来年に行われるアメリカ大統領選挙は、現職の民主党・バイデン大統領に、共和党の候補者が挑む構図だ。米政治サイト「リアルクリアポリティクス」のまとめた世論調査によると、共和党支持者の平均支持率では、トランプ前大統領が55.4ポイントと、2位のフロリダ州知事のデサンティス氏の14.3ポイントにトリプルスコアをつけ独走中だ。ただ、当初は泡沫候補とみられていた38歳のラマスワミ候補が7.2ポイントと3位に躍り出て、急激に注目が集まっている。

ラマスワミ氏は共和党員の支持率で3位に躍進している
ラマスワミ氏は共和党員の支持率で3位に躍進している
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ラマスワミ氏は地球温暖化対策や人工妊娠中絶に反対し、トランプ氏への支持も明言する。自身を「愛国者」と称し、時に物議を醸す発言も厭わない彼に、なぜ支持が集まるのだろうか。

ラマスワミ氏とは何者か?支持率0%から急上昇

ラマスワミ氏は1985年にオハイオ州シンシナティで、インド人移民の両親の元で誕生した。高校卒業後には、ハーバード大学に進学し、その後はイェール大学のロースクールを卒業した。在学中には「Da Vek」の名前でラッパーとして活動もしていて、選挙活動中にエミネムの「Lose Yourself」を披露し、SNSで注目された。

大統領選挙のキャンペーンではラップを披露した(Xより)
大統領選挙のキャンペーンではラップを披露した(Xより)

また、2014年にはバイオテクノロジーの会社を設立して成功を収めた。総資産は9億5000万ドル(日本円で約1400億円)とも推定され、全米で最も若い億万長者20人にも選ばれている。2月に大統領選挙への出馬を表明した際には、ESG(環境・社会・企業統治)投資に批判的な保守系の投資家とされ、「社会問題への意識が高い」企業を攻撃する目的の、泡沫候補とされていた。3月に筆者は、トランプ氏などが参加した保守派の政治集会で彼の演説を見る機会があった。当時はほとんど誰からも注目されておらず、支持率はもちろん0%台だった。

3月に保守派の政治集会で演説した際の注目は低かった
3月に保守派の政治集会で演説した際の注目は低かった

それが出馬表明から数ヶ月で、ペンス元副大統領やヘイリー元国連大使を凌駕する支持を集めている。一体なぜなのだろうか。

「私はラップスターで、テニスの神様、未来の大統領」

様々な分析では、彼が支持される理由は「人柄」「メディア露出」「年齢」「過激発言」に集約されそうだ。8月21日には上半身裸でテニスに打ち込む様子をSNSに投稿し、「私はラップスター、テニスの神様、未来の大統領」とアピール。動画はすでに700万回以上閲覧された

SNSに上半身裸でテニスをする様子を投稿し注目を集めた
SNSに上半身裸でテニスをする様子を投稿し注目を集めた

また、要請されればほとんどのメディアに出演し、露出を増加させてもいる。政治家にありがちな、自分に都合の良い報道をするメディアだけに出演するわけでもない。そして年齢は38歳。仮に大統領に就任した場合には39歳と歴史上で最も若く、初の30代の大統領になる。バイデン大統領が80歳、トランプ前大統領が77歳で、高齢批判も出る中で、ずば抜けて若い候補だ。彼もその若さを存分にアピールする。そして何よりも支持を集めているのが過激な発言だ。

麻薬が蔓延するアメリカの現状を打開するために、麻薬の供給元とするメキシコのカルテルを「軍事攻撃する」と訴えるほか、「FBI(連邦捜査局)と教育省は廃止する」、「アファーマティブアクション(積極的差別是正措置)を打ち切ろう」と言い切る。また、地球温暖化については、「気候変動カルトに乗っ取られている」と批判し、「石炭を採掘し、もっと燃やせ」と聴衆に語る。トランプ氏については、対抗馬であるにも関わらず支持を前面に打ち出し、「当選したらトランプ氏は恩赦する」と断言。「アメリカ・ファースト2.0」と銘打ち、MAGA(アメリカを再び偉大に)運動を「完璧なものにする」と約束して、トランプ氏の支持者をも引きつける。

共和党討論会でも異彩を放つ

8月23日には共和党初となる主要候補8人によるテレビ討論会が開催されたが、明らかにラマスワミ氏は異彩を放っていた。

「この変な名字の痩せた男はいったい誰で、この討論会のステージの真ん中でいったい何をしているのか?政治家ではないと言っておこう。私は起業家だ!」

共和党初のテレビ討論会では世代交代を強く訴えた
共和党初のテレビ討論会では世代交代を強く訴えた

満面の笑みで話し始めたラマスワミ氏は、「長い間、共和党には何かから逃げてきたプロの政治家がいた。今こそ、私たちのビジョンである何かに向かって走り始める時だ。壊した人たちに鍵を渡すのではなく、新しい世代が問題を解決するのだ」と、世代交代を訴えると大きな歓声が会場から挙がった。これに対して、ペンス前副大統領が「新人を連れてくる必要はないし、経験のない人たちを連れてくる必要もない」と噛みつくが、逆に「ペンスはなぜこう言わない? 大統領になったら初日にトランプ前大統領を恩赦することを約束してくれ」と言い返す。

さらに、ラマスワミ氏はトランプ氏を「21世紀最高の大統領だった」と絶賛し、4度の起訴については「政権が政敵を起訴するような前例を作ってはならない」とも訴えた。また、バイデン政権が続けるウクライナ支援を取りやめ、アメリカ国内の不法移民や治安対策、中国への対応に集中すべきだとの持論を堂々と主張。支持率の上昇を背景に、他の候補者からは最も攻撃も受けたが、逆に知名度の上昇に拍車をかけたとの見方もある。

ラマスワミ氏は医師の妻との間に2人の子どもがいる
ラマスワミ氏は医師の妻との間に2人の子どもがいる

アメリカメディアからは「彼は望んでいたものすべてを今夜手に入れた」「新しい若い世代の感性にマッチした候補」「討論会の勝者」と賛辞を送る声も挙がった。

「中国の台湾侵攻」5年後はOK?評価は未知数…

ただ、ラマスワミ氏については注目は集まるが、過激発言で批判も浴びる。14日に出演したネット番組では、「台湾を守るのは2028年まで」との発言が物議を醸した。自身が大統領になれば、1期目の終わる2029年1月までに台湾に依存している半導体を、自国で全て生産することを実現。台湾を守る方針を変更するということだが、強い批判を受けた。

中国による台湾侵攻を容認する発言には批判が集中した
中国による台湾侵攻を容認する発言には批判が集中した

また、ラマスワミ氏の狙いは知名度を上げることで、「2028年の大統領選挙が本命」との見方もある。ただ1つ言えることは、彼の支持率は伸び続けていて、トランプ氏の有力な対抗馬と見られているデサンティス知事を上回る可能性まで出てきたことだ。「大穴」と目されるラマスワミ氏がさらに支持を伸ばすのか。それとも失速していくのか。目が離せない展開が続きそうだ。

(FNNワシントン支局 中西孝介)

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。