8月31日、ベネズエラに勝利したバスケット男子日本代表。オリンピック、48年ぶりの自力出場まで、あと一歩と迫りました。
試合後に、「本当に疲れた」と疲労を語ったのは、トム・ホーバスヘッドコーチ(56)です。

トム・ホーバスヘッドコーチ:
いつも言うけど、最後の方のプレーが次の試合は最初からやりたいです。それだったらもっと楽。でも、本当にこの選手たちが、ギブアップしないじゃないですか。本当にこの試合は、大変だったけど、すごいです。すごい。

そんなコーチについて、渡邊雄太選手は、大逆転劇を支えたのは、“コーチの勝利を信じ続ける言葉だった”と明かしました。

渡邊雄太選手
渡邊雄太選手
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渡邊雄太選手:
本当にずっとコーチが信じるっていう、「トラスト」っていうのを、「ビリーブ」っていうのを、ずっと僕たちに対して言ってくれていて。12人全員、それを心の底から信じ切れているからこそ、こういうゲーム展開でもみんなが諦めずに、やれるんだと思いますし。

ホーバス・ヘッドコーチが、一躍脚光を浴びたのは女子代表を率いた、2年前の東京オリンピック。厳しい言葉で指導する一方で、時には、諭すように選手たちに語りかけていた姿が印象的で、女子代表を史上初となるオリンピック・銀メダルに導きました。

髙田真希選手
髙田真希選手

女子に続き、日本男子バスケ界を快挙に導いたトム・ホーバスヘッドコーチとは、一体、どんな人物なのか。東京五輪バスケ女子代表キャプテンを務めた髙田真希選手に、その人物像を聞きました。

強い言葉の裏にある“信頼関係”

日本男子、躍進の立役者、トム・ホーバスヘッドコーチ。その言葉には非常に力があります。
8月29日に行われたオーストラリア戦では、「ふざけるな!細かいこと!わかってないんだったらダメだよ!簡単なことじゃないですか!言い訳!最初から悪かった!レッツ・ゴー!」と強い言葉で熱血指導する場面も。

そんなコーチの姿を見た、バスケ女子の髙田真希選手は…

髙田真希選手: 
自分もこの試合を見ていましたけど、「やってるな」と。
私たちには当たり前のことではあって、やはり劣勢の時にこういう言葉が出てくるんですけど、どうしてもどのチームと当たっても、こういう大会って日本より格上なんです。なので、ちょっとでも面食らったり、ひいてしまったり、弱い気持ちが出てしまうと…隙を見せてしまうと、その隙を突かれて一気に点差が離れてしまうんです。
なので、そういったタイミングでしっかりタイムアウトを取って、いつもやっていることをただ言っているだけなんです。
選手がもっとできる、こういう場でも力を出し切れると信じているからこそ、こういう言葉になってくるのかなと。

コーチとの思い出を語る髙田真希選手
コーチとの思い出を語る髙田真希選手

トム・ホーバスヘッドコーチは、身長203cm、体重92kgの56歳。非常に背が高く、自身もプロ選手として活躍。2010年から日本での指導を始め、2021年の秋から男子代表のヘッドコーチに就任しました。

選手への指示やインタビューでも「日本語」で対応しているホーバス氏。
そこにはホーバス氏の信条があったといいます。それは、通訳を介すると選手との信頼関係を作ることがとても難しくなってしまうという考えでした。
「たとえ日本語を間違えて選手に笑われても、それで選手がリラックスできるなら大歓迎」「間違いを恐れていては十分な指導はできない」とホーバス氏は語っています。

――多少たどたどしい部分があったとしても、日本語で熱量を持って伝えられる方がより選手に響くのでしょうか?
髙田真希選手: 

そうですね。私たちも理解していますし、変に日本語を包み隠すこともできないので。
そうやって伝えてくださるからこそ、自分たちも気持ちが入ったり、スイッチが入ったりするんです。そこには必ず信頼関係があるので。
練習や試合で注意される場面があったとしても、その後「自分はこうなってほしいから、こういうふうにやってほしいから注意したんだよ」と、終わった後でもコミュニケーションを取ってくれるので。その中に信頼関係があるからこそ、自分たちも理解できますし、そういった言葉をかけられたときに、自分もその期待に応えなくてはいけないと思いますね。
こういった厳しい展開でも逆転までいけるというのは、こういった力があるからこそだと思います。

「“我慢”したんです」選手の成長を見守る姿勢も

ホーバス氏が「日本語での指導」の他にも、大切にしていること。それは「我慢」だといいます。27日のフィンランド戦後の会見では、記者からドイツ戦の後に「富永選手と河村選手がまだやれる」と言っていたことについて問われた際、このように話していました。

トム・ホーバスヘッドコーチ:
このダブルは、この2人がポテンシャルはすごい高いです。天井めっちゃ高いです2人とも。僕はもう、すっごい待ってた、もう“我慢”したんですよ。河村と富永いつ爆発するかなと思って、本当にきょう良かったです。できますよ。もう、あさっても頼むよ。

トム・ホーバスヘッドコーチ
トム・ホーバスヘッドコーチ

――髙田選手も印象に残っていることがあるのでは?
髙田真希選手: 

そうですね、私自身はホーバスHCになってからキャプテンもやらせてもらっていて、練習中も特にそうなんですけど、注意する場面があったら、私のミスじゃ無くても若い選手のミスだったとしても、私に注意してくるんですね。
キャプテンに注意することによってチームが引き締まるので。すごくいろんな意味でつらいこともあったりしましたが、彼のおかげで、私自身もセンタープレーヤーでゴール付近でずっとプレーしていたんですけど、3Pまでシュートの幅を広げられるようになって。
年齢を重ねてくるとなかなかプレースタイルを変えることは難しいことなんですけど、だからこそ3Pを身につけたことで、自分自身のプレーの幅が広がって今でも現役でいられるのかなと。苦楽をともにした仲ではありますけど、本当に出会えて、指導してもらえて良かったなと思える一人です。

選手、チーム、スタッフ「日本の力を信じる」心

ホーバス氏が大切にしていることで、自身の著書の中で明かしているのは「信じる」こと。
目標達成のために徹底的に信じてやり抜くことを信条としています。2021年8月、東京五輪のフランス戦後の会見では…

トム・ホーバスヘッドコーチ:
僕は本当に金メダル取れる気持ちが心からあります。で、信じてないんだったらもう優勝できない。信じてないんだったら、大きいチームに勝てない、自分の力、信じてないんだったら、何もできないと思います。大きいです。

髙田真希選手: 
2021年に東京五輪がありましたけども、その5年前からトム・ホーバスコーチは金メダル取ると言うことを目標に掲げたんです。
5年前はまだ日本が世界にそんなに勝てていないときで、また見ている人もわかる力の差が当然あったので、金メダルを取ることがどれだけ大変な事か、本当にその目標で大丈夫かという気持ちも自分は正直あったんです。
ただやっぱり練習をしていく中で、自分たちも厳しい指導の中で実際に試合で結果を残すことができることによって、そういう言葉が信じられるようになりました。

髙田真希選手: 
何よりコーチは練習の時から、「信じる」ということをすごく使うんです。自分の力を信じて、チームの力を信じて、スタッフ、日本の力を信じてと言う言葉をかけてくれるんです。
なので、選手一人一人の可能性を信じてくれるからこそ、ああいった熱量になるのかと。それは選手も理解していますし、本当に言葉の力ってすごいなと、改めて実感しました。
(めざまし8 「わかるまで解説」より 9月1日放送)