熊本市に住む91歳の男性が、太平洋戦争の激戦地・ブーゲンビル島で戦死した兄の遺骨を探している。この夏、現地で遺体を埋葬したと思われる場所が特定された。

ブーゲンビル島で戦死した兄

91歳の槌田春義さんは、太平洋戦争の激戦地・パプアニューギニア領ブーゲンビル島で戦死した兄・直人さんの遺骨を探している。

兄の遺骨を探す槌田春義さん
兄の遺骨を探す槌田春義さん
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熊本市西区在住 槌田春義さん(91):
熊本駅で見送りしまして、万歳、万歳で見送りした。遺骨は、石ころが入っているだけだった。それがお墓に入っている

「ブーゲンビル島の戦い」の様子
「ブーゲンビル島の戦い」の様子

1943年(昭和18)11月から終戦まで続いた「ブーゲンビル島の戦い」には、熊本の旧陸軍第6師団から約3万2,000人が派遣され、2万人以上が亡くなった。熊本県出身の戦死者は5,000人以上と推定され、そのほとんどの遺骨が現地に眠ったままだ。

槌田さんの兄・直人さん
槌田さんの兄・直人さん

槌田さんの兄・直人さんは、ブーゲンビル島のマツンケイという場所で、塩を作る「製塩班」の班長を任されていたが、1944年9月、製塩の作業中に機銃掃射を受け亡くなったそうだ。享年25歳、マツンケイで亡くなった日本兵は、槌田さんの兄・直人さん1人だけで、これまで国による遺骨収集がおこなわれた記録はない。

槌田さん「全財産投じても遺骨を…」

熊本市西区在住 槌田春義さん(91):
私も余生が限られているから、全財産を投じてでも探して、遺骨を持って帰りたいという気持ちを持っています

2022年12月、槌田さんはブーゲンビル島出身のレベッカ・マニアコさんから、兄が亡くなったマツンケイについて話を聞くことができた。

ブーゲンビル島出身のレベッカ・マニアコさん
ブーゲンビル島出身のレベッカ・マニアコさん

レベッカ・マニアコさん:
現地の人の間でもどのあたりに日本の兵隊さんが埋められたとか、そういうことが代々伝わっている。そこに住んでいる家族が自分の母親と親しかったので、私も行ったことがある。親戚でもあるし、すでにこの件について、話を進めている

熊本県ブーゲンビル島会では、レベッカさんを通じて現地とやりとりを続け、2023年6月に国の遺骨収集事業に参加経験のある、黒木伸男理事を事前調査としてマツンケイに派遣することにした。

熊本県ブーゲンビル島会 黒木伸男理事
熊本県ブーゲンビル島会 黒木伸男理事

熊本県ブーゲンビル島会 黒木伸男理事:
行く場所はマブアニと言って、日本名はマツンケイ。同じ地名です。当初は川を船でさかのぼって探す予定でしたが、川はワニが多くて危険で入れないということで、ジャングルの中を歩いて捜索予定です。実際は行ってみないと、わからない状況ですね

現地調査で戦死日本兵の有力情報…

6月下旬、日本から丸2日間かけてブーゲンビル島に到着。その後は、時には道なき道を車で走り、ボートでマツンケイを目指す。その途中に、黒木さんの元に重要な情報が入った。

熊本県ブーゲンビル島会 黒木伸男理事:
マツンケイ出身のジェトロ・ベンという方で、小さいころに友達とそこでヤシの実をとって遊んでいたら、おばあさんが「そこは日本兵を埋めているところだから、近寄ってはいけないよ」と。それで「場所を確認した」と

マツンケイに着きジェトロ・ベンさんの案内で日本兵が埋められているという場所に向かった。

通訳:
ここの場所。ここで亡くなった

通訳の男性がそう話す場所には、大きなアーモンドの木があった。

通訳:
これ、銃の痕。撃って、全部穴が開いている

ベンさんは「このアーモンドの木に機銃弾があたり、塩を作りに来ていた日本兵が1人亡くなったと聞いている」と教えてくれた。

日本兵が埋葬されたと言い伝えられている場所
日本兵が埋葬されたと言い伝えられている場所

亡くなった日本兵はその後、アーモンドの木から少し離れたヤシの木の周辺に埋葬されたことも言い伝えられていた。

「間違いない。体調整え現地行きたい」

黒木さんは現地で行った事前調査を、映像を含めて槌田さんに報告した。

調査結果を聞く槌田さん
調査結果を聞く槌田さん

熊本県ブーゲンビル島会 黒木伸男理事:
ここで日本兵が塩を作っていて、飛行機の銃で撃たれて亡くなったという現地情報と、私たちが聞いている情報が同じで、ここで語り継がれている。この時に私が思ったのが、“お兄さんが待っていたな”と。ここまで証言がぴったり合うことはない

熊本市西区在住 槌田春義さん(91):
埋葬者は1人?

熊本県ブーゲンビル島会 黒木伸男理事:
1人

熊本市西区在住 槌田春義さん(91):
そうすると、可能性があるな…検体を持ってきてほしいと思っていたんですが、それは無理なんですね

熊本県ブーゲンビル島会 黒木伸男理事:
それはできないですね。日本の厚労省から遺骨鑑定人が行って、日本側とパプアニューギニア側の遺骨鑑定人の許可がないと持ってこられないんです

調査に同行したレベッカさんからメールが届いていた。

レベッカさんからのメール
レベッカさんからのメール

メールには「今回の調査で、槌田さんのお兄さんの埋葬場所と思われる確かな情報があった。次の展開を期待している」と記されていた。

驚きが隠せない槌田さん
驚きが隠せない槌田さん

熊本市西区在住 槌田春義さん(91):
きょうの報告を見ましてね、これはもう、どうも間違いなさそうだなということでいま驚いています。おそらく当時、現地の人と協力関係があったから、埋葬場所が語り継がれたのではないかと。本当は現地に行って感謝したいぐらいなんですが、この体でどうなるかわかりませんが、体調を整えて、現地に行くことができれば

兄・直人さんの遺骨について有力な情報を得た槌田さんは、熊本市内にある槌田家の墓に足を運んだ。

報告後、槌田家の墓に足を運んだ
報告後、槌田家の墓に足を運んだ

熊本市西区在住 槌田春義さん(91):
お盆に墓参りに来ますけど、ここに遺骨が入っていないのが悲しくてしょうがなかったんです。今度、ここに入ってもらうよ

熊本県ブーゲンビル島会では今回の調査結果を厚労省などに報告し、1日も早く遺骨収集がおこなわれるよう働きかけるということだ。

(テレビ熊本)

テレビ熊本
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