マニラ発のフィリピン格安航空会社(LCC)「セブ・パシフィック航空」の航空機が4日、目的地である福岡空港に、“門限”を過ぎたため着陸できずにUターンした。

国土交通省福岡空港事務所によると、乗客125人を乗せた航空機は、午後8時頃、福岡空港への着陸態勢に入ったが混雑が理由で再上昇。

福岡空港への着陸態勢に入る「セブ・パシフィック航空」
福岡空港への着陸態勢に入る「セブ・パシフィック航空」
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管制が再び着陸を促したが、「燃料が足りなくなる恐れがある」として、北九州空港に代替着陸した。

給油後、福岡空港はすでに“門限”を過ぎていた上、北九州空港は入国手続きができずマニラへと引き返すことになったという。

航空評論家で元日本航空機長の小林宏之さんに、今回の機長の判断と福岡空港の態勢などについて聞いた。

コロナで空港地上職員が激減

ーーなぜマニラに引き返した?

いろいろな事情があったと思いますが、北九州空港は一部国際線が入っているものの、入国審査を行う法務省系の職員や、植物検疫・動物検疫を行う農林水産省の職員の勤務時間の問題があったと思います。

また、荷物など地上のハンドリングをする人たちが、コロナの影響でかなり退職してしまい、まだ戻ってきていません。

これはどの空港も抱えている問題で、国土交通省によると、約3割の人員が戻ってきていないということで、入国の対応ができなかった可能性があります。

元日本航空機長・小林宏之さん
元日本航空機長・小林宏之さん

ーー福岡空港から北九州に降りることは珍しくない?

福岡の天気が悪かったり、滑走路が閉鎖された場合は、ダイバート、いわゆる代替空港として北九州に着陸することが時々あります。

国内線だったらそのまま到着することもありますが、国際線の場合は、入国審査や検疫検査などの入国手続きが必要なため、それができなかった場合は、乗客は降りることができません。

整備士がいる自分の基地にUターン

福岡空港は市街地に隣接していることから、騒音対策で午後10時以降の着陸を原則認めていない。

この決まりについて小林氏は、空港当局と住民との話し合いで「柔軟な対応が求められる」とした上で、北九州空港の態勢整備も急がれると話す。

ーーどういった対応が望ましいと思う?

福岡空港には夜10時までという門限がありますが、これをもう少し柔軟に運用できたら福岡で降りられた可能性があります。

福岡は騒音問題が厳しくて、空港当局と住民との話し合いで着陸は夜10時までと決まっています。

ただ、特別な事情があれば少しは猶予しますということもあり、今回のケースがどうだったのか、今後福岡の空港当局と住民の協議会で話し合う必要があります。

住宅に囲まれている福岡空港
住宅に囲まれている福岡空港

飛行機は公共交通機関ですし、日本はインバウンドで海外からのお客様を受け入れていかなくてはいけません。せっかく来た人を出発地に帰すことがないように、柔軟な対応が求められます。

もう1つは、北九州空港の態勢整備です。
こうしたことが予想される場合は、公務員の勤務時間を融通するとか、地上のハンドリングスタッフを増やす必要があります。

ーー北九州での入国が無理なら、関空、成田への着陸の選択肢はなかった?

単純に考えれば確かにそうですが、整備士の問題があります。

今回のフィリピンの航空会社の整備士が、関空、あるいは、成田にいない場合は、着陸しても次に離陸できなくなります。

そうなると資格を持った整備士がいる“自分の基地”に戻ることを選択します。

(イメージ)
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ーー「セブ・パシフィック航空」は、成田ーセブ間も運行しているが、それでも難しい?

整備士がいれば技術的には着陸できると思いますが、成田に着いてもまたお客様を福岡に運ばなくてはいけない。

ホテルの手配など乗客のハンドリングを総合的に考えたら、フィリピンに戻ったほうが良いと判断して引き返したんだと思います。

予備の燃料は機長が判断

セブ・パシフィック航空は、福岡上空での待機を要請されたが、「燃料が足りなくなる」との理由で北九州空港へ向かったという。

航空機は通常、どれくらいの燃料を積んでいるのか。

(イメージ)
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ーー国際線なのに燃料がギリギリだった?

飛行機に搭載する燃料は、航空法で決められています。

まず目的地までの燃料、そして、目的地に着けなかった場合の代替空港までの燃料、さらに上空で15分間待機できる分量を最低限搭載するよう、法律が定めています。

一方、空港が混み合っている場合の上空待機や、天気の急変に備えて、通常は「エクストラ・フュール」、専門用語だと「コンティンジェンシー・フュール」という不測の事態に対応できる分量も、法律で定められている最低限の燃料に加えて通常は搭載しています。

しかしこれは、その時々の状況や航空会社のポリシー、最終的には機長の判断で決められます。

(イメージ)
(イメージ)

今回のケースは、法律で定められた最低限の燃料を福岡の上空で待機している間に使ってしまい、これ以上待てないということで北九州に代替着陸したと考えられます。

ーー国際線の便が引き返すことは時々ある?

ニューヨークやロンドン、パリなど長距離フライトで戻ることはまずありませんが、近距離の場合はあり得ます。ただ、非常に珍しいことで、1年に1回あるかどうかです。

LCCは座席も狭いし、11時間も缶詰めにされ、乗客は相当苦痛な思いをされたと思います。

乗客が撮影した機内の様子
乗客が撮影した機内の様子

ーー今後期待される対策は?

インバウンド客はほとんどが飛行機できますので、空港の受け入れ態勢を国民全体で考えていく必要があります。

一度今回のようなことがあると、SNSの拡散などもあって「日本に行ってもまた戻ってきちゃうなら、別のところに行こう」となってしまう可能性もあるので、柔軟な受け入れ態勢を考えて構築していく必要があると考えます。