お腹を意識しながら、人と話をしたことはありますか。

「劇団四季」で主演を務め、現在はビジネスパーソンに研修講師として「話すこと」を指導している佐藤政樹さん。

自身の体験をベースに、生まれ持ったセンスも精神論的な訓練も必要ない、人を惹きつける話し方について紹介する、佐藤政樹さんの著書『人を「惹きつける」話し方』(プレジデント社)。

佐藤さんは「劇団四季」で主演を務め、現在はビジネスパーソンに研修講師として「話すこと」を指導している。

話をする際は「頭」でもなく「胸」でもなく、「腹」を意識すると深いコミュニケーションを取ることができるという。なぜ「腹」なのか。一部抜粋・再編集して紹介する。

頭・胸ではなく「腹」が重要

最後に、一番下の「腹」です。

惹きつける話し方で重要なポイントとなるここを、私は「腹の意識」と呼んでいます。

腹に意識が向いているときは「やると決めたことや覚悟が決まったことを話している」「自分が克服したことや苦難を乗り越えた経験談などを話している」「ありのままの自分として、余計な力が抜けている」、こんなときです。

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この腹の意識から生み出される言葉を「腹のポジション」の言葉と呼んでいます。

頭の意識・胸の意識と腹の意識の間には、一本の線があります。

線の上か下かが、「人を惹きつける」言葉とそうでない言葉の境界線なのです。

さてこの「腹」という日本語が、人を惹きつけるか惹きつけないかをひもとくキーワードです。

腹に意識が向くと「深さ」が出る

日本語では、表面的やうわべではなく一歩深い意思決定やコミュニケーションのニュアンスを表す際に「腹」というキーワードが多く使われてきました。

誰しも気づかないうちに、自然と意識が「腹」に向いているときがあります。

「腹を割って話しましょう」
「あなたのおっしゃることが腹落ちしました」
「絶対に達成すると腹を決める」

他にもたくさんありますが、すべてに共通するのは、表面的ではなく一歩踏み込んだ「深さ」のニュアンスを感じられる言葉になっていることです。

なぜ、一歩深いニュアンスを示すときに「腹」というキーワードを使うのでしょうか。

それは「腹」こそがすべてのエネルギーの起点という文化が日本にはあったからだと私は考えています。武道やスポーツや踊り、歌や呼吸器系を使う楽器の経験がある方はピンとくるのではないでしょうか。

「腹」の意識は力の起点として、パフォーマンスに影響する重要な要素です。先人たちが「腹」には何か特別なものがあると考えてきたからこそ、腹を使った慣用句がたくさんあるのでしょう。

これは、ビジネスシーンや日常会話でも同じです。「腹のポジションから生まれる言葉」 が、結果に大きな影響を与える人を惹きつける言葉なのです。

「どのポジション」で話していますか

私が、劇団四季での経験を活かして講師として生計を立てようと試行錯誤していた30代半ばごろ。

あるコンサルタントが、私に新規クライアント獲得を目的としたアプローチをしてきたことがありました。

そのコンサルタントが話しはじめたとき、私は言葉に説得力と重みを感じました。スクリプトを暗記して、知識を一方的に説明しているだけの頭のポジションの話し方をする人ではなかったのです。まさに「腹」のポジションの話し方をする方でした。

しかし、いよいよ最後の「料金の提案」の場面になったとたん、突如、目がおどおど泳ぎだし、言葉が突如、浮足立ってきました。

「断られたらどうしよう」「料金が高いかもしれない」「相手に悪いことをしているかもしれない」。こんな不安になったからかもしれません。心がうわずって胸のポジションの舞い上がった言葉しか出てこなくなってしまったのです。

寸前まで彼の言葉に惹きつけられていましたが、そこで私は冷めてしまい、結局提案をお断りすることになりました。

言葉のポジションは仕事の結果に大きな影響をもたらすのです。 「腹のポジション」の言葉こそが、「発声と発想」が完全に合致している「人を惹きつける」言葉なのです。

日常で自分や周囲が使う言葉を観察してみよう(画像:イメージ)
日常で自分や周囲が使う言葉を観察してみよう(画像:イメージ)

まずは日常を観察してみてください。

コンビニの店員さんの「いらっしゃいませ」。

繁盛しているコーヒーチェーン店のお客さまへの挨拶「こんにちは」。

客室乗務員の声のかけ方「どうぞ、お声がけくださいませ」。

病院受付の「お大事に」。
結婚披露宴の司会者の「おめでとうございます」。
行政窓口の対応の言葉「お待たせしました」。

その他、結果を出している人のプレゼンや営業トーク。尊敬する人の言葉。授業やオンライン研修で講師が話す言葉。叩き上げの経営者の言葉。

唱えていないか。うわべで説明的なのか。それとも実感しているのか。

言葉に対する自分の視点を変えると、見える世界や聞こえる世界が変わります。

『人を「惹きつける」話し方』(プレジデント社)
『人を「惹きつける」話し方』(プレジデント社)

佐藤政樹
27歳のときに劇団四季に合格。その際に創業者のカリスマ浅利慶太氏から「伝わる言葉」の本質をマンツーマンで直接学ぶ。講演家になることを志して退団するも、飛び込み営業の会社に就職。鳴かず飛ばずだったが、浅利氏から学んだ「伝わる言葉」と自ら編み出した「人を惹きつける話し方」の技術を活用し活躍。現在は、企業研修や講演活動で全国を飛び回り、延べ約300社・3万人を超える多くのビジネスパーソンに「人を惹きつける話し方」を伝授している

イラスト=さいとうひさし

佐藤政樹
佐藤政樹

企業研修講師、講演家
27歳のときに劇団四季に合格。その際に創業者のカリスマ浅利慶太氏から「伝わる言葉」の本質をマンツーマンで直接学ぶ。講演家になることを志して退団するも、飛び込み営業の会社に就職。鳴かず飛ばずだったが、浅利氏から学んだ「伝わる言葉」と自ら編み出した「人を惹きつける話し方」の技術を活用し活躍。現在は、企業研修や講演活動で全国を飛び回り、延べ約300社・3万人を超える多くのビジネスパーソンに「人を惹きつける話し方」を伝授。伝える力やコミュニケーション能力、自己表現力の向上に貢献している。プレゼンイベントの殿堂TEDxにも出場し、「人を惹きつける話し方」を元にした『感動を創造する言葉の伝え方』のテーマで、日本人では異例の35万回再生を超えている