「じんしょ」と呼ばれる、大きな綱を使った大迫力の綱引き。山陰では鳥取・三朝町の祭りがよく知られているが、その隣の倉吉市で62年ぶりに復活した。何もかもが手探りの中、長らく途絶えていた地域の祭りの復活を目指した地元の実行委員会に密着した。

62年ぶりの「倉吉じんしょ」

8月5日、倉吉市の中心部・打吹通りでは、大勢の市民が大きな綱を引きあっていた。

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62年ぶりに開催された大綱引き「倉吉じんしょ」は、1961年(昭和36年)年以降伝統が途絶えていたが、倉吉市制70周年の記念事業として、再び開催されることになった。

復活に向け、実行委員会が結成されたが、困ったことがあった。最後に倉吉で「じんしょ」が行われたのは62年前。メンバーは誰も当時の様子を見たことがなかったのだ。そこから、手探りで準備が始まったという。

ベテランからノウハウを引き継いで

本番を3日後に控えた市内の公園。大勢の人が、なにやら木のツルのようなものを池から引き上げていた。綱引きに使う綱の材料「カズラ」。綱を編むまで、乾燥しないよう池につけておいたのだ。

集められた「カズラ」はかなりの量、そして、猛暑の中の不慣れな作業に、実行委員会のメンバーは「想像以上に大変です」と苦笑いだ。さらに、引き上げた「カズラ」を、綱のどの部分に使うかを決めなければならない。そのため、太さや長さによって仕分けをする必要もあった。

そんな悪戦苦闘するスタッフに、「じんしょを甘く見てもらったら困るな」とつぶやいたのは、藤井博美さん。隣の三朝町から“助っ人”として駆け付けた。藤井さんは、今も「じんしょ」の伝統を受け継がれる三朝温泉街で、長年、じんしょに携わってきたベテランだ。

三朝町の「じんしょ」
三朝町の「じんしょ」

三朝町の「じんしょ」は国の重要無形民俗文化財にも指定され、今もその伝統が地域で連綿と受け継がれている。「カズラ」を使った大綱を引き合う「じんしょ」のしきたりや様々なノウハウも豊富だ。

三朝区長・藤井博美さん:
倉吉の人たちは経験がないから、森林組合が持ってきた「カズラ」をそのままもらってしまう。それでは「カズラ」の大きさや太さが偏ってしまう。

「カズラ」で綱を作るには、太いものと細いものがバランスよく揃っている必要があるが、ほぼ初体験の倉吉の人たちにとっては“初耳”の話。準備の中でも、言われて初めて気が付くことは少なくなかったそうだ。

倉吉打吹まつり実行委員会・金光智志さん:
すべてが手探りなので、綱ができるのかどうか、不安すらある。何とか、綱として、引っ張るところまでいけるようにしたい。

「記憶の新たな1ページに」

そして8月5日、「じんしょ」の当日、いよいよ大綱が編み上げられる。作業には、市民も含め約40人が参加。三朝町からの“助っ人”が中心になって、夕方6時の本番に向けて、急ピッチで作業を進めた。

倉吉打吹まつり実行委員会・金光智志さん:
三朝からの応援は本当に心強い限り。倉吉の人だけでは、「じんしょ」(大綱)の作り方を知っている人もいませんし、技術もない。三朝の方にお世話になってがんばりたいと思います。

三朝の人から知識や技術を教わりながら、倉吉の人たちも必死に綱を編んでいった。

三朝区長・藤井博美さん:
倉吉の人たちの働きぶりはいいと思いますよ。来年、三朝に来てほしい。

約9時間かけて、大綱が完成した。ここまで心配が尽きなかった“助っ人”の藤井さんも納得の出来になった。

三朝区長・藤井博美さん:
三朝で5月に作った綱よりもきれいです。良い「カズラ」が入っていたのできれいにできました。

完成した大綱は2本、担いで会場まで運ばれた。会場にはすでに、「倉吉じんしょ」の復活を一目見ようと多くの人が集まっていた。

そして、2本の大綱が1つにつなぎ合わされると、倉吉市の広田市長が声をかけ、大綱引きが始まった。東西二手に分かれて引き合う「じんしょ」は、どちらが勝つかで、その年が「五穀豊穣」か、「商売繁盛」かを占うが、62年ぶりに復活した今回は、勝負にはこだわらなかった。

大綱引きの参加者:
当時は生まれていなかった。初めて経験できてよかったです。

大綱引きの参加者:
新しい体験をさせてもらった。すごくうれしかった。

倉吉打吹まつり実行委員会・金光智志さん:
大きなけが人もなく、無事に終わって、ほっとしています。新たな歴史というか、自分の記憶の新たな1ページにしてもらえたらいいかな。

大勢の人たちの情熱を結集して、みごと復活した「倉吉じんしょ」。次回の開催は決まっていないが、倉吉市は、62年ぶりの復活が、地域の伝統文化が市民の間に再び根付くきっかけになればと期待している。

(TSKさんいん中央テレビ)

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