エッフェル塔前でポーズをとった写真をSNSに掲載した、自民党・松川るい参議院議員。
7月に自民党女性局の研修のため、議員ら38人でフランスのパリを訪問した際に撮られた写真が大きな批判を浴び、8月に松川議員は女性局の局長を辞任した。
この記事の画像(8枚)そもそも国会議員の海外視察は国益をもたらしているのか、無駄はないのか。
厚労省の官僚出身で元衆議院議員の豊田真由子さんと、政治ジャーナリストの田﨑史郎さんが「議員の海外視察の意義」について語った。
国会議員の「海外視察」種類と内容
――海外視察というのはどういったタイミングで、1人何回ぐらい行くのですか。
豊田真由子さん:
基本的に国会の会期中は行かないです。
回数はグローバルな素地がどれぐらいあるのか、人によって違うのではないかと思っています。
――国会議員の海外視察、種類がいくつかあります。「衆議院 参議院 両院が主催」「政党が主催」「国連や国際関係の各種団体が主催」「議員連盟が主催」するもの。
今回の松川るい参議院議員の海外視察は「政党が主催」。さまざまありますが、種類によって行く人が変わるのでしょうか。
豊田さん:
そうです。
(1)「衆議院 参議院 両院が主催」
これは国会法の103条に根拠があり、議案の審査や調査のために国会が議員を派遣するという根拠があるので、公費で行きます。
ただこれは基本的に行く方は決まっていて、大体28ぐらい、国会の中に各委員の委員会というのがあって、厚生労働委員会や国土交通委員会などの、理事という立場にある偉い方が、その委員会を代表して、いろいろなところに行くというのが慣例だと思います。
(2)「党が主催」
党が主催するもの。
(3)「国連や国際機関関係の各種団体が主催」
いろいろな経験、スキル、専門性がある議員をその団体の方が選んで指名をして、ミッションを持って派遣をする。朝から晩まですごく、かけずり回る、というのがあります。
(4)「議員連盟主催」
各政策を実現するための勉強会、議員外交、親善に行きましょうなど、目的も主催者も、言ってしまえばその内容の真面目さも密度もバラバラです。
田﨑史郎さん:
国会議員の海外視察について「国連や国際関係の各種団体が主催」「議員連盟が主催」はそれほど問題視されない。
国会議員が外交活動、あるいは安全保障に関する活動をやるのは当たり前。むしろしなきゃいけないこと。
それを忠実にやっているのが、「国連と国際関係の各種団体が主催」するもの、あるいは「議員連盟主催」。
問題となることが多いのは、「政党が主催」したもの。
衆参両院が主催するものは、それぞれ議長班や国対班があったり、各種委員会が派遣するものに分かれています。
各種委員会が派遣するものは、確かにベテランの議員の方が行かれているのですが、しっかり各国を回って、日程もそれなりに埋まっている。
いいかげんだなと思うのは、議長班、国対班です。
「何しに行っているのだろう?」と…。各国の議会事情の視察みたいな名目です。
与野党の意思疎通をスムーズにするために行っているのかなという感じがします。
――今回問題視されているのが、「政党が主催」に当てはまります。自民党女性局主催の海外視察メンバーは誰が選んで行くのですか。
田﨑さん:
松川さんは女性局長だった。女性局長たる松川さんが呼びかけて、メンバーも選んで行き先も決めたということです。
党が全額負担するわけではなくて、党が負担しているのは約30万円。その他の費用はそれぞれ個々人の負担になる。
――「税金は使っていない」というような主張をされていました。
田﨑さん:
それはちょっと難しいです。
自民党の財布の中に政党交付金が入っているのは事実です。自民党側の主張は他にも「党費の収入は企業献金など、いろいろ自民党にお金が入ってくる」と。「中で区分けをして、そっちから出しています」「政党交付金は使っていません」というのが自民党の主張。
しかし、外から見たら金に色がついているわけじゃないので、見分けがつかないです。
批判を浴びたフランス視察の内容
――今回、問題となった、自民党女性局の3泊5日のフランス視察。「ディナークルーズ」「シャンゼリゼ通りで自由行動」などが含まれ、研修時間自体は6~9時間だったということですが、このスケジュールは、緩いのか、きついのか。
豊田さん:
厳しいことを申し上げると、ビックリしました。
「こんなのあるんだ」という感じで。
――スケジュールは党が作るのでしょうか。
田﨑さん:
これは女性局で作った。ただ自民党の場合、海外出張に自民党の費用を使う場合は、幹事長の決裁が必要です。
「こういうところへ行きます」「目的はこういうことです」というので、すっと通ったんだろうと思います。
――内容もですが、写真に撮ってそれをSNSにあげた。これがきっかけで炎上していました。
豊田さん:
私はSNSにあげるか、あげないか以前に、向こうでどういう思いで、どういう仕事をしてきたかということが大事だと思います。
前提の部分が問題だと思いますし、(SNSに)あげなければ遊んできていいか、という話でもないと私は思います。
田﨑さん:
そんなに深い意味はなくて、“自分たちはこういう具合にやっていますよ”という、お知らせくらいの感覚で載せたのだろうと思います。
それがネット上で誰かの目にとまって一気に拡散した。
どのくらい使われている?海外視察の予算
――衆議院と参議院両院が主催する国会議員の海外視察予算は「衆議院は3億7000万円」「参議院は1億2600万円」。合わせて約5億円の予算が計上されており、衆議院は「一人当たり196万円」。
「航空代」「宿泊費」「日当」などが含まれていて、これを超える場合は自費となります。一方、参議院は「一人当たり260万円」。こちらもこの金額を超える場合は議院運営委員会の了承が必要となります。なかなかの金額ですね。
豊田さん:
高いなと思います。自分で旅行行く時に、こんなお金払えないじゃないですか。
だから「何にこれかかるのかな?」と見ている方は思うと思いますし、私も思います。
田﨑さん:
国会議員の場合(飛行機は)原則ビジネスクラス。ファーストクラスは使っていない。
泊まるホテルも一応規定上は、国家公務員が海外行った時に泊まるホテルの金額になっているので、そんなに高級なホテルに泊まれるわけでもないんです。
議員の役割と日本に来る海外の議員たち
――豊田さん自身はどれか行かれた?
豊田さん:
私は「国連や国際関係の各種団体が主催」と「議員連盟が主催」の海外視察に行きました。
「国連や国際関係の各種団体が主催」は60年続く日米議員交流プログラムというのがあり、そこからのご指名で行きました。
3日間の日程で50名ぐらいのアメリカの連邦議会議員の方、世界銀行の総裁の方、保健福祉省の次官の方、学者さんなどと話しました。
日米関係やアジア太平洋の外交問題は、当時は「TPP(環太平洋パートナーシップ)」がかなりの議論になっていたので、そういう問題などを話し合ったのと、私はもともと厚労省なので、グローバルヘルスや感染症対策の分野でいきました。
通訳なしで交渉をしたり、食事も全部予定を入れていて、そこがまさに親密になって腹を割って話す機会でした。その時、私がすごく思ったのは、総理大臣や外務大臣が公式の場で行う外交は国を代表しているので、一番ギリギリの建前の部分までしか表には出せないわけですよね。
けれどもそこをある意味ちょっと補完するというか、もう少し本音で「もうちょっとどうかな?」というところを議員同士で話をして、それを国に持って帰るみたいなこともしていたので、議員外交としてその国の外交に資するというものが、かなりあったかなと思います。
――そういう意味では大臣以外の議員が行くということは例えば、党から政府に提言をするという意味でも、とても大事かと思うのですが。
田﨑さん:
そうですね。あまり議論されない論点を一つ考えてほしいのは、僕たちは日本の議員がどうしているかしか見ないのですが、日本にも、例えば中国や韓国、アメリカの議員がどんどん来るわけです。
そこで日本に来た場合は、日本としてはいろいろな説明をするし、「じゃあ今度こっちが行きます」「来てください」という関係が成り立って行くわけです。
だから、国会議員が外交を積極的に行うことは、グローバルな視点から見て必要なことなのです。
――どういう国の方々が、どういう目的で来てくれるというケースがあるのですか。
田﨑さん:
直近で聞いたのは、ウズベキスタンの方が日本の司法制度を視察に来た。法務省がウズベキスタンの法体系を作るアドバイザーをしています。
衆議院の法務委員会の人たちとも交流して、それで法務委員会の人たちは今回の海外視察でウズベキスタンに行っています。
そういうこともあるので、全て“悪”ではなくて、将来に向けた種をまいているケースもあるのです。
行く時に、きちんと「日程を公表」する。帰ってきたら“こういうことを行いました”という「報告書」を出してもらう。
その2つを実行に移すならば、僕はむしろ積極的に国会議員の人には海外視察に行ってもらいたいです。
海外視察の際、重要な「報告書」とは
――2014年、超党派の議員6名がアメリカ・ワシントンD.C.にて約50名の政府高官や専門家らと日米関係について議論した海外視察の報告書。
東アジア情勢が厳しさを増す中での日米同盟の重要性や、TPP交渉の行方などについて報告されている。
豊田さん:
(この報告書には)英語版と日本語版と両方あります。
本当に“詰め詰め”のスケジュールで、どういう方と会って、どういうことをしたということが書いてあります。
――その報告書は豊田さんが作るんですか。
豊田さん:
各議員が作っても無駄なので、一緒に行った団体の方が素案を作って、自分たちで読んで意見を言って、ブラッシュアップして完成版にします。
――そう考えると、批判されたフランス視察も「報告書」が出る、ということですね。
田﨑さん:
それが出てこないんですよ。
問題となった時に、「私たちはこういうことをやってきたんです。近く報告書を出します」と言えば、こんなに批判されることはなかったんだろうと思います。
一応、自民党の場合、帰国したら報告書を出すことになっています。
幹事長に報告すれば済みますが、どういう内容を報告したかというのは全然公表されていません。だから批判された時に「こういうことを私たちはやっているんですよ」と言い返せなかった。その弱さがあったんだろうと思います。
――松川さんは期待されていたと思うんですが。
田﨑さん:
元外務官僚で優秀な人と言われていて、近く大臣になるんじゃないかということも言われていた人です。しかし、今回のことはちょっと痛かったですね。
豊田さん:
松川さんはすごく優秀で頑張り屋さんだと思うので、これでつぶれてしまう、ではなくて、反省の上に国のために頑張るっていうことが必要なのかなと思います。
――最後に海外視察の重要性を改めて伺いたいです。
田﨑さん:
国会議員から選ばれて総理大臣が生まれ、外務大臣が生まれていくわけです。
国会議員の活動として、外交に関心を持つというのは、与野党問わず必要なこと。与党ならばまだ活動する機会はあるんですが、野党にとって外交活動をする機会は非常に少ないんですよ。
そういう意味で、国会が野党の議員も含めて海外視察に派遣するというのは、意義があることだと思います。しかし、きちんとした報告書を出さないといけないということです。
豊田さん:
日本の国際社会の地位がどんどん低下して国力が落ちていると言われる中で、経済力が落ちても存在感はきちんと示せるように。
役人の人ではできないことが議員はやれると思うので、やっていただきたいと思います。
(「週刊フジテレビ批評」9月9日放送より/聞き手:渡辺和洋アナウンサー、新美有加アナウンサー)