およそ5カ月前、44年の歴史に幕を下ろした洋食の名店が復活した。この春、店主の病気などを理由に閉店した長野県松本市の「盛よし」。事業を受け継ぐ会社が現れ、当時のシェフたちが再び働けることになり8月2日、復活を果たした。しかし、吉報が届く前に店主はこの世を去った。息子はまだ専門学校生、いずれ母の思いを背負って店に立ち、味を守るつもりだ。

「盛よし」で40年以上働いてきた長谷川さん(右)、20年以上働いてきた重沢さん
「盛よし」で40年以上働いてきた長谷川さん(右)、20年以上働いてきた重沢さん
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閉店5カ月…洋食の名店が復活

ジューシーなハンバーグに、クリーミーなカニコロッケ。

訪れた客は「おいしい。一味も二味も、やっぱ違う」と話す。

松本市の洋食店「民芸レストラン 盛よし by onion」。

2023年3月、店主の病気などで閉店したが、およそ5カ月後の8月2日、復活を果たした。

シェフ・長谷川良昭さん:
約5か月ぶりの「盛よし」なんですけど、とてもうれしく思います。本当にこれからですね。まだ始まったばかり、第2の「盛よし」

「民芸レストラン 盛よし by onion」
「民芸レストラン 盛よし by onion」

店主が病気…44年の歴史に幕

「盛よし」は1979年にオープン。幅広い世代に人気の洋食メニューと松本民芸家具が並ぶ落ち着いた店内が、長く市民から愛されてきた。

しかし、創業者の須沢盛義さん(72)が病気で2022年8月から店に立てなくなり、後を継いだ娘の忍さん(46)も体調を崩し2023年3月、44年の歴史に幕を下ろすことに。

創業者・須沢さんの後を継いだ娘の忍さん
創業者・須沢さんの後を継いだ娘の忍さん

店主の息子「プラスに考え頑張る」

2023年3月、長年の感謝を込めた「弁当」を販売すると、300人以上が長い列をつくった。

弁当を購入した男性は、「一生忘れないように、かみしめて食べたい」と感慨深そうに話した。

この時、手伝っていたのが忍さんの息子・洸一郎さん(19)。

忍さんの息子・洸一郎さん:
これは僕は正直マイナスと捉えるのではなく、プラスに考えて頑張っていきたい

300人以上の行列ができた「盛よし」(2023年3月)
300人以上の行列ができた「盛よし」(2023年3月)

閉店から4カ月の7月15日―。

店の机や椅子に染みついた油を落とす洸一郎さん。

忍さんの息子・洸一郎さん:
汚れ一つ一つに心から感謝しながらきれいにして、未来のお客さんのためにきれいにしていくのが僕の仕事、頑張ります

客を迎えるための準備が始まった。

復活に向け準備する洸一郎さん
復活に向け準備する洸一郎さん

千葉県の会社が事業受け継ぐ

実はウェブサイトの製作などを手がける千葉県の会社が、事業を受け継ぐことを表明。創業者の須沢さんからレシピを受け継ぎ、復活することが決まったのだ。

社員に「盛よし」のファンがいたことがきっかけだった。

オニオン新聞社・浅川和也さん:
カニコロッケとか大好物で近くを通って席が空いていたら、いつもいただいてるような形だった。お客さまにがっかり感を与えないように同じ味、同じレシピ、同じメニューで続けていくことが大事かな

事業を受け継いだ「オニオン新聞社」の浅川さん
事業を受け継いだ「オニオン新聞社」の浅川さん

吉報が届く前に母が亡くなる

しかし、この吉報が届く前に、洸一郎さんの母・忍さんは亡くなった。(享年46)

洸一郎さんはまだ専門学校生。いずれ母の思いを背負って店に立つつもりだ。

忍さんの息子・洸一郎さん:
本当に急な別れで悔しくて悲しくて寂しかった。心の中には常に母親がいると思って、母の分まで笑顔に幸せにできたら

忍さんの息子・洸一郎さん
忍さんの息子・洸一郎さん

当時のシェフが味守る

再出発が近づいた7月30日、厨房では看板メニューの一つ「カニコロッケ」の仕込みが進んでいた。

仕込むのは40年以上、ここで働いてきたシェフの長谷川良昭さん(60)。

シェフ・長谷川良昭さん:
思い出しながらやってる感じかな。何十年もやってたことなので、体が覚えてるじゃないけど。突然の閉店だったので、本当にぽっかり穴が空いた感じでした。社長(須沢さん)が築いてきた味は、私たちも引き継いでいかないと

人気メニュー・カニコロッケの仕込みをする長谷川さん
人気メニュー・カニコロッケの仕込みをする長谷川さん

店の味は長年働いてきた長谷川さんと、もう一人のシェフ重沢利樹さん(47)が引き続き守っていくことになった。

シェフ・重沢利樹さん(47):
とにかく再現できるか不安はあるけど、今までのお客さんにも満足してもらえるように、新たに来るお客さんも満足してもらえるような、そういうお店にしたい

「盛よし」で20年以上働くシェフ・重沢利樹さん
「盛よし」で20年以上働くシェフ・重沢利樹さん

創業者「先が明るくなった」

翌日、創業者の須沢さんが久しぶりに店へ。料理を味見した。

創業者・須沢盛義さん(72):
点数で言ったら60点くらい。お客さんにも支持を受けてると思うし、今まで通りやっていただければ大満足です。仕事ばかだったもので、(店を)失うこと自体がものすごくつらかった。こういう日が迎えられることは、先が明るくなったような気がして本当にうれしい

味見に訪れた創業者の須沢盛義さん
味見に訪れた創業者の須沢盛義さん

迎えた8月2日のプレオープン。まず予約制でスタート。

訪れた客は、「昔のやわらかいハンバーグのままで、とてもおいしい。息子にもこの味を食べさせられてうれしい」と満足そうに話す。

5カ月ぶりに「盛よし」に活気が戻った。

にぎわう店内
にぎわう店内

シェフ・長谷川良昭さん:
久しぶりの感覚なので眺めはいいです。お客さんのうれしそうな顔が見えるので

味も店内の雰囲気も昔のまま。

「盛よし」は8月18日、グランドオープンする。

シェフ・長谷川良昭さん:
松本といえば「盛よし」と皆さんに愛してもらえるお店に、今までのようにやっていけたらなと思う

8月18日、グランドオープン
8月18日、グランドオープン

(長野放送)

長野放送
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