日本人が最もよく食べる果物と言えばバナナだが、「バナナの皮は滑る」というイメージはないだろうか。広く定着しているこのイメージは果たして正しいのか、調査した。
滑るワケは果物屋さんも知らない
石川県金沢市に住む小学6年生、小田絆礼蘭(きらら)さんから次のような疑問が届いた。「バナナの皮が本当に滑るのか気になりました」。大好きなアニメを見ている時にキャラクターがバナナの皮で滑っている様子を見て疑問に思ったそうだ。絆礼蘭さんに、実際バナナの皮を踏んだことがあるのか聞くと、「ないです。転んだら痛いかもしれないから」だそうだ。

まずは毎日のようにバナナに触れているであろう街の果物屋さんに、バナナの皮が滑るのか聞いてみた。「滑ると思うけどな。繊維質なんで…」と歯切れが悪い人がいる一方、「やっぱり滑るよ。この商売入った時、親父に言われた。『バナナの皮をどこにでもほっとくな。滑ったら大変やぞ』って」と自信ありげに語る人もいた。重ねてその理由を聞くと、「言われてみたら分からんけどな」とのこと。「バナナの皮は滑る」という認識はあるものの、なぜ滑るかについては考えたことがないようだ。

バナナの皮でイグ・ノーベル賞
バナナの皮は本当に滑るのか、滑るとしたらなぜ滑るのか。その答えを知るために北里大学の馬渕清資名誉教授に話を聞いた。バナナの皮の研究で2014年にイグ・ノーベル賞を受賞した、この分野の第一人者だ。

馬渕名誉教授は「バナナの皮は滑ります。ただし、というただし書きがつきます」と話す。ただし書きとは何か。「踏まないと滑らないんです。簡単に言えば」。アクリル板にバナナの皮を乗せて傾けてみると、確かにバナナの皮は滑らない。

「バナナの皮は滑らない。これを確認した時は愕然としましてね。そのままじゃ滑らないけど、もしかしてこれを踏んづけるようなことをやれば滑るのだろうかな」と馬渕名誉教授は考えた。そこで足に見立てた金属を乗せて、バナナの皮に力を加えてみると…滑った。

「滑るという事実は手に入ったんですけど、何が起きているのか。踏んで大きな力をかけた時にこのバナナの皮がどうなるのか」と疑問を深め、馬渕名誉教授は研究を進めた。すると次のことが分かった。顕微鏡で拡大してみると、バナナの皮には小胞と呼ばれる小さなつぶつぶがあり、力を加えたバナナの皮は小胞が潰れてぬるぬるとした粘液を出している。つまりバナナの皮を踏むと、このぬるぬるとした液体が出るため滑るのだ。

「滑りやすさを数字で表すと、スキーの板が雪の上で滑っているくらいの数字になってしまうんです。非常によく滑ります」と馬渕名誉教授は説明する。ものの滑りにくさを表す摩擦係数は、足で踏んだ時のバナナの皮は0.066。この数値はゲレンデ上のスキーの板とほぼ同じだった。

しかし、ここで衝撃の事実が判明したという。「メロンの皮やスイカの皮の方が滑るんです。ではメロンの皮の方が有名かというと、みなさんバナナの皮しか知らない」。確かに、滑ると言えばバナナの皮だ。なぜそのイメージが定着したのだろうか。

喜劇王チャップリンがルーツか
1915年に公開された映画で、喜劇王チャールズ・チャップリンが初めてバナナの皮で滑るというギャグを披露した。

1940年代にはアメリカのテキサス州で新しく造った船を海に浮かべる際、船を陸から海へ滑らせるためのオイルが不足し、バナナの皮が代用されたこともあったという。

この頃までには、バナナの皮は滑るというイメージが定着していたようだ。日本では、任天堂が1992年に発売したゲーム『スーパーマリオカート』で、レース中に相手を邪魔するアイテムとしてバナナの皮が登場した。走行中にバナナの皮を踏むとくるくるスピンしてしまうというお馴染みの仕掛けだ。

「カートを実際にバナナの皮で滑らせる実験をある番組でやったことがあるんですね。見事に滑って車がスリップしたもんですから、周りの機材に突っ込んで結構な事故になってしまった」。バナナの皮が想像以上に滑ることが分かった。アメリカのマサチューセッツ州ケンブリッジ市では「バナナの皮を道に捨ててはいけない」という条例もあるそうだ。「うっかり真似をして滑るかやってみた人の結果を集めたら、2万人のうち4000人くらいが本当にけがをしているので、すごく怖いですからうかつにもやらない方がいいということもよく分かっているんですね」と馬渕名誉教授は注意を呼びかける。大人も子どもも、真似しない方が賢明だ。
(石川テレビ)