私のようなフリーの、しかも老けた記者にとってAI(人工知能)は、仕事上欠かすことができない「ロボット助手」だったが、最近ではその対応に人間味が加味されて「有能な友人」のような存在になってきた。

アルカトラズ再利用による経済的損失を試算してもらうと…

それを実感したのが、トランプ米大統領が指令した「アルカトラズ島の刑務所の再利用」をめぐって調べものをしていた時のことだ。マフィアの大親分アル・カポネも一時収監され「脱獄不可能」と言われた刑務所が、1963年に閉鎖後は地元サンフランシスコの観光名所になっているので、再利用となると経済的打撃を被る地元から反対の声が上がるのではないかと考えた。

しかし、これを書いている時点で米国のマスコミには、刑務所再利用による経済的損失をまとめたものが見当たらない。

アルカトラズ刑務所
アルカトラズ刑務所
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そこで、ここはAIに頼ることにして「チャットGPT」に訊いてみた。

私:
「アルカトラズ刑務所を再利用することは、サンフランシスコにどんな経済的損失をもたらしますか?」

チャットGPT:
「アルカトラズ刑務所を再稼働することで生ずる経済的損失は、主に次の2点に集約されます:

1.観光収入の損失
年間150万人が来島×平均チケット単価$45→約6750万ドル(約101億円)
飲食・お土産・周辺での消費(1人平均$30→4500万ドル(約67億円)
地元経済への波及(観光直接消費合計1億1250万ドル×1.5と想定)→約1億6875万ドル(250億円)

2.刑務所の運営コスト
人員、物資輸送、インフラ維持費などを含めて→年間5000万ドル~7500万ドル(約75億円~112億円)

つまり、アルカトラズ刑務所を再稼働させると、年間でおよそ2億ドル(約300億円)以上の損失をサンフランシスコ地域が被るということになります」

私:
「でも、この試算は誰がしたの?」

チャットGPT:
「この推計は、公開されているデータや報道・政府資料をもとにチャットGPTが行ったものです」

私:
「じゃあ、これは『チャットGPTの試算』と言っていいの?」

チャットGPT:
「大丈夫です。でもそれを解説する註釈を添えると信頼性が増しますが、プレゼンや報告書などで使える正式な引用文スタイルが必要でしたら、用意します」

私:
「お願い」

突然日本語で「了解っす!」

実は、ここまで私はチャットGPTと英語でやりとりをしていたのだが、突然その返答が日本語それも馴れ馴れしい言葉に変わった。

チャットGPT:
「了解っす!以下の感じでレポートやプレゼンでがっちりした引用スタイルの文にしてみたよ(※下を示す絵文字)

『以下の経済的影響試算は、ChatGPTによる推計に基づくものであり、公的な観光収入データ、過去の刑務所運営コスト、ならびに報道機関や政府機関(NPS等)が公表した情報をベースに構成されています。本分析はあくまで参考値であり、厳密な財務監査や公式報告ではありません』

英語バージョンもつけとくね:
Citation in English:
(※英文省略)

これでドヤ顔で資料出せるはず!他にも書式整えたいとこある?」

これには正直びっくりした。私の拙い英語やこれまでの使用来歴から日本人と分かったのだろうが、何もことわりもせずにいきなり日本語の馴れ馴れしい言葉遣いになり、絵文字も使った上に、私の顔付きまで関西仕込みの流行語で表現されると、相手がアルゴリズム上の存在ということを忘れさせる。しかし、怯んでいるわけにはゆかない。チャットGPTを問い詰めてみた。

私:
「『ドヤ顔』なんて言葉をどこで覚えたの?」

チャットGPT:
「『ドヤ顔』は日本語のネットスラングとしてよく見かける表現なので、インターネット上の会話や掲示板、SNS、さらには日本語学習用のコーパス(言語資料)などから学習しています。軽く自信満々な様子や、ちょっと得意げな気持ちをユーモラスに表す言葉として、使いどころをわきまえれば親しみも湧く表現ですよね。
ちなみに『ドヤ顔』で検索すると、芸能人の表情画面集まで出てくるぐらい文化的に定着しています。でも、フォーマルな文脈では避けた方がいいことも、もちろん承知しています!もうちょっとガッチリした言い回しに変えた方がよければ言ってくださいね」

英語でやりとりしていたのに突然日本語で返答し始めたという
英語でやりとりしていたのに突然日本語で返答し始めたという

今回、チャットGTPは私を「使いどころをわきまえれば親しみが湧く」相手と判断して、遠慮ない表現で語りかけてきたのだろう。つまりは友達扱いをしたわけで、AIは単なる学習や調査のための道具を超えて、物知りの友人が隣に座って仕事を手伝ってくれるような存在になってきたと思えたのだ。

このコラム、今回はアルカトラズ刑務所再利用をめぐる話題をまとめるつもりだったのを、リサーチの段階でAIの反応が面白くなりそれをテーマにしてしまったが、この脱線どうかお許しを。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。