日本大学アメリカンフットボール部の学生寮から覚せい剤と大麻が見つかり、部員が逮捕された事件で、8日、日本大学の林真理子理事長らが記者会見を行った。

2時間以上に及んだ会見で何が語られて何が分かったのか、その発言から振り返る。

理事長は何を語るのか

会見では冒頭、アメフト部が捜索を受けて部員が逮捕されこと、学生や関係者らに迷惑と心配をかけたこと、また会見まで時間を要したことについて、「心から深くお詫び申し上げます」と林理事長ら3人が頭を下げた。

強豪として伝統と実績を持つ日大アメフト部で覚せい剤と大麻所持の違法薬物事件がおきた以上、会見が謝罪から始まるのは自然な流れだ。ただ学生1人の逮捕についての会見が、ここまで注目されることは異例だ。

会見で謝罪する林真理子理事長
会見で謝罪する林真理子理事長
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それは2018年のアメフト部の危険タックル問題をきっかけに明らかになった、元理事長のワンマン体制の弊害が脱税事件で終焉し、昨年、新体制のトップに作家の林氏が就任した経緯が大きな耳目を集めてきたからだ。

また薬物疑惑が発覚して以降、またもアメフト部を舞台にした事件での、これまでの大学側の対応にも不信感が生まれていた。

林氏がいったい何を語るのかが会見の最大の注目点だった。

お飾りの評価は残念

謝罪のあと席についた林氏はまず、警視庁が学生寮の家宅捜索に入る前日の取材で、「違法薬物が見つかったことは一切ない」と発言したことについて、「違法薬物が発見された事実は確認できていない、という内容を伝えたつもりだったが、確かに私の発言は言葉足らずで唐突だったと反省している」と自身の発言について語った。

日大アメフト部寮のへの家宅捜索(東京・中野区 8月3日)
日大アメフト部寮のへの家宅捜索(東京・中野区 8月3日)

そして「理事の中に旧体制の勢力が残っていて、私がお飾りの理事長であるという報道があるが、そのような評価はとても残念に感じている」と自らの評価への不満を口にした。
続いて理事長に就任した経緯やガバナンス確立の取り組みについて説明し、「ガバナンスが相変わらず欠如しているとか、旧体制と変わらないと評価されることは誠につらく残念でなりません」とあらためて訴えた。

疑惑のポイントは語られたか

この日の会見のポイントは2つ。ひとつは7月6日に学生寮の部員の部屋から違法薬物とみられるものが見つかったあと警視庁への届け出が12日後だったこと。もうひとつは、昨年から部員が大麻に関与しているとの情報が保護者からあったことを受けて、大学側がどのような対処をしていたのかについての説明だった。

もちろん、林氏が詳細をすべて把握していないことは分かるが、大学に再び不審の目が向けられているポイントについての言及はここではなかった。

会見に臨む日大の酒井健夫学長
会見に臨む日大の酒井健夫学長

このあと会見を引き取った酒井健夫学長はこの2点について経緯を説明したが、警察への相談が12日後だったことについては「違法薬物との確証がなく、ヒアリング調査を進めた」という回答にとどめた。
また昨年11月に部員から「大麻とみられるものを7月頃に吸ったと申告があった」ことを新たに明らかにしたが、警察関係者に相談したところ、「物的証拠がなく時間が経っているので立証は困難」との回答があったので、厳重注意で終わったというものだった。

ここまで約20分、記者との質疑応答に入る前に司会からは「本件は競技スポーツ部の事案なので、統括する学長と副学長を中心に回答する」とお断りが入る。

事件の経緯は副学長に

質疑では最初に「12日後に警察に届けたのは適切だったのか林理事長に聞きたい」という焦点となる質問があったが、林氏は自分が事案を知った状況を簡単に述べた後、「経過については澤田副学長からあると思う」として、それ以降の事件についての質問はほとんど澤田康広副学長が回答することになった。

記者とやり取りする澤田康広副学長
記者とやり取りする澤田康広副学長

元検事である澤田氏は違法薬物発見の状況について、「小さなビニール袋・パケの中にあったものは大麻のかすかもしれないと思った」と違法薬物と認識していたと語る一方、「自首させたいと考えていたのでヒアリングを進めた」と警察に届けなかった理由を話した。
その後も記者からは、早く警察に届けるべきでなかったのかという質問が再三あったが、澤田氏は「自首させるという判断で届けなかった」という回答を繰り返し、違法薬物は自分の責任で学内に保管していたと語った。

そうした澤田氏の判断の是非について問われた林氏は「適切だったと思う」と答えた。理事長と学長の役割分担があり、スポーツは学長がトップで判断は任せているので、情報が自分に上がってこないこともあるとも話した。

会見が、家宅捜索や逮捕から数日後になったことや、警察への届け出が遅れたことについて「隠蔽ではないか」という質問があったが、林氏は語気を強めて「隠蔽と言われることは遺憾で、土日も挟んでいたし、情報をきちんと把握していなかった」と話した。

警察への届け出の遅れについても、「聞いたときはびっくりしたが、澤田氏の学生を自首させようという気持ちに納得したので、隠蔽とは捉えていない」と語った。

遅れた情報共有

薬物の発見経緯やアメフト部に関する質問は、澤田氏が回答する役割だったとみられる。警察への届け出が遅れた経緯や、昨年の部員の申告後の対応などに質問が集中し、ほとんど澤田氏が答えたため、会見の大部分は澤田氏と記者のやりとりとなった。

そして警察への届け出は、林氏への情報提供の手紙がきっかけで、それがなければさらに遅れていた可能性があることも分かり、警察に届けなかった疑念は解消されなかった。

日大アメフト部の寮(東京・中野区)
日大アメフト部の寮(東京・中野区)

また林氏が寮で違法薬物が見つかった報告を受けたのは発見から7日後、大麻使用の自己申告の報告も最近のことで、大学の信頼に関わる問題の情報共有が遅れてていたことも明らかになった。

日大はスポーツ界の人脈を駆使して地位を築いた元理事長の長期体制が権力の腐敗を招き、危険タックル問題をきっかけに信頼が失墜した。

またもアメフト部で起きた事件は、今後の展開によっては「日大は変わっていない」とみられる可能性がある。

その立て直しの陣頭指揮をとる林氏には「お飾り、ガバナンス欠如、隠蔽」という評価への反論だけではなく、疑念が持たれていることについてトップとしての率直な言葉が求められていた。

「問題はスポーツだった」

そして会見開始から2時間が経ち、質疑の終了時刻が近づいた時、ようやく林氏が本音とも取れる思いを語った。

「就任してからスポーツは副学長、学長に聞く立場で、はっきり申し上げて遠慮があった」

「一番重たい問題を抱えていたのはスポーツの分野だったと、皆さんの質問から認識した」

「もっとぐいぐい行くべきだった」

スポーツ関連に「遠慮があった」と述べた林理事長
スポーツ関連に「遠慮があった」と述べた林理事長

林氏は人事や旧執行部への訴訟などを追われ、スポーツを後回しにしたのは事実だと認めた上で、スポーツ部門の改革への決意を口にした。

会見で明らかにされた大学の対応については一部、警察の認識との相違があることが分かり、今後の捜査で新たな事実が判明する可能性もある。

大学側が事実関係を再び説明する状況になったときは、信頼回復につながる率直な言葉で語られる記者会見を期待したい。

【執筆:フジテレビ解説委員室室長 青木良樹】

青木良樹
青木良樹

フジテレビ報道局特別解説委員 1988年フジテレビ入社  
オウム真理教による松本サリン事件や地下鉄サリン事件、和歌山毒物カレー事件、ミャンマー日本人ジャーナリスト射殺事件をはじめ、阪神・淡路大震災やパキスタン大地震、東日本大震災など国内外の災害取材にあたってきた。