中国政府は3年半ぶりに日本への団体旅行を解禁したが、習近平国家主席の頭の中は「顧頭不顧脚(グートウ・ブーグージアオ)」だという。日本語に訳すと「背に腹は代えられない」という意味だそうだ。実は今、中国経済が危ない。それによって日本への影響はどうなっていくのか。気になる中国の最新情勢について、中国問題にくわしいジャーナリストの近藤大介さんに聞いた。

中国経済 本当に良くない数字は隠される

ジャーナリスト 近藤大介さん:
「顧頭不顧脚」、この言葉は「頭を顧みて、脚を顧みない」。つまり足まで顧みる余裕がないということ。切羽詰まっているということです

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中国経済の危なさは数字にも表れている。

中国の7月の経済指標は、小売り売り上げは、前年同月比プラス2.5%だが、伸び率は鈍化、不動産開発投資は1~7月までの累計でマイナス8.5%で、下げ幅が拡大傾向。輸出額は前年同月比マイナス14.5%で、特にアメリカ向けが不振。

そして注目なのが、16歳から24歳までの若者の失業率。6月には過去最悪の21.3%となっていたが、7月分は非公表となっている。近藤さんによると、実際は若者の失業率は50%近いかもしれないということだ。この状況を中国語で「卒業即失業(ピーイエ・ジーシーイエ)」と例えられている。 

ジャーナリスト 近藤大介さん:
中国は9月入学、7月卒業です。この7月に大学生が1,158万人卒業しました。それから進学しない高校生や、大学院を修了した人たちも含めると、1,500万人ぐらいが世の中に出てきたわけです。この人たちの就職先が本当にないわけです。6月でも21.3%の失業率で、それに加えて1,500万人ぐらいが世の中に出てきたわけで、正確に統計を取ると大変な失業率になってしまうということで発表を控えたのだと思います

中国の大学生の間では、卒業式に死体のような格好をして写真を撮るのが流行しているという。

ジャーナリスト 近藤大介さん:
“ゼロコロナからゼロ職場へ”ということで、就職先がないわけです。私の知り合いでも、「100社回っていて、ようやく見つかったのが家の前のコンビニでした」みたいな人もいるわけです。それぐらい厳しい状況になっていまして、卒業式が死ぬのと同じなんだぞということで、ゾンビスタイルでの卒業式が流行したということです

中国経済は「I字悪化」 「V字」でも「L字」ですらない

今とこれからの中国の経済状況は、近藤さんによると、「V字回復」でもない、「L字回復」ですらない、「I字悪化」だそうだ。

ジャーナリスト 近藤大介さん:
「V字」は下がったものがまた上がっていくということですね。「L字」というのは下がったものが上がらないで、すっと横ばいになっていくということです。今中国で言われてるのは「I字」ですね。ズドンと落ちる一方ということです。底が見えないという状況です

背景は2つあって、1つは「ゼロコロナ政策の後遺症」、もう1つは、「超大手不動産会社の危機」ということだ。

ジャーナリスト 近藤大介さん:
ゼロコロナ政策ですが、習近平政権始まって10年で初めて、14億人全国民に悪影響を与えたんです。これまで富裕層だけに悪影響があることなどはありましたが、3年間のゼロコロナ政策で庶民に至るまで全員に悪影響があったものですから、とにかく貯金の少ない庶民がもう耐えられない状況になっています。
大手不動産会社、恒大グループが2年前に破綻の危機になりましたけれど、一番大きい7兆円売り上げの碧桂園というところが危ないとささやかれているのはじめとして、大手不動産会社が債務を返せないような状況が起こってきています。早急に対処しないと2008年のリーマンショックみたいなことになるリスクがあると思います。
不動産会社が今、資金繰りがうまくいかなくて、さらにマンションを作っても売れずに在庫の山を抱えています。庶民はマンション買うどころじゃなくて、生活が大変です。地方政府も借金でお金がなく破綻に向かっているということで、三者三様の悪さになっているんです。この悪循環を何とかしないと、ますます悪くなっていくと思います

上海で体感する中国の景気は?

ここで現地中国から、FNN上海支局の沖本支局長が中継でリポート。実際に中国国内では、今どのような景気になっているのか。

FNN上海支局 沖本有二支局長:
上海中心部にあるショッピングモールに来ています。見たところ商品が並んでいて、お客さんもいる普通のショッピングモールに見えると思います。しかし2階に上がると照明がついておらず、ほとんどのお店が閉まっています。服飾店が多いのですが、通信販売が盛んな中国でもともと弱っていたところに、コロナがあってとどめを刺された状況だと聞いています。ロックダウン明けの2022年7月、店主たちが家賃の支払い免除を求めて抗議活動を行うという、中国では異例の事態が起きました。上海の街はきれいで人も多く、景気が悪いという実感はありませんが、一歩ショッピングモールに入ると、空き店舗が多くなっているのが中国の実情です。
地元の人たちに聞いてみましても、「友人が失業中」「みんな景気が悪いといっている」という話をしています

FNN上海支局 沖本有二支局長:
就職難の大学生は、新卒の方が条件がいいということで、卒業せずに大学院に行っています。バブル崩壊後の日本の就職難を思い起こさせるような話です。日本企業の方に聞いたところ、「あまりに受注が少ないので、生産ラインを止めて、従業員に休んでもらう」。そんな景気の悪い話がありました。それが今の中国の実情かと思います

失業率を非公表にしていることについて、市民はどう受け止めているのか?

FNN上海支局 沖本有二支局長:
街の人に聞きますと、「数字が悪いのは分かっているので発表しなくていい」とか、「そもそもこれまで発表していた数字も正確ではなかったのでは」と、怒りを通り越して諦めに近いような、そんな中国らしい声が聞かれました

海外への団体旅行解禁の狙いは“ガス抜き”と“経済武器”

経済状況が悪い中で、なぜ中国政府は団体旅行を解禁したのか。近藤さんによると、狙いの1つ目は、中国国内のイライラをガス抜きするためだと話す。日本への旅行を「洗脳遊(シーナオヨウ)」と呼ぶ中国人もいるのだそうだ。

ジャーナリスト 近藤大介さん:
10年ほど前に、日本旅行が初めて流行した時、日本旅行のことが「肺を洗う旅」と言われたんです。中国の大気汚染がひどかったので、関西空港に着いて深呼吸をみんなしていたんです。今は「脳を洗う旅」ですね。大変不景気で、ゾンビスタイルで卒業しなきゃいけないような状況ですから、せめて日本に来てリフレッシュしようということで、「脳を洗う旅」と言われてますね

狙いの2つ目は、他国への経済武器。日本を含めて、インバウンド頼みの国に恩を売るということだ。

ジャーナリスト 近藤大介さん:
最近、習近平政権が「戦狼外交」といって、非常に他国に厳しい外交政策をとっているわけです。それによって世界中から総スカンというか、非常にイメージが悪くなっている状況があり、そのイメージチェンジをしようということです。それには経済を武器に使う、爆買いの人たちをたくさん送り込んで、「やっぱり中国って大事だよね」「中国と仲良くした方がいいね」と思わせようという“経済武器”に使おうということですね

ただ、海外への団体旅行を解禁しても、中国国内の経済状況がよくないのに中国国内が潤うわけではないのではないか。

ジャーナリスト 近藤大介さん:
その通りです。旅行会社とかを除けば、日本にお金が落ちるわけで、本来なら習近平政権としては好ましくない政策ですが、最初に話しました通り「足のことを考える余裕がない。もう頭しか考えられない」という状況にきているんだろうと思います

日本への影響「爆買いは“チョイ買い”」に?

近藤さんによると、日本への影響は「中国への輸出が落ち込む」、そして「爆買いは“チョイ買い”」になるということだ。

ジャーナリスト 近藤大介さん:
上半期で中国の統計を見ても、11.1%も前年より落ち込んでまして、前年はゼロコロナ政策をしていたことを考えますと、かなりの落ち込みだと思います。日本企業も 中国投資を控えるという傾向が出てきていますので、「輸出が落ち込む」と言えるんだろうと思います。また下半期も同じような傾向になると思います。“チョイ買い”と言いましたが、梅田の百貨店で両手にたくさん買い物するイメージだったと思いますが、これからは大阪・天神橋筋商店街でちょこちょこ買うみたいなことになるんじゃないかと思います

中国経済の低迷 世界経済に大きな影響

中国の経済低迷で、世界経済もピンチになるのだろうか。「中国がくしゃみすると、世界はかぜをひく」なんて言葉もあるが、どうなのだろうか。

ジャーナリスト 近藤大介さん:
その通りだと思います。中国の過去10年の経済成長というのは、世界経済の成長の3分の1を占めていました。これが低迷すると、ウクライナ危機の経済的な影響以上に、世界経済に大きな影響を与えると思います

お金の力で他国を味方につける中国の手法が難しくなるのではないか。

ジャーナリスト 近藤大介さん:
中国はアメリカと違って、世界の人が憧れているわけではないです。憧れているのはチャイナマネーであって、“金の切れ目が縁の切れ目”になっていくので、やっぱり中国の手法が難しくなっていくと思います

外交への影響は?

ジャーナリスト 近藤大介さん:
一時的には「微笑外交」で、78カ国・地域に団体旅行を解禁したようになると思います。時間がたって国内経済が悪くなると、外国にぶつける、外国に対して強硬な姿勢で迫っていくというのが、古今東西の歴史にあることですので、そこには警戒していかないといけないと思います

団体旅行解禁の裏に、中国経済の危うさもあるのかもしれない。

(関西テレビ「newsランナー」8月17日放送)

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