いま世界で紛争が起きているのはウクライナだけではない。様々な国で対立や紛争が起き、その被害を受けているのは子どもたちだ。こうした子どもたちの医療支援を50年以上に渡って行っているNGO・非政府組織であるドイツ国際平和村の代表が来日した様子を取材した。
紛争や貧困に苦しむ子どもを医療支援
「戦争の終わりは終わりではありません」
ドイツ国際平和村のビルギット・シュティフター代表は、訪問先の広島市でこう語り始めた。
「そこからが大変なプロセスなのだと、日々子どもたちと接している中で感じます。学校、道路、医療施設は紛争で破壊されても建て直すことができますが、子どもたちは戦争が終わっても満足に食べ物が得られず、貧困やケガ、病に苦しみ続けます。こうした子どもに対して何ができるのか、その答えはドイツ国際平和村にあります」

ドイツ国際平和村がはじまったのは1967年。ドイツの市民が紛争や危機的状況にある国や地域の子どもたちに医療支援を行うため設立した。祖国の紛争や貧困などによってケガや病気を抱えた子どもたちをドイツに招いて治療し、リハビリを受けて子どもたちは祖国に帰国する。現在ドイツ国際平和村には、アフガニスタン、アンゴラ、ウズベキスタンなど8つの国と地域(※)の子ども159名が暮らしている。

(※)アフガニスタン、アンゴラ、ウズベキスタン、カメルーン、ガンビア、キルギス、クルディスタン地区、タジキスタン
広島で起きたことを二度と起こさない
8月末に初来日したビルギットさんが、最初に選んだ訪問地は広島市だった。
「いま国際社会では戦争と平和が大きなテーマになっているので、ドイツ国際平和村の代表としてメッセージを送ることが大切だと思っていました。広島を選んだのは、『ここで起きた悲しい出来事を二度と起こしてはいけない』と発信できる場所だと思ったからです」

広島では空港から真っすぐ平和記念公園に向かい慰霊碑に献花した。そして平和記念資料館を訪れ、展示されていた被爆資料や遺品類を食い入るように見て回った。ビルギットさんはこういう。
「献花の際には世界が平和になるようにと一心に願いました。資料館ではこんなことが人間の手によってなされたことを本当に悲しいと思いました。そして1つ1つの資料や遺品に思いをはせながら拝見しました」
被爆者の声を聞き核兵器は脅威だと確信
その翌日には被爆者の小倉桂子さんに会い、原爆が投下されたときの話を聞いた。小倉さんは当時8歳。その体験は心の傷となって、長い間誰にも話せなかった。しかし夫が亡くなった後、通訳を依頼されたことから英語を勉強し、長く封印してきた被爆体験を語るようになったという。

小倉さんの話を聞きながらビルギットさんは「2つの感情が入り混じった」と語る。
「まず小倉さんが抱えてきた苦しみや悲しみに対して、悲しさがこみ上げてきました。同時に小倉さんの勇気を自分の力に変えていこうというポジティブな気持ちも湧き上がってきました。広島では核兵器に対してこれまで自分が考えていたことが正しいと実感しました。ドイツではいま核抑止論を唱える人もいますが、核兵器は脅威だという気持ちがさらに強くなりました」
子どもが子どもらしく生きられる環境を
ビルギットさんがドイツ国際平和村で働き始めてから23年がたつ。当初は地雷や銃で撃たれてケガをした子どもを目にすることが多かった。しかし最近では戦後の貧困や飢餓、病気で苦しむ子どもが増えているという。
「ドイツ国際平和村では子どもたちが子どもらしく生きられる環境をつくります。友達と一緒に生活し、十分な食べ物と医療が提供され、『あなたたちはここで守られているんだよ、安全なんだよ』と言ってあげられる場所です」

ドイツ国際平和村にくる子どもたちは、祖国で戦禍を被り、心を閉ざしている子どももいる。しかし子どもたちはやがて“平和の大使”となって帰国していく。
「ドイツ国際平和村に来た子どもたちは、様々な人たちから手を差し伸べられる環境の中で、だんだん自分の体験を語れるようになっていきます。そして『自分もいつか祖国で人を助けたい』という気持ちが芽生え帰国するのです」(ビルギットさん)
日本の人々は子どもたちに会ってほしい
筆者は最後にビルギットさんに「日本の人々に期待することは何ですか」と聞いた。
「まず自分の国に起きたことをもっと知ってほしい。ドイツ国際平和村の子どもたちに会ってほしい。そうすることできっと違う目で世界を見ることができると思います。いま紛争が起きているのはウクライナだけではありません。世界の様々な国の子どもたちが支援を必要としています。その子どもたちにも目を向けてほしいです」

ドイツ国際平和村は設立以来、のべ3万人以上の子どもたちを支援してきた。その数は世界中で苦しんでいる子どものほんの一部かもしれない。しかしこの活動が広がり、次の世代に引き継がれたら、1人でも多くの子どもたちが救われるはずだ。
【執筆:フジテレビ解説委員 鈴木款】