新学期が始まった9月。「運動会の練習が楽しみ」「勉強を頑張りたい」などいろんな思いを持つ子どもがいる中で、「学校に行きたくない」と思う子どももいる。そんな子どもたちの「不登校」の悩みについて考える。

友達との関係で悩んだり、学習に不安な気持ちがあったりして学校に通うことができない子どもたちは今、全国の小中学校で24万人とも言われている。こうした中、愛媛でそんな子どもたちの居場所をつくろうと奮闘する女性がいる。

「子どもたちが集まり学べる場」を提供

8月中旬、愛媛県の東部、四国中央市にある私設の「公民館」で石けん作りのワークショップが行われ、夏休み中の小学生など10人ほどが参加した。

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ワークショップを開いたのは「トーキョーコーヒー」を主宰する青木千穂さんだ。青木さんは3人の子どもの母親で、2021年に大阪から夫のふるさと・四国中央市に引っ越してきた。

「トーキョーコーヒー」とは、大人と子どもが一緒になって様々な活動を行う全国プロジェクトで、青木さんは今、その拠点の主宰者を務めている。

「トーキョーコーヒー」は、「登校拒否」のアナグラム(文字を入れ替えて作る言葉遊び)から生まれた言葉で、「不登校の子どもやその親が楽しく学び合う場所」を目指す。
平日に不登校の子どもたちやその親などが集まって、DIYをしたり、料理をしたりして自由に過ごす。活動の内容や頻度は地域によって様々だ。

トーキョーコーヒー四国中央・青木千穂さん:
学校にいろんな理由で「行けない」とか「行かない」という選択をした子たちに対して、「その子が悪い」とか「その子の親が悪い」とかじゃなくて、いろんな子たちがいるのは当たり前で、「いろんな子たちがいるのに教育が1つしかない、学校が1つしかない」っていうこと自体が、もっと変えていかないといけないということ

実は青木さんは元中学校の教師で、7月まで四国中央市内の中学校に在籍していた。大阪時代から10年以上に及ぶ教員生活は充実した日々だったが、ここ数年は不登校の子どもたちが多くなり、さらに低年齢化する現状にもどかしい思いを抱えていた。

トーキョーコーヒー四国中央・青木千穂さん:
学校へ行こうと思ったらお腹が痛くなるとか、頭が痛くなるとか、学校の前で吐き気がするとか…。そんなに体が悲鳴を上げてるのに、そこまでして学校に行く必要はないかなって私は思っていて

増加する不登校…コロナ禍で拍車

2021年度、愛媛県内の小中学校で30日以上欠席した不登校の子どもは、前の年度より419人増えて2,233人と、過去最多になった。

さらに全国の小中学校では、不登校の児童生徒数が24万4,940人(前年度19万6,127人)で9年連続で増加し、こちらも過去最多だ。

この背景について文科省は、「コロナ禍の環境の変化で生活リズムが乱れたり、学校生活において様々な制限がある中で、交友関係を築くことなど登校する意欲が湧きにくい状況にあったことなども影響している」とみている。

増加の一途をたどる不登校に「コロナ禍」が拍車をかけているのだ。

子どもにのしかかる「不登校の罪悪感」

8月12日、伊予市で不登校についての講演会が開かれた。登壇したのは、内子町出身で現在千葉市でフリースクールを運営する漆原幸子さんだ。漆原さんも自身の息子が小学校入学と同時に不登校になった。

千葉市でフリースクールを運営・漆原幸子さん:
まあ、とにかく学校から外れてしまう事の恐怖心・排斥感・孤立感や孤独感・絶望感、そういったことまで感じてしまう。そういった経験をする方は少なくないだろうと思います

この会場に、青木さんの姿があった。青木さんは「トーキョーコーヒー」とは別に、9月1日から新たなフリースクールを立ち上げようとしていて、その悩みをぶつけた。

トーキョーコーヒー四国中央・青木千穂さん:
行政が動かないというか、もどかしいなというところは思ってて…

千葉市でフリースクールを運営・漆原幸子さん:
千葉市の場合は、顔を突き合わせる場所を持てたのが良かった。粘り強く、市との交渉を諦めずに続けていくというのが1つ

また会場では、愛媛県内のフリースクールや学校の関係者なども多く参加していて、青木さんは、今後の活動にプラスになるようなリアルな声も聞けた。

体験学習スクール 春夏秋冬・平田由紀子さん:
子どもたちにも常日頃言うんですけど、(子どもたちの)学校に行ってないことへの罪悪感はすごく強い。とにかく罪悪感をのけてほしいというのが私の思い。「学校行ってなくても教科学習やってる自分たち」を自信につなげてほしいという意味で、(フリースクールでも)学習の時間を入れている

松山市の公立中学校 教諭・渡部涼子さん:
愛媛県は結構、不登校支援に力を入れていて、校内に「サポートルーム」をモデル事業で作ったりしてるんですけど、それもサポートの仕方が何も分からない中で、フリースクールの協議会の方に教員が学んで、不登校の生徒へのサポートも変わってきた

浸透していない「教育機会確保法」

不登校が増え続ける中、国は不登校の子どもたちへの支援について定めた「教育機会確保法」を2017年2月に施行した。

その法律を基に、

・不登校は「問題行動」ではない
・「登校させることだけを目標にしない」
・「休養の必要性」や「学校以外の多様な教育機会の確保」

といった指針を示している。

しかし、7月に総務省が行った調査では、「不登校の子どもを持つ保護者の実に6割が“登校だけを目標にしない”という文科省の基本指針を「知らなかった」と答えている。当事者でさえ、不登校について正しく理解していないのが現状だ。

「不登校は悪いことじゃない」

青木千穂さんが開いた石けん作りのワークショップでは、参加した子どもたちも楽しい時間を過ごせたようだ。

参加した子ども:
優しかった。いっぱい教えてくれた

参加した子ども:
楽しかった

参加した子どもの母親:
この会に参加するのを子どもが楽しみにしてたので、喜ぶ姿を見られて私もうれしかったなと思います。こういった場所はとても心強い場所だと思います

青木さんは、「不登校」は子どもだけでなく、その保護者も悩み苦しんでいると話す。

トーキョーコーヒー四国中央・青木千穂さん:
「義務教育」っていう言葉も、すごく親御さんを苦しめてるんじゃないかなって個人的には思っている。“義務教育は子どもが学校に行かなくちゃいけない”ということじゃなくて、“「子どもたちが教育を受けたい」と言った時に教育を受けさせてあげる義務が親にあるということ”なので、じゃあ「学校に行かない」ってなった時に、どうするのっていう次のステップをもっといろんな人が提示できることが必要かなって思いますね

「不登校は悪いことじゃない」
「不登校は誰でも起こりうる」
「学校に行くことだけが目標じゃない」

悩む子どもたちやその家族をどう支援するか…。いろいろなかたちの学びの場を提供する動きが広がる中、「学校で学ばないことが問題だ」とする周りの社会の考え方が、まず変わっていく必要があるのではないだろうか。

(テレビ愛媛)

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