原子力発電所から出る「使用済み核燃料」を一時的に保管する「中間貯蔵施設」を巡り、関西電力と中国電力が共同で山口県上関町に建設できるか調査したいとの意向を示した。
中間貯蔵施設とはそもそもどういう施設なのか、どんな課題があるのか。原子力・核燃料サイクル政策などを専門とする、明治大学大学院の勝田忠広教授に聞いた。

「中間貯蔵施設」 "中国電力の誘い"は渡りに船
現在の政府の原子力政策について、どのようにお考えなのか?
明治大学大学院 勝田忠広教授:
日本は世界でも有数の原子力を積極的に推進している国です。しかしながら今回の中間貯蔵施設の話のように多くの問題をはらんで、難しい政策を持っている国だと思っています

「中間貯蔵施設」とは、使用済み核燃料を一時的に保管する場所。
・現状、使用済み核燃料は各原発の中のプールにたまり続けている
・高浜原発のプール容量は約81%が使用されていて、4年半後には満杯になる予定だ
関西電力にとって中国電力の誘いは渡りに船だった。中間貯蔵施設を山口県上関町に作ろうと計画、調査したいとしています。ちなみに東京電力は青森県むつ市に同じような施設を作っていて、 本年度中に事業を開始する予定です。

使用済み核燃料が原発のプールにたまり続けているということですが、日本全国の原発で起こっている問題なのか?
明治大学大学院 勝田忠広教授:
その通りです。多くの原発がありますが、そのほとんどがもう10年、もしくは10年以下で満杯になるという危険な状況になっています
そもそも原発を作る時に使用済み核燃料が出ることは分かっていて、処理ができなければたまり続けることも想像できたはず。最初に原発を作る時にどういった理屈で動き出したのか?

明治大学大学院 勝田忠広教授:
まず日本の計画として、だいたい数年後に、使用済み燃料を青森県六ケ所村に送り、すぐ再処理をスタートする計画でしたので、中間貯蔵施設はそんなに必要がないという考え方がありました。あと原発が置かれた県では、建設当時、原発を受け入れるが、使用済み燃料は県内に置かないことを条件として受け入れますといった話がありました。中間貯蔵施設は“迷惑施設”みたいな面があり、中間的に置くというのはイメージが悪いこともあって、そういう計画はなかったという言い方ができると思います
山口県の施設が実現するとなれば安全に運べるものなのでしょうか?
明治大学大学院 勝田忠広教授:
かなり難しいです。セシウムやプルトニウムなど多くの放射性物質を含んでいますので、十分安全に輸送しないといけません。交通事故、あるいはテロリストの攻撃に合わないように、基本的には厳密に海上輸送すると思います

日本の「核燃料サイクル」は破綻
中間貯蔵施設について「迫られる原発政策の見直しと議論 国が掲げる“核燃料サイクル”の破綻 このままでは“長期化”のおそれ」と勝田教授は考えている。
「核燃料サイクル」とはどういったものか。

・原発を稼働させると使用済み核燃料が出てくる
・この使用済み核燃料を再処理工場に持っていき、再利用するためにプルトニウムを抽出。
・そのプルトニウムを核燃料加工施設に持っていき、ウランと混ぜてMOX燃料にする。
・このMOX燃料は原発で再利用できる
プランとしては、理想的なサイクルが考えられていた。
しかし「核燃料サイクル」には問題がある。
・まず再処理工場はトラブル続きで稼働できていない。
・さらに核燃料加工施設も建設中で進展していない。
この「核燃料サイクル」は破綻しているということだ。
明治大学大学院 勝田忠広教授:
技術的に止まっていますが、そもそも計画の前提が崩れている事を言うべきだと思います。以前の予想では世界的に原発が増加し、ウランが不足するので使用済み燃料を再利用しようという計画だったんですが、現在では原発が予想通りに増えておらず、ウランはそのまま使っても十分ある状態です。

明治大学大学院 勝田忠広教授:
そして本来、MOX燃料は高速増殖炉で使う予定だったんですが、実験炉「もんじゅ」は中止になっている。そこでMOX燃料を原発で使うように再計画したが、福島の事故の後、原発の利用計画も停滞している。すなわち需要自体がなくなってるという意味で、破綻していると言っていいと思います
それでも政府の考えでは、「核燃料サイクル」のまま変わっていないのですね?
関西テレビ 加藤報道デスク:
政府としては、2030年に二酸化炭素の削減目標を設定し、2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにしていく方針があります。そのために化石燃料を主体とした産業構造から脱却して、原発を稼働させていこうという考えがあるわけです。ですので6月にも西村経済産業相が『このまま核燃料サイクルは推し進めていく』と強調していました。国としては原発を進めていきたい思いがある中で、この核燃料サイクルという考え方を残していく必要はあるのでしょうか

明治大学大学院 勝田忠広教授:
柔軟に考える必要があると思います。原発を停止し続けることと、使用済み燃料をどう核燃料サイクルにのせるかという話とは全く切り分けて話してもいいと思います。再処理しなくても原発の利用を続けることは可能ですから、計画をちゃんと見直すことが必要だと思います。私は核燃料サイクルに問題があると捉えています
世界では再処理せず“直接処分・最終処分”の流れ
世界で使用済み核燃料がどう扱われているかについて、例えばフィンランドでは日本とは考え方が大きく異なり、原発から出た使用済み核燃料をリサイクルするのではなく、地下深くに埋めて処分することにしているということだ。

地下400mよりも深く、花こう岩の地層までトンネルを掘り、約50年から60年分の使用済み核燃料を鋼鉄製のカプセルに入れ、コンクリートで埋め立てて永遠に封じ込める計画だということだ。

世界の原発事情を見ますと、再処理から撤退する動きが出てきて、そのまま処分するためにどうすればいいのかを話し合っている段階だ。
フィンランドだけでなく、スウェーデンでは処分地を決めていて安全審査中ということ。フランスも今、精密調査をスタートしている段階だ。
明治大学大学院 勝田忠広教授:
海外では“直接処分”という言葉を使っていますが、世界ではプルトニウムを分離することによって核兵器に転用される危険性に気付いて、アメリカを中心に再処理の計画を中断しています。またMOX燃料の経済性のなさにも気付いています。

明治大学大学院 勝田忠広教授:
仮に再処理をしたとしても、危険な高レベル放射性廃液が出ますので、やはり処分はしないといけないわけです。そういう意味では長期的に管理することを考えると、再処理のような余計なことをせずに、そのまま直接処分した方がいいだろうという考え方になっていると思います
核燃料サイクルのシステムができておらず、費用対効果も悪いことに世界は気付いている状況ですので、日本も最終処分に政府の方針を転換することを促さないといけないのではないでしょうか?

明治大学大学院 勝田忠広教授:
その通りだと思います。まず政府がこれまでの核燃料サイクルの計画の過ちを正直に認めて謝罪することだと思います。そうすればおそらく国民は安心して、また信頼性も上がると思います。その上で現実にあった計画を再構築すれば、賛成・反対で対立するのではなく、冷静な議論が可能になると思います。原子力発電を推進したいのであれば、核燃料サイクルを見直すことも可能かと思います
フィンランドの最終処分場の例がありますが、日本は地震国であり地質も違うので不安に思う方がいると思う。日本でも地中深くに埋めて最終処分すれば、リスクはほぼゼロに近くなるのか?
明治大学大学院 勝田忠広教授:
リスクがゼロというのはないと思います。極端な言い方になるかもしれませんが、人間の手には負えないために地下深く埋めて、自然の力に任すという考え方もあります。日本の特徴として火山も多く水資源も豊富なので、大変な状況でありますが、やはり世界的な考え方として自分の国で出したものは自分の国で処分しようということになっていますから、何らかの解決策は出さないといけないかと思います

最終処分地として手をあげる地域などあるのか?
明治大学大学院 勝田忠広教授:
原子力発電を積極的であれ、消極的であれ、受け入れてしまった私たち日本人の責任として、やはりどこかに答えを見つけないといけない話だと思います。別の言い方をすれば、もし原発を止めたいのであれば、既にある使用済み燃料が消える訳ではありませんので、誰かが受け入れるからこそ脱原発をしてということもできるかもしれません。冷静に、柔軟にいろんなことを考える必要があります
■原発が稼働しないと電力は足りなくなるのか?
視聴者からこんな質問が届いた。
Q.原発の稼働がないと日本の電力は足りなくなるのですか?
明治大学大学院 勝田忠広教授:
日本のエネルギー政策そして各電力会社の供給計画では、原子力発電の比重が非常に高かったので、そういう意味では依存していた原発の計画を突然変えると、当然電力は不足する可能性があると思います。

明治大学大学院 勝田忠広教授:
しかし福島第一原発事故で原発が一時停止しましたが、極端に足りなくなることはなかったわけです。もちろん火力発電を動かすという対策はありました。短絡的に電力が足りなくなると考える必要はないかと思います
2030年代にはクリーンエネルギーに100パーセント転換したいというのが、日本の方針だと思いますが、実現できるのか?
明治大学大学院 勝田忠広教授:
結局こういうエネルギー政策の問題は、“できるかできないか”ではなく、“やるかやらないか”の話だと思います。私たちがどういう理想を持って、どういう世界を次世代に伝えるか、意識を持っていればできないことはないと思っています

(関西テレビ「newsランナー」2023年8月9日放送)