町に関わる人や物が繋がるようにと願いを込めて「えん」と名付けたこの店で始めたことがある。その準備のために訪れたのは、南相馬市小高区で営業する谷地魚店。新鮮なカツオを下ろしてもらっていたが、これはおむすびの具材ではない。

午後5時半から始まる夜の営業。おむすびはもちろんカツオの刺身なども揃え、福島県の内外から訪れた人の憩いの場になっている。

東京都から出張で訪れていた人は「おにぎり屋さんだから飲めないと思って来たが、酒がたくさん並んでいる。浪江に泊まって、行ける場所の選択肢が増えるのはすごくうれしい」と話す。また浪江町民は「栃本さんの明るい感じが、こっちも明るい気持ちになって帰れる」と話した。

賑わっていくのを見届けたい
栃本さんの人柄、そして特製の「おむすび」が多くの人を引き寄せている。栃本さんは「こんな小さな店だが、常連さんや新規のお客さんに来ていただいたり、私の求める繋がり・縁が生まれていてうれしい光景。新しい町、賑わいのある町が出来ていくのを見ていたいというか、そこに一緒に携わりながらいけたら」と語った。

(福島テレビ)