岸田首相が内閣改造・党役員人事を行ったが、FNNの世論調査では内閣支持率が改造前から2.8ポイント下落。BSフジLIVE「プライムニュース」では識者を迎え、衆議院解散や2024年9月の自民党総裁選を見据えた政局について包括的に議論した。

女性閣僚起用は評価されるも、派閥への配慮人事は低評価

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椿原慶子キャスター:
報道各社の内閣支持率の世論調査結果。閣僚人事の決定直後は、共同通信で前月比6.2ポイント増の39.8%、読売新聞と日経新聞では変化なし。副大臣・政務官の人事決定直後はFNNが前月比2.6ポイント減の38.9%、朝日新聞は4ポイント増で毎日新聞は1ポイント減。横ばいか下落の方が多い。内閣改造は支持率が上昇するケースが多いが。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
岸田総理が本気で取り組んだ女性5閣僚の起用は評価されたが、小渕優子氏の選対委員長起用には否定的な声が多く、他の閣僚の顔ぶれも刷新感がないと評価しない声が多い。派閥に任せてしまった部分が評価されなかった。

反町理キャスター:
岸田さんは女性閣僚増加が生命線だと思った?

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
そう。入閣が当初はっきり決まっていたのは高市経済安保相、上川外相、加藤少子化相。そこから増やそうということで土屋復興相、最後に二階派とのやりとりで自見地方創生相。岸田さんの目標は二つで、一つは女性閣僚の起用。もう一つは2024年の自民党総裁選に向けた環境整備。その意味で目標は達成している。

元NHK解説委員 岩田明子氏:
上川さんは真ん中近く(重要ポスト)で起用したいと考え、苦労の末外相に。岸田内閣発足時には官房長官に起用するのではと思ったが、カードとして温存していた。

椿原慶子キャスター:
支持率低迷をどう打破するか。岸田総理は党役員会で、国民生活を守るための大胆な経済対策として「物価高対応」「賃上げ」「投資促進」などを明らかにした。支持率は上昇するか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
しないと思う。2022年と同じことをほぼ同じスケジュールでやろうとしているが、その間の内閣支持率は旧統一教会の問題でずっと下がっていた。回復の可能性があるのは、10月中旬に政府が裁判所に申請する旧統一教会への解散命令。

反町理キャスター:
ガソリン補助制度も導入される。これまで6兆2000億円を投入しているが、これを脱炭素のために回せば日本におけるエネルギー転換が図れたという議論もある。「筋論」をもう少し頑張り、踏ん張ってもいいのでは。

元NHK解説委員 岩田明子氏:
これが岸田政権の本質だと思う。応急手当をした先にどういう治療をするのかという長期的なビジョンが見えない。もう一つの課題が、処理水放出や防衛費の増額もそうだが、財源も含め細かい議論のプロセスを見せていない点。これを見せる努力をすべき。

年内の解散総選挙はナシか 自民党総裁選後になる可能性も

椿原慶子キャスター:
岸田総理の解散戦略。今後の主な政治日程は、10月に臨時国会召集の見通しで、そこで経済対策を裏付ける補正予算案が審議される見込み。旧統一教会に対する解散命令請求も10月中とみられる。11月には岸田総理が渡米し、APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席。2024年1月から通常国会、9月に自民党総裁選、2025年7月に参議院議員選挙。解散はいつになるか。

元NHK解説委員 岩田明子氏:
10月1日にインボイス制度が始まり、その後防衛費や少子化対策の財源論の話になると、おそらく支持率が下がる。10月の旧統一協会への解散命令請求が支持率アップに繋がるカード。この支持率では解散すべきでないとの声もあるが、ズルズルいって選択肢がなくなるぐらいなら、臨時国会での補正予算が成立後すぐに解散するのが一つの常識的な考え方では。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
年内の可能性は落ちている。理由の一つは、12月に補正予算の成立と来年度の予算編成、さらに日本とASEANとの特別首脳会議という重要な外交日程があること。もう一つは、副大臣・政務官人事を見るに、政策決定をちゃんとできないのではないかということ。女性も1人も入れなかった。あまりにセンスがない。具体的な政治日程作りなどの政治技術の面で、今の官邸の体制は非常に弱くなっている。

反町理キャスター:
調整機能がない?

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
ないとは言わないが弱い。可能性があるのは2024年1月、通常国会の冒頭解散で2月選挙。だが、ズルズルと総裁選後になる可能性もある。

ポスト岸田の不在は自民党と岸田政権に大きなマイナス

椿原慶子キャスター:
2024年9月の総裁選に向けた岸田総理の戦略。岸田総理が政権を維持するためにはここで再選する必要があるが、今回の人事の再選への影響は。

元NHK解説委員 岩田明子氏:
今回の人事が再選への布石なのは間違いない。河野さんや高市さん、ライバルとなりうる人は取り込んでいる。改造前日に各派閥の8人と面会をする異例のお伺いも、表で正々堂々とやっている。派閥均衡で総裁選に向け協力を求めるメッセージと感じた。外務大臣だった林さんを同じ岸田派の上川さんに代え、林さんには閥務を任せるという完全な総裁選シフト。これは功を奏すと思う。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
岸田派は派内がバラバラ。派内固めを優先したと思う。岸田さんがもう1期やりたいのは確かだが、無投票での再選は自民党にとって最悪のシナリオ。誰が勝つかわからない総裁選になることが、その後の総選挙で自民党が勝てる要素になる。真剣勝負しなきゃ意味がない。

反町理キャスター:
今回の人事では岸田さんの手当てを各派が受けた。最大派閥の安倍派は集団指導体制で、総理総裁候補はいない。麻生さんが総理総裁を狙うこともおそらくない。茂木さんは総理を目指す雰囲気だが、派閥をまとめきれているのか。二階さんにも年齢的な問題。つまりポスト岸田を狙い戦う態勢の人がいないと見える。これが岸田政権を支えているのでは。

元NHK解説委員 岩田明子氏:
全く同感。自民党は摩擦熱で政権を維持してきた。熱が全くない状態では政権を維持できなくなる。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
総選挙が避けられない、あるいは総裁選が近づいた時点で総選挙が行われていなければ、状況はまた全く変わると思う。そこで一番有力なのは茂木幹事長。

反町理キャスター:
8月のFNNの世論調査では、次の総理にふさわしい人として石破元幹事長が14.2%とダントツの1位。次いで河野デジタル相が10.7%、小泉元環境相が10.4%。岸田さんは8.3%、茂木さんが1.7%。自民党の衆議院議員が「このままでは負ける、新しい総裁で選挙を」となったとき、茂木さんを担ぐか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
岸田さんで戦うと議席ガタ減りしそうなら、一番に名前が出るのは茂木さん。次に可能性がある河野さんも立つだろう。一方、現政権を支える麻生さん、茂木さんははっきり反石破。安倍派も石破さんには行かない。石破さんの目はかなり低い。

反町理キャスター:
宏池会出身としては池田勇人元総理が最長の1575日在職。岸田総理は(9月20日現在)718日だが、意識しているか。再選を果たし総選挙でも勝たなければ、おそらく届かない。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
意識していると思う。岸田総理の周囲に聞くと、発足当初から2期6年を目標としている。だが1期目でそれなりの仕事をし、ある意味で岸田政権は歴史に足跡を残している。3年で終わってもそれなりの業績としては残る。辞める気持ちはないだろうが。

野党第一党は立憲か維新か 戦後政治の転換点となるか

椿原慶子キャスター:
解散総選挙に向け、野党の準備は。

元NHK解説委員 岩田明子氏:
立憲は170、維新は150の候補者を揃えている。維新は勢いがあるが、地方での基盤は整っていない部分も。政策のブラッシュアップも必要。野党の選挙準備はまだ揃っているとは思えない。立憲と維新は選挙となれば突然協力姿勢になる可能性もあり、注視すべき。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
野党第一党が立憲なのか維新なのかが最大の問題。どちらが優勢かわからない。維新は今の41席から伸ばすだろうが、おそらく70議席台。

反町理キャスター:
各党の支持率を見れば、もっと増えそうにも思えるが。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
比例代表では維新が圧倒するだろうが、立憲と維新の違いは小選挙区での確実な候補者数。立憲は前回の衆院選のとき、小選挙区で57人当選した。維新は20人に満たず。

反町理キャスター:
維新は比例で一定の数を取るが、小選挙区で立憲がある程度頑張り、双方70~80議席で拮抗する可能性があると。もし維新が野党第一党になれば、与野党国対委員長対談での高木氏の相手が立憲の安住氏から維新の遠藤氏になる。雰囲気も変わるのでは。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
戦後政治の大半は自民対革新勢力の駆け引きの中で国会が回ってきたが、維新が勝てばよく似た保守政党との話し合いで済むようになる。非常に大きな変化。

反町理キャスター:
維新が「我々が野党第一党になれば政治が変わる」立憲が「それでいいのか、対案を持ち批判する政党が必要」とアピールするとして、有権者はどう判断するか。

元NHK解説委員 岩田明子氏:
有権者は既成政党に辟易していると見える。全体のムードでは、より改革姿勢が強いとか、やり切る部分が求められると思う。どの政党が「自分たちは政権担当能力がある」と打ち出せるか。健全な野党があってこそ健全な与党ができる。熱のない政治が続けば国力は落ちる一方。これを変えていかなければ。

(BSフジLIVE「プライムニュース」9月20日放送)