金沢大学に通う大学院生が伝統工芸で使われる玉繭に目を付け、玉繭から抽出されるシルクのエキスを配合した化粧品を開発した。この大学院生、一体どんな人物なのだろうか。
社長は現役の大学院生
2023年7月、石川県金沢市にある化粧品会社ケイズで新たな商品が誕生した。その名も「柚子シルクミルクローション」だ。考案したのは荒木由希さん(47)。「金沢、石川らしさをPRしていきたい」と意気込む。

商品開発に携わる一方、荒木さんは金沢大学の博士課程に通い、経済学を学ぶ現役の大学院生だ。元々は主婦だった荒木さん。着物が大好きで加賀友禅や着物文化を盛り上げるため、着物ショーにも出演する。加賀友禅の魅力を広くアピールするにはどうしたらよいか考えるうち、もう一度大学に入り直すことを決めたそうだ。「どんどん勉強していくと着物産業が縮小していることに気付き、どうしたら良いかということで金沢大学に戻ってきた。地方創生や地域活性化が研究テーマ」。

2022年11月に金沢大学で行われたビジネスコンテストに参加した荒木さんは、そこで最優秀賞を獲得。賞金20万円を元手に大学内でベンチャー企業「ALLEY」を立ち上げた。企業理念は「衣食住全てに文化資源を用いた地域活性化」。荒木さんは「着物産業をずっと研究していて、着物だけでは業界が上向きにならないから、何かいろいろな異業種とコラボしてみたらどうだろうと」考えた。

着物文化が生んだ化粧品
しかし着物好きと化粧品開発はどうつながるのか。荒木さんが案内してくれたのは石川県の伝統産業、牛首紬の制作を行う工房だ。850年以上の歴史を持つ牛首紬。2匹の蚕が共同で一個の繭を作り上げたものを「玉繭」と呼び、これが牛首袖を作る糸の原料になる。玉繭をお湯でぐつぐつと煮る過程で、糸をひいた後に薄皮が残る。その過程に荒木さんは目を付けた。

「柚子シルクローションを作るってなった時に、糸をひいた残りの薄皮があるよという話を聞いて、どうにかエキスを採れないかと」。美肌に良いと言われているシルクの成分を、着物の原料にも使われる牛首紬の生産過程から採取できることに気付いたのだ。原料はこの他、石川県金沢市の湯涌地区でとれた規格外のユズを使うことを決めた。元々、捨てられるはずだった原料を活用し、環境に配慮した取り組みとしてもアピールする。

さらにこだわったのはビタミンCの含有量だ。ケイズ企画開発課の田中友美さんは「弊社の開発の中でもトップクラスぐらいに高濃度で入ってて。難しいチャレンジだった」と商品開発の苦労を語った。4カ月かけてできあがった化粧品。ラベルのデザインは加賀友禅作家に依頼し、できる限り着物の魅力発信につながるよう工夫を凝らした。
化粧品を売って着物業界に還元
石川県白山市に本社を置く商社、横山商会。荒木さんはシンガポールにある石川県のアンテナショップで化粧品を販売することができないか商談に訪れた。しかしここで問題となったのが、原料やデザインなどをこだわり抜いたからこそ嵩むコストだった。

荒木さんは「元々は加賀友禅の研究を大学院でしているんです。化粧品が上手くいったら、売上で加賀友禅を作って加賀友禅ショーをしたり、インバウンド向けに売り込んだり、石川県内で回していきたいっていう野望を込めた商品でして」と商品にかける思いを担当者に伝えた。横山商会の担当者は「テスト販売的なもので1回試してみて…」と話し、まずはお試しで置いてもらえることが決まった。

テスト販売が決まってから約1カ月半。商品は海を渡り、シンガポールの石川県アンテナショップへ届けられた。その後、現地から数本が売れたという連絡が入り、荒木さんも少し安堵した。現地では「肌馴染みが良い」と好評だそうだ。今は、導入美容液の開発も始まり、まだまだ荒木さんは自分の夢に向かって突っ走る。
(石川テレビ)