新型コロナ対策で注目・・・マイナンバーカード

「マイナンバーカードを申請すれば給付が早く受けられる可能性がある」
今年4月、市区町村の窓口に申請者が殺到し、あらためて注目を浴び始めたマイナンバーカード。一日あたりの申請件数は、今年4月の2万8416件から、5月には5万6427件と倍増した。1人あたり10万円を配る定額給付金の早期支給につながるとの期待感からだ。
しかし、マイナンバーカードはかえって確認作業の手間と時間がかかるなどとして、受け付けない自治体も相次ぎ、今後に課題を残した。

カード普及のための“次の一手”は・・・

マイナンバーカードの普及は政府の悲願だ。
政府は、昨年、「2022年度までにほぼすべての国民に交付する」ことを目標に掲げた。マイナンバーカードでデジタル・ガバメントの実現を一気に進める方針で、まさに菅官房長官肝いりの政策だ。
菅官房長官は、6月23日の政府のワーキングチームの初会合で、普及に向けた6つの課題を関係省庁に示した。

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【1】9月にスタートする新たなポイント制度やQRコード付きのカード申請書の再送付などを通じて、マイナンバーカードの普及を加速する
【2】運転免許証をはじめとする各種免許証や国家資格証のデジタル化や、在留カードとマイナンバーカードの一体化
【3】学校健診やGIGAスクールなど教育分野への活用
【4】自治体の業務システムの早急な統一・標準化
【5】IT企業や金融機関等の民間の顧客サービスにマイナンバー制度を活用しやすいシステムの構築
【6】マイナンバーカードの発行主体であるJLISの抜本的強化

菅官房長官は会合で、「年内に工程表を策定するとともに、できるものから実施していきたい」と、普及に向けた強い意欲を示した。
さらに、6月30日の2回目の会合では、最先端の有識者の提言を受けて、課題は33項目に拡大した。

10万円給付はなぜ遅れた?マイナンバーカードの落とし穴

品川区役所でのマイナンバー申請(視聴者提供)
品川区役所でのマイナンバー申請(視聴者提供)

政府は当初、10万円を給付する際、マイナンバーカードを使ってオンライン申請した人には、ただちに10万円が振り込まれるという想定だった。

しかし、マイナンバーを管理しているJLIS(地方公共団体情報システム機構)が持っている氏名情報と、実際に給付を行う市区町村の氏名情報のフォーマットが違っていたため、職員が突合を手作業でやらざるを得なくなった。徹夜の作業を強いられた自治体もある。オンライン申請を中止して手書きの申請一本に切り替える自治体が相次いだのはこのためで、給付が大幅に遅れる要因の一つともなった。

そもそも、マイナンバーは、民主党政権で国会に提出された法案が、第二次安倍政権発足直後に成立し、2016年から「マイナンバーカード」の交付が開始した。

しかし、カードの発行主体であるJLISのシステムトラブルもあり、実際のカードの普及率は、昨年時点では、12%程度にとどまっていた。「国民が行政サービスを迅速に受けられるようになる」という当初の目的が全く実現されていない。

デジタルガバメント閣僚会議の議長である菅官房長官は、強い問題意識を感じた。
マイナンバーには、カード交付を含めてこれまでに6000億円を超える予算が投じられているのに、カードの普及率は1割程度で国民の側に全くメリットが実感できない。
そこで、「2022年度中にほとんどの住民に交付」を目指し、関係省庁で検討を進めてきた。

【1】各市町村で計画をつくり、住民の出勤先の企業、ショッピングセンター、病院、免許センターなどで出張申請受付を行い、必要な人件費については国の予算で支援
【2】今年9月からマイナンバーカード保有者に5000円分のポイント(買い物で使える)を付与(「マイナポイント」)
【3】来年3月から健康保険証とマイナンバーカードの一体化を開始
これらの方針は、昨年の「骨太の方針」に盛り込まれ、既に動き出している。

総務省ホームページより
総務省ホームページより

スマホとの一体化で財布もいらなくなる!?政府が描く“未来予想図”

では、アフターコロナの世界で、カードを取得すれば、私たちの生活がどう変わるのだろうか。
例えば、2021年3月から健康保険証とマイナンバーカードの一体化がスタートする。

政府の想定では、カード内に健康保険証の機能が入れば、過去の病歴や健康診断の記録を保存できる。子供の頃に風疹・麻疹の予防接種などを受けたのかどうかなど、大人になってから記憶が曖昧な幼少期の予防接種歴も把握できるようになるという。また、通院履歴などが保存でき、お薬手帳や病院毎の診察券の情報もスマホに格納できるという。

このほか、今回の会合では、運転免許証のデジタル化や、在留外国人の在留カードとの一体化まで打ち出した。最終的には「スマホとマイナンバーカードがあれば、財布がいらなくなる」と政府担当者は語る。

また、文科省が進めるGIGAスクール(児童生徒のICT環境での学習)の学習データを転校する場合などに持ち運ぶ手段としてカードを使うことも考えている。

さらに、現在のマイナンバーカードの券面も見直す。海外で暮らす時も身分証として使えるよう、「日本国政府」の表記や、西暦による生年月日、氏名のローマ字表記も検討していく。

マイナンバーカードの発行作業にあたるJLISについても、専門人材を登用し、24時間365日、国民に安定的にサービスを提供できる体制にしていく考えだ。

ただ、6月30日の会議で、有識者から「デジタル化によってセーフティーネットから振り落とされる人が生じないように、地域や家族など周囲の人々が容易に手を差し伸べられる仕組みを作ることが求められる」との指摘も出されている。

取得は“今でしょ!?”マイナポイントの5000円還元も

7月1日からマイナポイントの申し込みが始まった。
マイナポイントは、マイナンバーカードを取得した人が申し込むと9月以降、2021年3月までの期間限定で、キャッシュレスの買い物などで最大5000円分がポイント還元されるものだ。政府は、6月末で終了したキャッシュレス・ポイント還元を引き継ぐ景気の下支え策と同時に、カード普及への効果も期待している。

総務省によると、予算には4000万人分が計上されているという。5月末時点でカードを取得または申請した人を合わせると2587万人なので、仮に全員が申し込んだとすればあと1500万人分しか残されないことになる。カード取得者が増えれば早い者勝ちになることも想定されるが、実際にそこまでの普及の効果があるかどうか、注目したい。

マイナンバーカード・・・政府が守るべきものは

政府は、あの手この手でマイナンバーカードの普及を進めようとするが、これまで普及が進んで来なかった一番の理由は、国に個人情報を管理されることへの抵抗感だ。そして、カードの機能が増えれば、利便性と相反して、抵抗感が強まる可能性もある。個人情報の目的外使用の歯止めについて、どこまで国民を納得させられるのか。

さらに、デジタル社会の中で、個人情報の漏洩に対する危機感も大きい。政府は、セキュリティ強化のため、スマホとの一体化の際は生体認証で本人確認機能を持たせるなどとしているが、情報漏洩を完全に排除できる安全策が取れるのか。

1枚のカードに凝縮されたその人の人生をいかに守るのか。政府には、その原点を忘れない対応が求められている。

(フジテレビ政治部 千田淳一)

千田淳一
千田淳一

FNNワシントン支局長。
1974年岩手県生まれ。福島テレビ・報道番組キャスター、県政キャップ、編集長を務めた。東日本大震災の発災後には、福島第一原発事故の現地取材・報道を指揮する。
フジテレビ入社後には熊本地震を現地取材したほか、報道局政治部への配属以降は、菅官房長官担当を始め、首相官邸、自民党担当、野党キャップなどを担当する。
記者歴は25年。2022年からワシントン支局長。現在は2024年米国大統領選挙に向けた取材や、中国の影響力が強まる国際社会情勢の分析や、安全保障政策などをフィールドワークにしている。