プライベートにおいてもビジネスにおいても、どうしたら上手に話せるだろうかなど、悩みを抱えている人は多いだろう。

そんな中、『頭のいい人が話す前に考えていること』(安達裕哉・著/ダイヤモンド社)がベストセラーとなったり、SNSなどで大きな話題となっている。

今年4月に発売されて以来、ビジネス書として異例の30万部を売り上げ、書店では売り切れが続出。

『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉さん
『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉さん
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同書で解説されている“7つの黄金法則”は、「プライベート・仕事関係なく役に立つ」「目から鱗的な内容が多かったです」など、読者から賞賛の声を集めている。

この本の著者で、これまで1000以上の企業でコンサルティングに従事してきた安達裕哉さんが、実際にどうすれば会話が上手になるのか、質問力の上げ方などを具体的に解説。

数々の会話本を執筆している明治大学文学部・齋藤孝教授と「現代に求められる会話術」について詳しく語った。

なぜ今、「会話術」が求められるのか?

――今、この時代に会話術の本が売れるというのは、どんな背景があると感じますか。

安達裕哉さん:

一番大きいのはコミュニケーションが難しくなっている。

コミュニケーションを取らなきゃいけない相手も増えた。コミュニケーションを取る手段が、リモートやチャットツールというのもあります。昔は電話とファックスだけだったが、今は異常に手段が増えた。それが難しくなっている理由かなと思います。

明治大学文学部教授 齋藤孝さん
明治大学文学部教授 齋藤孝さん

――若者のコミュニケーション力は何か感じるところはありますか。

齋藤孝さん:

全体としては(コミュニケーション力は)上がっているとは思うんです。

ただ、付き合う人が多いので、それに対していろいろなタイプ分けして上手にやろうとしているんですけど、やっぱり気を遣いすぎてちょっと疲れているなという印象です。

――本のタイトルにつけた「頭のいい人」、どういう意味でこのタイトルにしたのですか。

安達さん:

端的に言うと「他人の考えていることを類推する能力」のことを、“頭の良さ”と呼んでいます。

例えば、営業の方であれば、一番相手に響く提案、あるいは言い方は何かなというのができる方が、圧倒的に成績がいいわけです。なので、そういう人は「賢い」と言われると思います。

会話術4選「ちゃんと考えてくれる人を信用」

(1)人はちゃんと「考えてくれる人」を信用
(2)頭のいい人は「論破」しない
(3)知識はだれかのために使って初めて「知性」となる
(4)「承認欲求」を満たす側に回れ

――安達さんの本に書かれている「『知性』と『信頼』をもたらす会話術」。

ある日、「青の服と白い服どちらがいいと思う?」と聞かれたとします。その場合の回答はどれが好ましいのか。

(A)どっちも似合ってるよ
(B)青の方が好きだな
(C)それぞれどこがいいと思ったの?

渡辺アナウンサー:
これ自信があります。僕の経験上、B(青の方が好きだな)です。自分の意見をすぐ言う。

安達さん:
私が推奨しているのは、C(それぞれどこがいいと思ったの?)です。

渡辺アナウンサー:
そうなんですね!

安達さん:
好きな方を言うだけでもいい時はもちろんありますが、「白がいいんじゃない?」と私の好きな方を答えると、「適当に答えていない?」と言われるのが、だんだん増えてきて。

もちろん候補を出してくるからには何か理由があるはずなので、そこの理由をちゃんと聞いてあげた方がうまくいくケースが多いかなと思います。

――つまり、人はちゃんと「考えてくれる人」を信頼するということなのですね。

斎藤さん:

C(それぞれどこがいいと思ったの?)は、質問して導くといいと思うんですよね。それだけを見て決めるんじゃなくて、どこのシチュエーションに着て行くイメージなのか。

――斎藤先生の著書『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)で、「相手の話に質問をつけて返していくと、話は確実に盛り上がる」と、質問の重要性を説いていらっしゃいますよね。

斎藤さん:

会話は続いていくことが一番大事なのです。

止まっちゃわないように、続いていけばいいと思いますね。質問すると相手も考えが進んでいく、という感じです。

「頭のいい人は論破しない」

――2つ目は頭のいい人は「論破しない」。ただ、今、小学生にも「はい、論破!」ということが流行っているというニュースもあります。

安達さん:

仲間や家族、あるいは仕事の付き合いのある方にやってしまうと、協力関係が築けなくなっちゃうので、かなりまずい行為だと思います。

斎藤さん:
一つのゲームとしてやる分にはいいんですけどね。私の経験では、私は法学部だったので論破が仕事みたいに思っていた。やり続けた結果、友達が減ったことがあって、やはり論破はおすすめじゃないですね。

安達さん:
実は私、前職はコンサルティング会社に勤めていたんですが、コンサルティング会社に入って、まず教わることが「違うって言うな」と言われたんです。

「“違う”は禁句だから、絶対に言わないでください」と。お客さんに「違う」と言った瞬間に凍りつく、もうそれ以降お話しできなくなっちゃう、これはまずいなと。

渡辺アナウンサー:
僕はこれ実感があります。

アナウンス室も色々な若手アナウンサーがいて、やっぱり世代が違うと当然、仕事との向き合い方の価値観が違うのですが、上だからといって「こうだからこうだろ」と言ってもやっぱり響かない。アドバイスをするような形がスムーズだなと実感としてある。

斎藤さん:
敵対している感じが出ちゃうんですよね。大学の授業でも、正解があるとして、そうじゃないことを言っている学生がいても「それもある」と言い続けます。

「それはあるかも」「いや、むしろいいかも」みたいな。それを続けていく結果、教室が明るくなります。

「知識は誰かのために使って初めて知性となる」

――例えば、「カフェオレとカフェラテ、どちらを注文した方がいいかな?」と聞かれて、「カフェオレはドリップコーヒーとミルクが5対5だけど、カフェラテはエスプレッソコーヒーとミルクが2対8の割合だよね」といった回答をするとします。

斎藤さん:
ちょっと何か…自分と遠い感じがしますね。

安達さん:
要するに“うんちく”を言っているだけなので、相手がどう捉えるか、相手がどう思うかをあまり配慮しないで披露しているだけ。

これをやるとめちゃくちゃ怒られました。「お前は何しに行ったんだ、お客さんのところに」と。「お前の知識を確かめに行ったわけじゃない」と言われるわけです。

――では、どういうやり方がいいのか?「もしカフェインが苦手なら、カフェオレよりカフェラテの方がいいよ。カフェインが少ないから」という回答がより良いということです。知識は誰かのために使って初めて「知性」となるのです。

安達さん:
やはり“相手のために発言した”ということが分かる言い方になっている。

渡辺アナウンサー:
ちょっと一つランクが上がった感じがします。相手のことを気遣うということですかね。

安達さん:
そうですね。気遣いがない知識というのは、単なるガラクタじゃないですけども、嫌味なだけになってしまいます。

「承認欲求を満たす側に回れ」

安達さん:
4つ目は、「承認欲求」を満たす側に回れ。

承認欲求を受け取る側よりも、実は承認欲求を満たす側の方がはるかに信頼されています。

例えば自分の名前を覚えておいて欲しいといった承認欲求は誰でも持っていると思います。なので、高級ホテルや旅館では必ず名前を呼んで接客をする。

私が(コンサルで)お邪魔していたのは、中小企業が多かったのですが、中小企業の社長はある程度社員と距離が近いので、本当に全員の誕生日や、極端な話、奥様の誕生日も覚えていて、誕生日に花を届けるみたいな。

そういう細かい承認欲求というのはSNSだけではなく、かなり存在している。

――若者の承認欲求は何か感じるところはありますか。

斎藤さん:

みんな欲しがっていますよね。ただ供給が間に合ってない。需要供給のバランスが崩れているので。

練習してもらうのはまずリアクションです。「あ、それは面白い」「へえ」と軽く驚くとか、リアクションがあると相手の承認欲求が満たされやすいです。

承認欲求を満たす方に回ると疲れるようですけど、違って、満たす方に慣れてくると、むしろ自分にとっても楽になってきます。気が晴れるようになるんですよ。

相手の喜ぶ顔を見ると、こっちも気が晴れるという感じなんです。

安達さん:
そうですね、もう本当に贈り物をし合うみたいな。

斎藤さん:
そうですよね、承認欲求は贈り物って感じですね。

――いろんな条件を聞いてきましたが、実際にコミュニケーション力として「この人頭がいいな」と安達さんが感じる方は誰かいますか。

安達さん:
2005年、スタンフォード大学の卒業式でのスティーブ・ジョブズ氏の講演で、やはり間の置き方が絶妙です。

自分が発言した後に必ずちょっと間を空ける。「その間に考えてください」という意図が込められている。

斎藤さん:
確かに“立て板に水”のようにしゃべり続けると、相手が考えるいとまがないですよね。

古今亭志ん生の落語を聞いてからやると、間がちょうどよくなります。落語家の名人の落語の間というのは、慌てない。

“失言”を防ぐコツ&“質問力”の上げ方

――今は政治家や企業のトップの謝罪会見での失言というのは大きくニュースにもなりますが、なぜこういった失言というのは起こってしまうのでしょうか。

安達さん:

会見はまさにすぐ答えないといけない。すぐ答えないといけない状況だと本音が出ちゃうというのが実際のところだと思います。

――それを克服するための何かコツみたいなものはありますか。

安達さん:

これがまさにワンクッション置く。コンサルティングの現場でも教えているのですが、「ちょっともう一回言っていただいていいですか」「ちょっと書かせてください」といった、いわゆる時間稼ぎをすると失言がかなり少なくなる。

――時間をかけると、何が変わるんですか。

安達さん:

まず、感情的に何か「ばっ」と言いたくなることを避けられる。

もう一つは、もう一回、例えば質問を繰り返してもらったりすると、発言者の意図を少し汲み取れるように余裕ができるので、自分の思いだけではなくて、「この人がどう答えてほしいのか」というところを推測する余裕ができます。そうなると失言しにくくなる。

――私達アナウンサーはインタビュー、会見などで質問する機会も多いですが、“質問力の上げ方”というのは何かあるんでしょうか。

斎藤さん:
相手は「ここを話したい」「エネルギーをかけてやったところを聞いてあげる」というのが大切ですね。さまつなことではなくて。

以前、ビートたけしさんの番組でご一緒させて頂いたのですが、「たけしさん、『アウトレイジ』の冒頭の黒塗りの車、あれはCGですか?実写ですか?」とお聞きしたんです。

そこから、どーっと「あれね、CGの方がお金がかかるから実写なんだよ」といった感じで、どう苦労したかの話がくるんですね。

エネルギーをかけたところを聞いてあげれば、いい感じのものが引き出せると思います。

――ここまでお話を伺っていると、やはり相手の気持ちを考えて、それにいかに寄り添っていくかということが、コミュニケーションの中では一番重要になってくるのかなと思うのですが。

斎藤さん:
想像力です。相手がどっちへ行きたいのか。右に行きたいと言っているのに、逆方向ばっかり導こうとしては無理があるんですよ。ですから質問しながら、相手がどっちに行きたいのかなというのを、表情も含め確認しながら行くのがいいかなと思います。

安達さん:
まさに相手に寄り添うのが目的だと思います。

そのためにこちらからちゃんと質問してもいいということを覚えるだけで、実はコミュニケーション能力ってかなり変わると思います。

(週刊フジテレビ批評」9月30日放送より/聞き手:渡辺和洋アナウンサー、新美有加アナウンサー)