増え続けるアメリカの銃乱射事件

米国の銃問題を提起するNPO組織「ガン・バイオレンス・アーカイブ (GVA)」は16日、米国内での銃乱射事件が今年に入って500件に達したと発表した。

「銃乱射事件」について連邦捜査局(FBI)は「一人または複数人が、人の多い場所で火器を用いて人々を殺傷あるいは殺傷しようと試みること」と定義している。GVAはこれに加えて「その結果、加害者を含めて4人以上が殺害あるいは負傷したケース」の記録を集積している。

銃乱射による犠牲者は絶えない(カリフォルニア州・1月)
銃乱射による犠牲者は絶えない(カリフォルニア州・1月)
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今年の「銃乱射事件」は、元日の夜も明けない内に始まった。

オハイオ州コロンバス市のテレビ局WBNSのニュースサイトによれば、1月1日の午前2時30分ごろ、同市のナイトクラブで二人の男性が口論の末銃撃が始まった。その結果28歳の男性が死亡、一人が病院へ収容されたが危機的な容体。シェリフ事務所によればこの他3人が負傷したが命に別状はないという。加害者は特定されていない。

この後1月21日には、カリフォルニア州モントレーパークのダンスホールで銃が乱射され11人が死亡、9人が負傷する今年犠牲者が最も多い事件が発生した。

カリフォルニア州のダンスホールで銃乱射20人が死傷(1月)
カリフォルニア州のダンスホールで銃乱射20人が死傷(1月)

そして今月16日夜、コロラド州デンバー市で500件目が起きた。地元紙「デンバー・ポスト」紙電子版にはこうある。

「午前0時30分、マーケット・ストリートの1900ブロックで発砲事件が発生。救急隊は4人の被害者を病院に搬送したが負傷の程度は不明。後に朝方になって警察は5人目の被害者を発見したと発表。5人とも生存する見込みで、デンバー警察の投稿によると現時点では犯人は逮捕されていない」

記事はこれだけで、とって付けたように警察のX(旧ツィッター)が添付されている。まるで交通事故並みの扱いだが、この夜デンバー市内ではこの事件を含めて3件の銃発砲事件があり、7人の負傷者を出していたので、地元マスコミにとっては驚くほどの事件ではなかったのかもしれない。

記事に添付されていた警察のX(旧ツイッター)
記事に添付されていた警察のX(旧ツイッター)

銃保有数とシンクロする銃乱射の増加

それにしても、9月16日まで258日間に500件といえば1日に1.93回。毎日全米のどこかでほぼ2回は銃が乱射されて複数の死者やケガ人が出ていることになる。

米国での「銃乱射事件」は2020年に610件に急増し、2021年に690件、2022年に647件記録しているが、今年はこのペースで進むと700件を越す計算になる。

28歳女が小学校で銃乱射 子供ら6人死亡(米・テネシー州 3月)
28歳女が小学校で銃乱射 子供ら6人死亡(米・テネシー州 3月)

なぜ「銃乱射事件」が増えるのだろうか?

まず銃保有の増加があげられるだろう。 

スイスの小型武器問題を研究するシンクタンク「Small Arms Survey」によると、米国内の銃火器保有数は2018年の段階で3億9000万挺にのぼる。人口100人当たり120.5挺と人口を上回る。2011年には100人当たり88挺だったのに比べて大幅な増加だ。

過半数が銃規制強化を求める一方で…

その一方で米国民の57%が銃規制の強化を求めている。(ギャラップ調査2022年)

それなのに銃規制が実現しないのは、政治への働きかけに問題がありそうだ。

銃乱射事件で21人が死亡した小学校を訪れたバイデン大統領夫妻
銃乱射事件で21人が死亡した小学校を訪れたバイデン大統領夫妻

昨年、銃保有の自由を主張する団体が連邦議会へのロビイストに支払った政治資金は1320万ドル(約20億円)にのぼるのに対して、銃規制を主張する団体がロビイストに支払ったのは230万ドル(約3億5000万円)に過ぎない。(OpenSecrets.org)

「規律ある民兵は自由な国家に必要であるから、人民が武器を保持し携帯する権利は奪われない」という合衆国憲法修正第2条は当面改定されることはなさそうだし、米国の銃乱射事件が収まることも当面期待できそうもない。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。