2023年7月10日に九州北部を襲った記録的な大雨により、各地で被害が相次いだ。福岡・筑紫野市の吉木地区では、大雨から1カ月以上がたった今も用水路にたまった土砂の撤去作業が行われていた。

1km離れたため池が決壊

吉木地区に40年以上暮らす住民は「土石流が流れてきて『なんで、こげんたまっとうと?』と。そこら辺の田んぼにも半分以上土砂が入っとうけん。用水路に(自身の肩のあたりを示し)この高さまでヘドロがたまっていた。今まで全然そんなのなかったけん」と話した。

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この土砂災害の原因は何なのか。

筑紫野市・安樂鉄平農政課長:
7月10日に大雨が降り、翌日11日の朝にため池の下流の住民から「水路の水量が多い」と通報を受け、職員が現地確認を行い、ため池が決壊したことを確認しています

決壊したため池は1kmほど離れた「堀切池」
決壊したため池は1kmほど離れた「堀切池」

決壊したため池は、吉木地区の住宅地から1kmほど離れた山の中にある「堀切池」だという。7月10日の大雨で決壊し、下流域に大量の土砂が流れ込んだ。

大雨の爪あとが残る険しい山中を進んだ先にあったのは、岩肌がむき出しとなった現在の堀切池だ。本来は高さ12.4メートルの堤防と大量にたまった水があるはずだが、堤防は崩れ落ち、ため池としての機能は失われているようにみえる。

筑紫野市・安樂鉄平農政課長:
決壊の原因はあくまでも推測になるが、記録的な大雨により堤防を越水したことが大きな要因であると推測している

防災工事難しく…市民に協力求める

ため池が決壊したことによって起きる水害は、これまでも各地で発生している。5年前の西日本豪雨では広島県でため池が決壊し、女児1人が犠牲となった。

この災害以降、国と自治体は、決壊すると人的被害の恐れがあるため池を「防災重点ため池」に指定し、必要な防災工事を行うとしてきた。

現在、筑紫野市には、こうした防災重点ため池が堀切池を含め50カ所ある。しかし、これまでに防災工事は一度も行われていない。理由のひとつが莫大(ばくだい)な工事費用の問題だ。

筑紫野市・安樂鉄平農政課長:
市だけの費用でため池の改修工事、防災工事をするのはかなり大きな金額がかかりますので、国や県の協力を得ながらということになってくる

ハード面での整備が進まない中、市はソフト面の対策に取り組んでいる。防災重点ため池50カ所全ての「ハザードマップ」を作成し、各家庭に配布した。

筑紫野市・安樂鉄平農政課長:
今はどれだけ多くの雨が降るか分からないので、やはり行政側だけで100%の被害を防ぐのは難しくなるので、市民の皆さんにはしっかり危機意識を持ってもらい、ハザードマップを見ながら早めの避難をお願いしたい

遠隔管理システム導入も備えが重要

一方、北九州市内には「防災重点ため池」が約200カ所ある。池の周辺に多くの住宅が立ち並ぶ北九州市小倉南区の農業用ため池「山門池」もその1つに指定されている。

県の浸水想定区域などを基に作成した地図によると、池が決壊した場合、わずか15分後には広い範囲で被害が出る恐れがあるとしている。山門池は、越水を防ぐために水位が一定まで上昇すると放流口から水を逃がす仕組みとなっている。さらに…。

北九州市農林水産部・中野陽一郎担当課長:
管の中に水位センサーが入っている。(水位が)どこまで来ているか測定して、水位データを遠隔のパソコンで確認できる

市が3年前に導入した遠隔管理システムは、水位データだけでなく小型カメラによる画像撮影も可能で、急激な水位上昇や放流口の異常など、ため池の状況を素早く察知できるのが特徴だ。

北九州市農林水産部・中野陽一郎担当課長:
状況確認は現地まで行かなければ分からないというのが今までの方法。遠隔管理システムでは、すぐに確認できる。(放流口に)引っかかった流木を取り除くなど早めの対応が可能になった

しかし、ソフト面の充実だけでは抜本的な解決にはほど遠いのが現状だ。そのため住民一人一人が危険性を認識するなど、事前の備えが重要になると専門家は指摘する。

九州大学大学院(河川工学)・小松利光名誉教授:
ため池の決壊は急に押し寄せて来る。それまで何ともなかったのに“どどっと”押し寄せて来る。日頃から住んでいる場所がため池の決壊に対してどんなリスクがあるかを認識しておく。命が助かるのが先決。空振りを恐れずに早めに避難すること

福岡では、2017年の九州豪雨で朝倉市にある9カ所のため池が決壊し、土砂災害が発生している。県内では現在、3500カ所余りのため池が「防災重点ため池」と指定されている。
都市開発とともに農地が減り、ため池のすぐそばにも人が暮らすようになった現代。身近なリスクとどう向き合うのか、改めて問われている。

(テレビ西日本)

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